第127話 大灯台へと至る道
コーヒーの香りが鼻腔を擽る
砂糖を多めに入れたので香ばしさと共に何時もより甘い香りが混じっている。
本当に良い香りだ、飲む度に思うが、この豆を教えてくれたハインツじいさんには感謝だな。
寒さが増す事に比例するかの様に温かいコーヒーの美味さも増す。
寒いと言うのは悪い事ばかりでは無い。
あの日、秋から冬に向かっている最中で、風が冷たさを日に日に増して行く中で大灯台へと行った。
だがあの日は冷たさは余り感じなかった気がする。
多分風が何時もより緩やかだったからだろう。
「ネイサン様、近くで見ると大灯台は天まで届くようなのです、マデリンは今から空へと行くのですわね」
「ええ、そうです、しかし空は寒い、ストールを羽織って居た方が良いでしょう」
マデリン嬢はファーショールを肩に羽織ったが、
モフモフの毛が内側に付いており、ぬいぐるみと言うか、お人形さんみたいだ。
今日は風が余り無いからか下に居るとそこまで寒さを感じないが、篝火部屋は下より確実に寒い。
今居るこの地上に比べ確実に風が強くなるからな、
寒さ対策は必要だ。
ポートマン家の皆がそれぞれ防寒対策をして居る、
今から身に付けていると少し早いかも知れない、
だが早めに身に付け温かい位で行けば丁度良い。
「ネイサン様、人が少なくなりましたわ」
「ええ、此方は大灯台で働いて居る職員と、隣接、隣にある要塞に詰めている軍人達の出入口ですからね」
大灯台の入り口は、外門、中央門、内門の三重になっており、バハラ側の陸地と海側を囲む様に城壁で守られている。
うん、壁って言うより城壁だよコレ。
そして門付近は側防塔が左右に備えられている。
まぁ、防壁には側防塔塔が等間隔でその存在感を示すが如く備えられて居るが、正面門は特に防御施設が備え付けられている。
てか防壁も三十メートルを越える高さだし、
どんな大軍が来ても跳ね返せると言われては居る。
とは言え軍事技術が、科学が発展すれば簡単に突破されるだろうがな。
だが現在の軍事技術や科学技術では、難攻不落と言うのも決して大言壮語では無く、只の事実でしかない。
この大灯台を解体、まぁ倒しての解体の時に防御壁が邪魔だな‥‥
壁が無ければ更に簡単に倒せるが‥‥
とは言え今ある大灯台を壊して新たに造るとしても、その間は灯台の篝火が無い状態になる。
当然新たに造り、それの完成を待ってから解体する事になるので、バハラから灯台の篝火が途絶える事は無いだろう。
造り替えるのであれば余り問題ないか?
大体だ、大灯台だって永遠に朽ちる事が無いままここにあり続けるなんてあり得無いんだ。
なら何時か解体しないといけない。
てかこの防御壁もそうだが、それ以上に軍の施設の老朽化が著しい。
改修や補修を行ってはいるが、ちとばかりガタが来始めてるんだよなぁ‥‥
大灯台の解体も視野に入れ、将来の事を考えるのは当然の事なんだが‥‥
バハラに地方行政を学ぶ為に派遣された特級官吏が、誰もその点について言及して無いってのが俺に言わせればおかしいんだ。
来年帝都に帰ったらレポートの提出があるが、
何故あれだけ提出された特級官吏のレポートには大灯台の解体の件についての言及が無かったんだ?
バハラに派遣された特級官吏のレポートは、かなりの割合で大灯台に関する物だったのに、解体や解体方法の提言が無い。
単に考え付かなかっただけか?
まぁ良い、俺が提出するレポートは変わらん、
大灯台の解体方法についての提言だ。
必ず何時かは必要になる物だからな。
おっと、今日は案内してるんだ、そちらに気を使わなければ。
しかしマデリン嬢が静かだな、ん?
「マデリン嬢、壁を見て居るみたいですが?」
「ネイサン様、お家の近くにある壁より色々付いてます、それにここの壁は高い気がしますわ」
「あー‥‥ 少し高いかも知れませんね、それにあの出っ張りは側防塔と言いまして、内壁より付いている数は確かに多いですね、ここは軍の施設、軍人さん達が居る所でもありますから」
「あー、軍人さん達のお家なのですね、だからマデリンのお家の近くにあるのとは違うのですね~」
お家‥‥ うん、確かに間違ってはいないな。
言われてみれば確かにそうだ、お家だわ。
まぁ、かなり物騒なお家ではあるがな。
後ろを見るとポートマン家の皆も防壁を見て居る、
確かに珍しいとは思うが、だが大人組はこの辺りまで来た事が無かったのだろうか?
