第119話 熟成と熟成途中
マグロ 本マグロである
大きさはまぁまぁである、多分だが四十キロ位か?
生け締めもしてあるし、この季節、時期であればそう簡単には傷まない。
「おいブライアン、バハラの魚市場でコレは幾ら位なんだ?」
「あー‥‥ この位だとそうだな‥‥ 卸値は銀貨二枚に大銅貨二枚か三枚ってとこだな、大銅貨五枚は無いな、この時期だと銀貨二枚に大銅貨二枚から三枚にはなる」
「良し、銀貨三枚で買う」
「えっ? マジかよ守長? 多過ぎないか?」
「良いんだよ、状態も良いしこの時期なのに脂も乗ってるし形も良い、それに丁寧に締めて処理してある、お前チンピラの癖に仕事は丁寧だな」
「いや、チンピラって‥‥」
うん、何言ってんだコイツは、何回も言ってやってんのにまだ自覚して無いのかよ?
お前はチンピラ以外の何者でも無いからな。
「しかし丁寧だな、お前去年俺が皆に説明した時にちゃんと聞いてたんだな?」
「いや、守長‥‥ 去年守長にあんだげヤラれたのにちゃんと聞いて無い訳無いだろ、てか守長が最初に説明した時、割と話に引き込まれたし、無茶苦茶話に納得出来たからな」
「まぁ締めはやる、やらないで品質に大きな差が出るからな、しかしお前もそうだがこの村の奴等はやって無い奴が多かったのはかなりビックリしたぞ、アレ作成するのにどんだけ苦労したと思ってんだよ? てかお前アレ先帝陛下が勅命‥‥ 帝国全土に臣民の為に配布されたのにお前‥‥」
「んーな事言われても‥‥ 法で決まってる訳でも無いし、陛下が言ってるって言っても俺達は正直ピンと来ないよ‥‥ 皇帝陛下は雲の上の人処かそれ以上のお人だしなぁ」
「・・・」
だから勅令にすべきだって言ったんだ、それを大袈裟だの何だの言って結局は臣民の為に何て曖昧な布告にして、法に依って布告しないにしても、勅令であれば罰則が無いがそれなりに重く受け止められるのに‥‥
結局あんな曖昧な事をするから陛下の権威を傷付けただけじゃないかよ。
やるからには徹底してやらないといけない。
結果この様だよ、まぁ俺も陛下も押し切られてしまったが勅令にしたら陛下の権威が軽んじられるって抜かしやがって‥‥
中途半端な事をするから結果軽んじられてしまったじゃないか。
反発だろうな、うん、俺に対する反発心があったからだろう。
まぁそう言う意味では俺のせいだな、
その辺りの人の気持ちってのをもっと考慮すべきだった、苦い経験ではあるな‥‥
「守長どうしたんだ?」
「おう、ちょっと考え事してた、おいブライアン、このサンマは幾らだ?」
「ん? あー‥‥ 良いよオマケする、好きなだけ持って行ってくれ、まぁと言っても七匹しかないけどな」
「良いのか?」
「マグロを銀貨三枚で買ってくれたんだ、そん位良いよ、何ならこの剣イカもオマケする」
スルメイカか、七、いや、八杯あるな。
まぁ市場じゃ無いんだ、八匹ってのが正しいか。
「ちょっと貰ってく、イカも美味そうだな」
「なぁ守長、持って帰れるのか? 近いとは言っても結構な重さだぞ、てかマグロはそこまでデカくは無いがそんでも女衆位の重さはあるぞ?」
「あー 心配するなこん位の重さなら余裕だ、それにマグロは生でも食うが基本的にコイツは油漬けにするからな、たっぷり作れるな」
まぁこの季節なら保存は利く、それ以前に冷蔵庫もあるし何より空き部屋を丸々一つ冷蔵庫にすればかなりの期間保存可能だ。
冷蔵庫は勿論電気式では無い、冷蔵庫の形の箱に氷を、氷柱を入れて冷やすタイプの物だ。
それ以前の問題として空き部屋に氷柱を大量に置けばそれだけで冷蔵庫になる。
氷なんか魔法で作り放題だしな、部屋自体がアホみたいにキンキンになる。
まぁやり過ぎて食材が凍らない様に気を付けなければならない、うん、冷やすと凍らすは全く別物だからな。
俺は失敗を糧に成長出来る男だ。
まぁとりあえず‥‥
一日熟成させてから刺身にして食うか、ツナ缶、
油漬けはどうする?
