第123話 フィグ村の兄と妹
秋晴れの早朝ハンナが鳴いて居る
てかコイツは何でついて来たんだ?
まぁ気まぐれ何だろう。
フィグ村からの人員を受け入れ、
現在旅芸人が芝居を行う舞台を設置中だ。
昨日の夕方前に一座は到着し、舞台の準備を行って居た。
そして現在舞台は完成間近だ。
昨日は掃除の最中なのに到着した一座を皆が見に行ったが何が楽しいのだろうか?
多分だが野次馬根性なんだろうな。
まぁ俺も今見に来てるから偉そうな事は言えない訳なんだが。
散歩がてら村までわざわざ来たが他にも村民で見物してる奴が居る、何時もと違うこの光景を見ると言葉がおかしいが嫌でも祭りの空気と言うか、熱気が伝わって来るな。
昨日の前夜祭と言うべき灯台の掃除で盛り上がった気分が更に高まった気がする。
祭りか、屋台が無いのは少し寂しいな。
前世では祭りと言ったら屋台が楽しみだった。
たこ焼き食べたいな‥‥
祭りの時、何時も屋台を出してたベビーカステラも食いたい、わたあめですら懐かしい。
カルメ焼きのおっちゃんの作るあの美味さよ、
自分で作るといまいち何だよなぁ。
同じ様に膨らんでも歯応えも少し物足りないし、
旨味にコクがな~んか物足りないんだ。
あれは祭りの雰囲気ってのも味に影響してるんだろうな。
そーいや、飴細工も祭りに行ったらよく買ってたなぁ、結局勿体なくって何時までも飾ってて。
なーんか食うのが勿体なく思って食わないまま飾ってってのが多かったっけ?
たこ焼きはソースがあるし、ベビーカステラも材料は全部揃ってるから作ろうと思えば作れるが‥‥
駄目だな、やっぱ祭りのあの雰囲気があるからこそだよ、カルメ焼きだってそうだ。
空気ってか、雰囲気は本当大事なんだって事だな。
飴細工は帝都にもバハラにもある、
飴細工職人が器用に作ってたな。
前世の飴細工職人にも勝るとも劣らない熟練の技で作るんだ。
姉や妹達も大好きだった。
特に飴細工職人が作る所を見るのが好きだったなぁ
俺達は飽きもせず、ずーっと見てるから両親は何時も困ってたな。
シドをはじめ護衛の皆は苦笑して何時も俺達を見てた、多分よく飽きないなと思ってたんだろう。
実際何時も長い事見てた、俺は自分で商売をして居たから金はあったし、飴細工の職人に延々作らせてたからな。
アレは本当に見飽きない、結局何時もアホ程買い込んで護衛のシド達や従業員にお土産で渡してたが、皆喜んで居た。
うん、飴細工職人の技術は正に匠の技だった。
見飽きる事等無かったな、アレもこの世界の家族との楽しい思い出の一つだ。
まぁ両親は毎回ため息吐いて諦めの顔してたが‥‥
『あー やっぱりか‥‥』
『やっぱりこうなった』
『又長くなる‥‥』
何ていっつも言ってたな‥‥
ん?
「ハンナどっか行くのか?」
「ニャァ」
「ハンナお前最近、軽返事が多いな」
ハンナが村の中に歩いて行った、
コヤツも祭りの熱気に浮かされて居るのだろうか?
まぁ良いだろう、猫だって楽しむ権利はある。
とりあえず灯台に一旦帰ろう、フィグ村の奴達に指示もしなければならないしな。
灯台に付属している建物の調理場は活気に包まれており、女衆達の朗らかな声が飛び交って居た。
そんな中、女衆について来たフィグ村の若い男衆達が居た、皆若いが一人年配の男が居る、
多分フィグ村から来た者達の纏め役なんだろう。
ふと一人の若い男が見えた、アイツ‥‥
コイツらが来た時から思って居たが全身のバランスが良い、体幹が良いと言うか、動きがしなやかで流れる様な動きをして居る。
背は普通位か? だが全身の筋肉の付き方のバランスも良い、やはり体幹が良いからだろう、武術をやらせればそこそこの使い手になるな。
顔は‥‥ 悪くは無いな、男前とは言わん、だが悪く無い顔だ。
ここに来て居ると言う事は独身で顔見せの為に来た一人と言う事だ、うん、悪く無いな。
「おい、リドリーだな、ちょっと話がある」
「えっ、何ですか?」
「まぁそう構えるな、名字では無く名前がリドリーってのが珍しかったんでな、それで声を掛けたんだ」
「あー そう言う事ですか、確かに名字じゃ無く名前でリドリーってのは珍しいみたいですね」
うん、リドリーってのは名字に多い、名前でリドリーってのは結構珍しかったりする。
よしよし、会話の良い切っ掛けになったな、
てか受け答えもしっかりして居る、良いじゃないか、天は俺を見捨てては居なかった。
「念の為に聞くがここに来たと言う事は独身で顔見せの為に来たんだな?」
「はいそうです、それと妹も来てるんで付き添いでもあります」
「おー そうかそうか、お前と妹は今歳はいくつだ?」
「俺が十九で、妹が十六です」
良いじゃないか、良いじゃないかね。
これは運命だ、そうだ、運命に違い無い!