うん、無いんだろうな、防壁付近は屋台を出すのは禁止だし、人も居ないし、何より防壁を巡回している軍人達が警戒する様に見てくるからなぁ‥‥
そら普段はマジマジとは見れんわな。
おっ、着いたか。
「バハラ行政府預り参議、ネイサン・サリバン特級官吏だ、今日は客人を連れてきた、話は通ってるな?」
「はい、伺っております、申し訳ありません、許可証を提示して頂けますか?」
「ポートマン殿、許可証の提示と簡単な質問等がこの者達からあります、決まりでありますので御容赦を」
「勿論です」
まぁ国の施設だし軍事施設でもあるからな、
入る者のチェックは当然の事だ。
とは言え特級官吏たる俺の客人である、普段に比べチェック自体は極々簡単なものだし、許可証の偽造チェックが厳しく行われる位だろう。
後は中でやってはいけない事、禁止事項の説明と最終チェック、この最終チェックは不意打ちで行われる、まぁ咄嗟であっても正しく答えられるかの為で、結構効果的であったりする。
そして、違反した時の罰則の説明、及び違約時の扱い、それ等が終われば誓約書にサインをする。
それが終わればここで許可証を渡し、首から掛けてやっと終了だ。
「サリバン参事、問題ありませんどうぞお通り下さい」
「分かった、ご苦労」
中に入るまで厳重に調べられる、だがこれでもまだ簡単な方だ。
大灯台で働く職員ですらチェックは厳重だからな。
それこそ何十年も働いて居る奴に対してもだ。
だから職員達は早めに出勤している、ここで思わぬ時間を食い、遅刻するのは大灯台の新人職員のあるあるだ。
「ネイサン様、もしかして怒ってらっしゃいますの?」
「ん? 何故ですかマデリン嬢?」
「何時もとお話しの仕方が違いますし、マデリンとお話しされる時とは違います、だから‥‥」
あー まぁ確かにマデリン嬢、ポートマン家の人達に接する時に比べ違うな。
話し方も、口調も違うからそれでかな?
「マデリン嬢、私は怒って居ませんよ、私はこれでも一応は偉い官吏と世間、皆が思っております、
マデリン嬢のお父様が営まれて居る商会で言うなら私は商会長であるお父様か、番頭さんみたいな立場なのです、なのであの様な喋り方になるのですよ、
私にとってはここはお仕事をする所ですからね、
お父様と下働きの人間ではお父様の方が偉い様に、私も一応偉い人らしいのであの様なお話しの仕方になるのです、だから怒って居る訳ではありませんよ」
「そうなのですか? 本当に怒って無いのですか?」
「ええ、本当ですよ、マデリン嬢にウソを付いて居ません、だから大丈夫です、ただ先程も言いましたがここは私のお仕事をする所で、私は偉い人だと皆に思われて居るので、今日は先程みたいな喋り方になりますが怒っては居ないので気にしないで下さいね」
「はい、分かりましたわ」
ん、素直で宜しい、てか飲み込み早いよなマデリン嬢は、賢い子だよ本当。
しかしあれだな、ここでも皆見て来やがる。
俺がマデリン嬢と手を繋いで歩いて居るのがそんなに珍しいか? ああ、珍しいんだろうな。
大灯台の職員達だけで無く、軍人達も物珍しそうに見て来やがる。
まぁ、ドレスを着た可愛らしい幼女と手を繋いで歩いてたら確かに目立つわ、だがお前ら見過ぎなんだよ! てかコイツらまさかだが、俺が幼女趣味だと思ってんじゃ無いだろうな?
俺はロリコンじゃ無いぞ、どうせコイツら好き勝手に、面白おかしく噂話でもしやがるんだろうな。
本当コイツらよ~ 俺はおっぱいおっきい大人な女が好きなんだ、マデリン嬢は良い子だが流石に好みから外れ過ぎてる。
後二十歳プラスされてからなら俺も考えるが、六歳児は流石に無いわ、マデリン嬢は妹みたいなもんだからな。
うん、妹達も六歳位の時はこうだったし、昔の事を思い出すな、一緒に手を繋いで歩いた事とか‥‥
まぁ来年は帝都に帰還するんだ、後少しだな‥‥
「ネイサン様、大灯台はあの箱に乗って上に行くのですか? 落ちたりしませんか? 大丈夫ですか?」
まぁ初めて見たら心配にもなるか、マデリン嬢は荷物用の昇降機を見て居るが、結構揺れてる様に見えるからな。
まぁ多少は揺れるが‥‥
「大丈夫ですよ、それと乗るのはあれでは無い別の箱です、私達が乗るのはガラス窓があって外が見えますから楽しみにしておいて下さい」
「はい‥‥」
ありゃりゃ、ちょっと怖がっちゃってるけど大丈夫かな?
景色は良いんだよなぁ、景色は。
多少は揺れるが、大丈夫だよな?