表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第1章 ある灯台守の日々
12/214

第12話 海事法弁士 クランツ・ハイラー

窓が揺れている


風も更に強くなったようだ



アイザックのじい様が言った通り嵐になるのだろう


バハラでも強い風が吹き付けているに違いない、

クランツのじいさんは

まだ事務所に居るのだろうか?


居るとしたら今頃悪態吐いているに違いない、


クランツ・ハイラー


俺がバハラに出向した時に知り合ったじいさんだ。


職業は海事法弁士


所謂、弁護士だ、この世界では法弁士と言う。


ならクランツじいさんの海事法弁士とは?


海上に於ける諸々の海事に関わる。

海事法弁士的には係わる職業だ。


海事法弁士は一般には海弁士と呼ばれている。


俺達官吏は海事法弁士と正式名称で呼ぶ奴が多い。


それは何故かと言うと、

書類上は正式名称で書かれている為

海事法弁士と頭に刷り込まれている為だ。


海事法弁士は海の法令の専門家だが、

(おか)の弁護業務が出来ない訳では

無い。


そして法弁士も海の係争に係われない訳では無い。


だが法弁士が海事係争、

裁判を海事法弁士と争ってもまず勝てない。


物語ではその様な話もあるが

只の法弁士が勝利するなど現実には奇跡に近い。


なら海弁士が裁判とか全部やりゃあいいんじやないか?