コイツは色んな意味で使いモンになるやつだ、
緊縛‥‥ 捕縛術の良い使い手になるだろう。
捕縛術は覚えていて損は無い、てかもし村に曲者が出た場合、必ず役に立つ。
この辺りは平和だが何があるか分からんからな。
実際この前、街道に盗賊が出たんだ、
うん、危ないよな、俺がコイツに捕縛術を教えてやろう、弟子として捕縛術の何足るかを仕込んでやろうじゃないか。
そして捕縛術を習得した結果、お互いの同意があるのなら何をしても二人の間の事だからな。
そう、あの変態と同意の元、二人で何をしようがそれは二人の問題であって外野がごちゃごちゃ言うべき事では無い。
「おいリドリー、お前良い体つきしてんな、筋肉の付き方も良いし何より全身のバランスが良い、お前武術に興味ないか?」
「武術ですか?」
「そうだ、正確に言うなら捕縛術だな、ホレ、この前街道に盗賊が出ただろ? 何があるか分からんからな、覚えておけば便利だぞ、俺が一端の使い手にしてやろう、まぁお前をスカウトしてるって事だよ」
な~に困ってんだよ、君は本当に武術の才能もあるんだ、鍛えりゃかなりの使い手になるだろう、ついでにツラも悪くは無いし、歳もアレと近い、それにまともそうだし、しっかりもしてそうだ。
まぁあのフィグ村の村長が送り込んで来たんだ、
どこぞの村長を自称する奴とは違いおかしな奴は顔見せ要員にはしないだろう。
「捕縛術はな、相手を傷付けず取り押さえる技術もある、お前も男なら強さに憧れはあるだろ?
それに顔見せに来たって事はこの村から女衆が嫁に行く可能性も大きい、ならフィグ村が少しでも安全になれば俺も安心だ、まぁそれにお前は良いモン持ってるからな、鍛えてみたいってのがあるんだ」
「俺に武術の才能がある‥‥?」
よしよし、揺れてる揺れてる、もう一押しだ。
「あるな、さっきも言ったがお前は全身のバランスが良い、体幹もしっかりしてる、しなやかなんだよ、まぁ勿論やるもやらないもお前次第だ、だが俺に言わせればお前は良いモン持ってんだ、このまま捨てるにはかなりおしいな、まぁ今直ぐに決めなくても良いんだ、祭りが終わってから一週間後位に一回灯台に遊びに来い、酒とツマミ位出してやるから、お前酒は嫌いか?」
「あー 好きですね」
「おう、なら蜂蜜酒出してやる、まぁ深く考えるな俺の酒に付き合え、それと捕縛術に興味のある未婚の恋人の居ない人としての常識と思慮深い奴も何人か連れて来いよ、そいつらにも飲ましてやる、
あー そうだな、連れてくる人員の判断はお前に任せるが最終決定権はフィグ村の村長に委ねてくれ、
それと手紙を書くからお前から村長に渡してくれるか? 俺が何故判断をお前と村長に任せているか、何故未婚や恋人が居ない、それに常識や思慮深いって言ってるか分かるかな?」
「そうですね、未婚や恋人が居ないってのはハルータ村の未婚の娘との将来を考えてで、人としての常識と思慮深いってのはおかしな奴に教えたら悪用するかも知れないからかな? 村長に最終的な判断をってのは村長から見てフィグ村の評判を落とす‥‥ 問題があると思ってる奴をハネる為かな? 蜂蜜酒は‥‥ 単純に美味いから?」
良いぞ良いぞ、コイツは良い!