いやいや、今日ちょっとだけ食べよう。
で、熟成させてからも食おう。
油漬けは熟成させた物を使って作って‥‥
今日刺身で食べる分は本当にちょびっとだ、
水気とか臭みが抜けきれ無いとそんなに旨くは無いからな、刺身として食うにしてもちゃんと処理して処置してから食うべきだな、こんなにデカイんだ、全部、いや、殆んど油漬けってのも芸が無い。
それに熟成期間も一日って決める必要も無いな、
状態を見て決めよう、一日は流石に短すぎる、二~三日は最低置くべきだな、何なら一週間は置いてその上で更に熟成させても良い。
勿論マグロの状態を見てから判断するがな。
そうだな去年の事もある、決めつけは良くないな、
しかし‥‥
大トロの油漬け、中トロの油漬け、赤身の油漬け、
うん、良いな‥‥
特に大トロの油漬けは良い、
前世で食べた事があるが激旨だったな‥‥
まぁ値段も信じられない位バカ高だったが、
転生したこの世界では気にせず食える、
四十キロちょいの本マグロが銀貨三枚って安すぎだろ、タダみたいなもんだよ。
油漬けに刺身、串に刺してねぎま串にするのもアリだな、それにねぎま鍋‥‥
食いたいな‥‥
だがなぁ、ねぎま鍋は鰹節が無いんだよなぁ、
昆布だけだと味がボヤけると言うか薄いと言うか、パンチが足りないんだ、うん、物足りないんだよな‥‥
鰹節も当然作ろうと思った、
だが一度も成功してないし、成功しそうにも無い。
金だけが無駄に消えていく、流石に鰹節はダメかも知れないな、制作中止は今の所してないがそろそろ決断しなければならない。
色々やってみたんだ、試行錯誤しながらな、
魔法を使ってみた、そう、魔法で乾燥させても出来なかった。
まぁそりゃそうだ、黴付けし、年月掛けて熟成乾燥させなきゃ意味は無いんだからな。
出来上がったモノはただただカチカチに固まったナニかだったな‥‥
苦い経験だ、確かにカチカチにはなった、
だが魔法を使い続けやっと出来上がったモノが得体の知れないナニかだった時の虚しさよ‥‥
まぁ良い、出来る事と出来ない事がある、
仕方無い事だ、うん、仕方無いんだ。
てか食えないと思ったら余計に食いたくなるな。
おっと! 忘れるとこだった。
「おいブライアン、仕事が終わったら灯台に来い」
「えっ、な 何で?」
うん、何でコイツは挙動不審になってんだ?
てかビビり過ぎだろ、うーんちとやり過ぎたかな?
「渡すモンがあるし、話もあるんだよ、まさかお前拒否するつもりか?」
「いやいやいや! そんな事あるはず無いだろ、行くから、行くから!」
「・・・」
うん、コイツには少し優しくしてやらねばいけないな、何か俺がすっごい悪者のような気がしてきた。
「まぁとりあえず待ってるぞ、てか心配しなくても取って食ったりしねーよ」
「わ 分かった」
「・・・」
まぁ良いだろう、来なかったらどうなるかコイツも分かって居るだろうからな。
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灯台に帰って来てマグロを下拵えし、空き部屋にクリーンを掛けて氷柱を入れて簡易冷蔵室にしたがあっと言う間に終わった。
最近この手の作業が更に手際が良くなってきた気がする。
俺は官吏であって現場作業員では無いのだが、
自分でもよく分からなくなってきている。
我ながら手際良すぎだろ、この手の仕事を生業にしてる奴より俺の方が絶対手際が良いし、仕事が丁寧だと思う。
じい様達とラジオ体操をして少し鍛練をし、
朝飯食ってさっさと仕事を終わらせると暇になった。
てかブライアンの奴まさかトンズラかましたんじゃ無いだろうな? そんな事を思って居る時だった、ブライアンが来たのは。
「すまない守長、思ったより長引いた」
「一瞬トンズラかましたかと思ったぞ、てかお前魚臭いな」
「そりゃ今まで魚触ってたから仕方無いよ」
仕方無い奴だ、てかこのままだと魚臭いのでクリーンを掛けてやった、てか今日は何時もより魚臭いのは何でなんだ?
「おっ、清浄魔法か! ありがてえ」
うん、だってお前本当に臭いんだもの、
仕事だから仕方無いとは言え何でコイツ今日はこんな臭いんだ?
「お前マジで何で今日はこんな臭いんだ?」
「あー‥‥ 魚醤場ん所に行ってたからかな? そんで来るのが遅れたんだよ」
「お前何しにそんなとこに行ったんだよ?」
「いや、家で使うの分の魚醤だよ」
なら仕方無いか、てかコイツの臭さの理由はそれか、本当魚醤って作成途中はクセーな、アレがあんな旨く変わる何て信じられんよな。
まぁ良いだろう、話を進めよう。