そんな事を言う奴も居るが海事法弁士は

法弁士に比べれば数は少ない。


それに海に係わる仕事である以上

海沿いの都市に事務所を構えるのが一般的で、


内陸部では大きな湖、大きな河川のある都市、

海からやや距離があるが帝都に居る位だ。


とは言え帝都は海、港に近いし、

何より河川…大河がある、その為多少は他より多い。


とは言えやはり海事法弁士は

一般的には港町に事務所を構える。


クランツのじいさんは中々に腕が良く

バハラでもそこそこ名のある海事法弁士だ。



そしてじいさんはある意味で有名でもある。


クランツ・ハイラー は魔族である。


とは言えこの世界の魔族は人族とほぼ変わらない。


そして魔族にも色々な種族が居るのだが

じいさんは背が低くごつい体つきだ、

何より特徴的なのはその美髭だろう。


じいさんは所謂ドワーフ族だ。


魔族の国チェリッシュの出身で、

ドワーフ族が多く住む

アイスブルーと言う都市に生まれた。


名はアイスブルーだが別に氷に覆われた所では無い


寧ろ真逆で暑い所だったとじいさんは言ってた。


じいさんはドワーフ族だが

実家の稼業は鍛冶師の家系では無い。


そして鉱山で炭鉱夫をしている家系でも無い。



じいさんの実家は商会を営んでおり、

代々商人の家系である。


とは言え故郷は鍛冶師も多いし山で働く者も多い。


だがそれ以外の産業が無い訳も無く、

商会を営んで居る者もいれば酒場や宿屋、

それこそ農民や漁民も居る。

近くには大きな湖があり、

そこの魚は絶品だとじいさんは

酒を飲んだ時によく言っていた。


実家の商会には魔族だけで無く、

人族の商人も出入りしていて

子供の頃、色々な話を聞いて育ったそうだ。


そんなじいさんが国の外に興味を持ったのは

ある意味当然の事であったのだろう。



魔族の国の住民は基本、引きこもり体質だ。

何故ならば魔族の国には色々な種族がいて、

様々な文化がある。


そして国もデカイ、魔族の国は大陸だ。

オーストラリアよりデカイ大陸と思われる。


そして割と過ごしやすい国だ。


そんな良い場所から態々他の場所に行くだなんて

船員か変わり者位しか居ない。

まぁそう考えたら魔族の国の船員も変わり者が多い


だが船員、船乗りはまだ分かると言う魔族は多い。


ただ単に国の外に出たがる者は 単なる変わり者で

魔族からしたら理解に苦しむそうだ。


人族とはその辺りの考えが違う。



話を聞く限り魔族の国チェリッシュは中々に

暮らしやすく、過ごしやすい国だ。


余りの心地よさに定住する人族も割といる。


魔族はその辺り寛容だ。


意外かもしれないが魔族は温厚な者が多い。


但し温厚であればこそ 一旦怒らせたら止まらない。


マジ切れした魔族には勝てない。

単純に力も強いが魔族は魔法を使える人間も多い。


近年魔法を使える割合が減少傾向にあるが

それでも7割もの魔族が魔法を使える。


確かにショボい魔法しか使えない者も多いが、

それなりに有用な魔法、攻撃魔法を使える者も多い


例えばゴルフボール位の攻撃魔法でも

当たればエライ事になる。


そしてショボい魔法しか使え無くても

魔族は人族に比べ魔力が多い者が大多数だ。


それに加えて単純な力も強い。


魔族は怒らせるな。


これは人族の常識だ、

物心ついた子供でも知っている。


じいさんからも色々話しは聞いた。


ドワーフ族は短気だが

基本的に後腐れも無いそうだ。


だが魔族基準では物凄い短気で気難しいらしい。


ドワーフ族と接する時は決して思い付きで会話をするな、考えて接しろ、それが常識のようだ。


そしてドワーフ達は酒が大好きだ。


自分達でも作る、しかも妥協は一切しない。


その為、ドワーフ族の酒と言えば

チェリッシュだけで無く、この大陸でも有名だ。


帝国でもチェリッシュのドワーフ族が作る酒は

高級品として有名である。


俺も大好きだ、但しお値段は目玉が飛び出す所か

全身の毛が抜ける位とてもいいお値段である。


しかも大概は自分達で消費するので

余り数が出回らない、その為希少性も高い。

ドワーフ謹製の酒は金さえ出せば飲めるモノでは無いのだ。



クランツじいさんも故郷を出て

バハラに定住した事に関しては後悔していないが、

故郷の酒が気軽に飲めなくなったのは

無茶苦茶後悔しているらしい。



じいさんが実家の商会に出入りしていた商人達から

酒の事は聞いていたが

まさかこんなにも味、そして酒の出来が違うとは

夢にも思って無かったと嘆いている。


じいさんはその商人達から他国の言語を習った。

自分でも勉強し、複数の言語を使える様になった。

じいさんが商人達から聞いた話で

記憶に残った2つの職業の事がある。


1つが宮廷道化師、

2つ目が海事法弁士だ。


宮廷道化師は帝国には居ない。

他国には宮廷道化師がいる国もあるようだが

帝国にはその様な者は居ないし制度も無い。


海事法弁士、

この職業も何故か子供心に凄く残ったそうだ、

言うならばクランツ少年の心に刺さった。


それからは他国の言語を学び

海事法弁士の事を夢中で学んだ。


海事法弁士関係の書物を親にねだり、取り寄せ、

海事法弁士になるために必要な書物を取り寄せた。


じいさん曰く、あんなに夢中になったのは

妻に出会った時位だと惚気ている。


まぁ兎に角じいさんは

海事法弁士になる為に必要な事は何でもした。


そして時が立ち、じいさんは妻のテレーゼと出会い


出会って1年後の19歳の時に結婚した。


クランツのじいさんは、実家の商会で働いていた。

テレーゼと結婚して三年、

じいさんはどうしても海事法弁士の夢が諦められなかった。


しかし一年半前に子供が生まれ、

テレーゼは2人目を妊娠している、

しかも後少しで生まれる予定だ。


夢は夢


夢とは寝て見るものであって、

起きて見るものでは無い。


しかも妻を持ち、子供も生まれ、

後少しで家族がもう1人増えるのだ。


実家の商会での仕事も順調で、そろそろ支店の1つを任せようかと、そんな話しも出て来ている。

じいさんの人生は順調そのもの、

正に順風満帆、これ以上何を望むと言うのか。



だが‥‥


じいさんは悩んだそうだ。


このままでは心に刺さったトゲは抜け無い、

死ぬまでこの気持ちは晴れないだろう。


だが妻は? 子供達は?


自分の我が儘に巻き込んでもいいのか?