マジでめっけもんだ、頭も悪く無い、それに若いなりに思慮深いし素直でもある。
うん、蜂蜜酒は美味いよな、まぁそれ以外の酒も出してやるしツマミもたっぷりと出してやる。
「そうだ、まぁ捕縛術ってのは悪用されたらとんでも無い事になる、自分の武に酔う様な奴には教えられん、まぁ出す酒には酔ってくれて構わんぞ、ただ悪酔いは勘弁してくれよ」
酒癖の悪い奴は駄目だ、酔って教えた武を使われたらたまらんし、そんな事でうちの流派を汚されたくは無い。
まぁその辺りもコイツとフィグ村の村長が判断するだろう、手紙を書かなきゃな。
おっ、リドリーの奴が笑ってる、これは苦笑かな?
「分かりました、ご馳走になります、来週一回来させて貰います」
「おう、待ってる」
ジル、良かったな、お前の旦那候補が出来たぞ、
心配しなくてもきっちりとコイツには仕込んでやる、お前も大満足な、もう二度と離れられなくなる位にちゃーんと教えてやるさ。
ああ、天は俺を見捨てては居なかった、
俺の祈りが天に届いたんだな。
これは俺の日頃の行いが良いからだろう、うん、
常に清く正しく生きて来たからだな。
「ねえ兄ちゃん」
「ん? どうしたリタ?」
「何かハルータ灯台の守長さんと話してたから何だろうって思って」
「お前なぁ、仕事をさぼって‥‥」
「皆には言って来たから大丈夫だよ」
ん? コイツの妹か?
「あー‥‥ 守長さんコイツは俺の妹のリタです」
「初めまして、リタだよ‥‥ です、今日は手伝いに来まして? えー‥‥ 来ました、よろしくお願いします」
「ああ、この灯台の灯台守長をして居るネイサン・サリバンだ、今日は手伝いに来てくれて助かったよ」
「知ってるよ、です、村で何回か見た事あるから、話しするのは初めてだけどですね、手間賃に大銅貨五枚も貰えるんだもん、私こそお礼言いたいよ」
「リタ、お前もう少し言い方を考えろ、それと敬語が変だぞ」
「そ~お? 変かな?」
うん、一応は俺に気を使って一生懸命敬語で話しをしようとしてるから不快感は全く無いな。
てかまだ十六だ、ギリギリ子供と言えなくも無い、
まぁ大人と子供の境界線に居る年齢だな。
活発そうな子だな、元気いっぱいって感じだ、
まぁ若さがそうさせるんだろうな、何かこんな事を思うって我ながらおっさん臭いな‥‥
「ねえねぇ、守長さんって気前良いよね~ 手間賃に大銅貨五枚もくれる何て」
「おいリタ、もっと考えて喋れ、ぶっちゃけ過ぎだぞ」
「そ~お? 私ちゃんと考えて喋ってるよ」
あっ、リドリーがため息吐いた、まぁ少し明け透けな感じはするが悪意は無いし、この辺りでは皆こんなもんだからな。
「リドリー、別に俺は気にしてない、まぁ祭りに手伝いに来てくれてるんだ御祝儀だよ、それとリタ、昼には皆に穴空きを出すからな」
「本当に? やった~ 私皆に教えてくるね、守長さんありがとうね」
そう言うと走って去って行った、元気良い子だな、
そしてリタから聞いたのだろうフィグ村の女衆から歓声が上がった、皆口々に穴空きって言い喜んで居る。
チーズも高級品だからな、そら嬉しいだろう。
「守長さんすいません、妹はちょっと元気過ぎると言うか、何時までたっても子供みたいで‥‥」
「あー、気にしてないから大丈夫だ、まぁあの位の歳ならあんなもんだよ、それより頼むぞリドリー、俺は仕事をちゃんとやってくれたら文句は無い、まぁ又後で覗きに来る」
本当頼むぞリドリー君、お前が頼りだ、あの変態は君に任せる、俺を救ってくれ。
「守長さーん、ありがとね~ 穴空き皆喜んでるよ~ 下拵え一生懸命頑張るから~ 期待してねー」
「おう、頼むぞ」
本当、元気の良い子だ、あの娘ならハルータの若い男衆も好ましく思う奴も多いだろう。
まぁ期待しておこうか、揚げ芋が楽しみだ。