テレーゼと結婚する時に命に変えても守る、

その言葉に嘘は無かった本当にそう思った。


子供が出来た時も同じように、

いやそれ以上に思った。


その想いは誓いと言ってもいい。



しかし‥‥


そしてじいさんは妻であるテレーゼに話しをした。



自分の思いと想い、それを妻に正直に打ち明けた。


テレーゼは黙って聞いてたそうだ。


そしてじいさんが長い長い話しを終え、

恐る恐るテレーゼの顔を見ると

テレーゼは苦笑していたそうだ。


『やっと言ってくれた』


テレーゼはニッコリ微笑みそう言ったらしい。


そしてじいさんが後に聞いた所によると、


テレーゼは最初は浮気を疑っていたらしい、

しかしどう考えても他の女の影は無い。


そしてじいさんの様子がおかしいのは

海事法弁士の関係書物を見ている時だけだった。


テレーゼ曰く、

『あれで気付かない方がどうかしてる』


との事であった。


それから二人は話し合った。


そしてテレーゼはじいさんの(・・・)に付き合う事と、

なら具体的にどうするか


実家の親兄弟に反対されるとしても

なるべく説得する、それでも駄目なら‥‥


二人は何度も話し合いどうするかの方針を固めた。



二人で決めた事の中でお腹の子が産まれ、

3ヶ月になるまでは何があろうと、

実行するのは止めよう、それ迄は準備を優先する事。


その間出来る出来ないは別問題として、

親兄弟の説得はする、二人でそう決めた。


準備をしつつ親兄弟の説得を始めたが

話し合いは難航した。


じいさんは五男だったが優秀であった。

親だけで無く、兄達も反対した。


じいさんの能力は

ハイラー商会に必要だと皆思っていたのだ。


それと共に純粋に末子が心配だった。


何処とも知れぬ他国に行き、

聞いた事も無いような仕事をしたい。


そんな事を言われて

『はいそうですね』


等言う 親がいるかと。

兄弟達も異口同音 じいさんに言う。


その内テレーゼは子を産んだ、

その子が生まれ3ヶ月立っても説得は難航していた


そして下の子が5ヶ月の頃、

じいさん達は故郷を出る事になる。


結局説得は失敗した。

準備だけは進めていた為、スムーズに出発出来た。


故郷を出る際、

金貨十七枚と、とある酒を18本持って旅立った。


その酒はとあるツテで手に入れた、

1本金貨三枚もする酒だった。


1本金貨4枚で売れば利益は全部で金貨十八枚、

売値の総額で金貨72枚になり、

当座の資金以上の金を得る事が出来る。


じいさんはそう思ったそうだ。


じいさん達は子供がまだ小さい事もあり、

通常より時間を掛け、2ヶ月程掛けて、

バハラに到着した。

故郷から港迄、初めての経験で楽しかった反面

苦労と戸惑いの連続であったそうだ。


港から船に乗りバハラ迄の旅は船酔いとの戦いで

アレが1番辛かったと言っていた。


だが船員達は皆優しかったそうだ。


と言うのもチェリッシュから他国へ旅に出る者等

ほぼ居ない、ましてや幼い子供連れでの旅等

まずありえない、そして時折思い詰めた顔をして


訳有りだと思われたのか船員達は

優しく親身になって世話をしてくれたそうだ。



船には客室が二つあるタイプの貨物船で

慣れない船旅に加え、船酔いに苦しんでいた。

じいさん一家は大変助かったらしい。


魔族の国の船は客船が少ない、

その代わり貨物船に客室がある船が

客船代わりになって居る。



まぁその手の船は何処の国の船にもあるが

チェリッシュの船は他国より割合が大きい。


魔族達は国からほぼ出ないが

チェリッシュに行く人は居る。


大概は船持ち商人だが

船を持たず商用で来国する商人も居て


そのような人々はじいさん達が乗ってたような船で

チェリッシュへと来る。



快適とは言い難いが船員達のお陰で

それなりに船旅を楽しんだ一家は、


バハラへと到着後、知り合いの商人に会いに行く、


知り合いの商人は大層驚いたらしい。

アイスブルーに居るはずのハイラー商会の倅がいきなり訪ねて来たのだから。


その商人はじいさんから話しを聞き

ため息を吐いたそうだ。


商人は口を開き掛けて何も言わず 頭を振った(かぶりをふった)


じいさんはこれからの事を話し、

酒を取り出して知り合いの商人に

『幾らで買う』と聞いた。


一家はバハラに来る迄に十七枚あった金貨が、

四枚しか残って無かった。


持ってきた酒を売って当座の生活費を得なければ

海事法弁士になる所で無いからだ。


予定通り一本金貨四枚とは言わない、

だが3枚は出来れば欲しい。


元を取り返せれば、そう思った。


そうでなければ生活の為に稼がねば詰む事になる。


予定より遅れた為、今年は受験は終わっていたのだ

全部売れれば数年は余裕を持ち生活出来る。

受験勉強にも集中出来、目標に近づく事が出来る。


海事法弁士になるには金が掛かる。


海事法の専門の家庭教師代、


受験代にその他諸々、


帝国民なら

受験代は格安だ、だがじいさんは帝国民では無い。



じいさんは神に祈ったらしい。


だが相手からの反応が無い、不思議に思い

相手を見ると、


驚いたまま固まって居た。



この商人は中々に肝が太く、

あの様な顔は初めて見たと言っていた。


テーブルに出した酒は三本、

『まだあるのか?何本あるんだね?』


そう聞かれたじい様は18本と答えると商人は、

『金貨六百枚、いや八百枚出す』


そう言った、じいさんはからかうなと言ったが

商人は、

『本当だ、からかって無いし本気だ』


そうは言われてもじいさんは信じず、


何度もからかうな、本気だのやり取りが続いたらしく

その内子供達が泣き始めてしまい

それで商人は冷静になった。


その商人が言うには。


じいさんが持ってきた酒は幻の酒と言われており

その商人が子供の頃に一度だけ見た事があり、

商人の父親が物凄い高額で売り捌いたらしく

強烈に記憶に刻まれていたらしい。


つまり金貨八百枚で買っても十分な所か、

莫大な利益を出す事が出来、

是非欲しいとの事だった。


商人は失敗した、冷静さを失ってしまったと、

困ったように笑っていたらしい。


結局、金貨千枚に、

一家に便宜を図ると言う話しで纏まった。



じいさん曰く、

古い封印がなされた、

双頭竜の飾りのある器の酒だったようだ。



兎に角、じいさん達は当座所か、

一生遊んで暮らせる金を手に入れる事になった。


じいさんは生活の為時間に追われる事無く、

来年度の試験に集中出来、受験勉強に励んだが

最初の試験は落ちてしまった。


これは良くある事で最初の受験で合格するのは、

二%しか居ない、


じいさんは二回目の受験で合格した。

二回目の受験での合格が十%位なので


最初の受験で落ちても、

仕方ないと思って気にしなかったそうだ。


海事法弁士は大体平均5回以上の受験で

合格する確率が上がっていくので、

じいさんは優秀な部類に入る。


しかもじいさんは外国人だ、

それを加味すれば十分以上に優秀である。




無茶苦茶風が強いな、正に豪風だな。


じいさん、家に帰れてるかな?


何やかんやで忙しい仕事だからな。



じいさんの手紙には、久々にお前と飲みたい。


去年久々に会ったがお互い余り時間が取れず

物足りなかった、今度はゆっくり飲もう。

テレーゼもお前に会いたがって居る。


それと宿に泊まる何て水臭い事はしないよな?

ウチに泊まれよ、

それとアイスブルーの酒が手に入った。

1人で飲んでも詰まらん、一緒に飲もう。


そんな内容だ


久々にバハラに行くか‥‥

じいさんにも、ばぁちゃんにも会いたいしな。


休みは取れるし。



まぁ、とりあえずマデリン嬢の件が片付いたらだな



「あー 守長、ちょっといいかね?」


執務室のドアの所にアイザックのじい様が居る、

窓天幕を掛け終わったか。


執務室のドアは基本的に常に開けて居る、

開かれた職場と言うやつだ。


まぁ風が強かったり、寒かったら閉めるが‥‥


「どうしたじい様? 何かあったか?」


「あー アレ(・・)を出したいんだが‥‥ 」


アレ(・・)か‥‥



こりゃあかなり激しいんだな。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