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異世界灯台守の日々 (連載版)  作者: くりゅ~ぐ
第2章 バハラと追憶と彼方
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第112話 惚気

前話後書きにてサザビー帝国の貨幣概要を載せました


ガタゴトと音が聞こえてくる


荷馬車の振動が眠気を誘う


いかんな俺は思ったより疲れたらしい。


先程ハルータ村で対象者と接触した際、

少々際どかった。


自信はあった、だが結果この様だ。


完全に見抜かれた上おちょくられた。


暗部の者としても、商人としてもだ。


特級官吏は只でさえ厄介な奴等だが特に帝城で働いて居る奴等は厄介極まりない奴等が多い。


まぁあの男に関しては元と言う但し書きが付く訳だが、今日初めてその片鱗を見せた。


途中あの男が笑みを浮かべた時、ベタな言い方だが獣染みた笑顔がまるで牙を見せた様な錯覚に陥った。


最初は正直あの様な何も無い寒村に飛ばされ、

意気消沈して居るだろうと予想して居たが事実は全く逆だった。


任務に当たり否も応も無い、

与えられた任務を只ただ忠実に遂行するだけだ。


例え無駄だと思って居ようとそこに意味を持ってはいけないし、持つべきでは無い。


寧ろ意味等考える事自体許されない。


愚直に実直に只々従う、只それだけだ。


とは言え‥‥


自分で一切考え無い、考えられ無い、

考え様ともし無い、裏の意味も考え、

そして理解しようとし無いでもいけない。


与えられた任務は忠実に、

かつ自らの頭で考えなければいけない。


矛盾している様だが只、命令をこなすだけでは駄目なのだ、臨機応変さは必要な能力だ。


そして俺には自信があった、慢心では無く経験に裏付け、裏打ちされた確かな自信だ。


任務中に感情に揺り動かされ掛けたのは何時以来だろうか?


相手を煽りボロを出させるやり方は特級官吏でも随一、交渉に於いて勝てる者無し等と言われて居た。


まぁ確かにその通りだ、だが先程のやり取りは子供が遊んで居る様なやり口だった。


実際奴は遊んで居たのだろう。


ネイサン・サリバンは敵対者に決して容赦しない。


敵対者は(ことごと)く失脚し敗れ去っており、

生半可な覚悟で敵対してはならない。


苛烈、熾烈と言う言葉ですら生温いと言われる官吏達の争い、それも特級官吏達の争いとなると俺達の様な者ですら寒気を感じる程だ。


中立派であり我関せずを貫いて居たあの男は端から見れば苛烈さ、熾烈さとは一見無縁に見える。


だが帝城で、それも先帝陛下の御寵愛を受け妬み、嫉み、嫉妬を受けながら無事乗り切った。


それだけでも無能とは真逆の存在だ。


一見すればにこやかで苛烈さ処か我の強さも欠片も見えない、見た目も若く穏やかに見える、であればこそ、侮り足を引っ張ろうとした者達は割と居たらしい。


だが奴を侮った者達は報いを受ける事となる。


実際敵対者は悉く叩き潰されている。


その内その様な者は、侮る様な者は表立って居なくなった。


若いからと言って経験の足りない若輩者、

実際奴は特級官吏に任官した時は若かった。


いや、若すぎた、だが無能が官吏に、特級官吏に等なれる訳が無いのに愚かにもちょっかいを出し失脚して行った‥‥


まぁ奴も結果的には派閥争いに巻き込まれ失脚したが、あれは自業自得だ、本人は無害だと思って居る様だが存在自体が危険過ぎるのだ。


中立派と言う事は味方でも無いが敵でも無い。

だがそれは敵にも味方にもなるどっちとも言える。


味方なら良い、だが敵対されたら?


奴は存在自体が危険なのだ、誰が命じてあの男を監視させて居るか等俺には分からんし、寧ろ分かりたく無い、関わるのは危険だ。


帝国の淀んだ闇と負の部分に等

誰が好き好んで関わりたいと思うだろうか。


まぁ俺が言うべき言葉では無いのだが‥‥


しかしまさかカバーが剥がされるとは‥‥


俺は慢心して居た訳では無い、それは決して無い。


『対象者の同期達に付けた者達の存在が露見して居る節アリ、慎重に行動せよ』


慎重に等、言われる迄も無い基本的な事だ、

だがそれでも敢えて警告された。


間違いなく他の見守り人(・・・・)達も存在と正体が露見して居るだろうな。


他の者も思っただろう、何故バレた? と‥‥


大体 他の任務に関して言及している時点でおかしい、上がそこから情報露呈する可能性に対して全く気にして居ない筈が無いのだから。


となればバレようが気にしないと言う事か?

監視それ自体がある種の示威行動を、寧ろ公然と監視して居ると知らしめる為に行っている可能性もあるな。


この任務の全体を知らされて居る訳では無いからあくまで想像でしか無いが‥‥


あの男と同期の奴等は何をやらかしたんだ?


非常にキナ臭い‥‥

そうだ、余計な事を考えず任務に専念するだけだ、

一介の諜報員として行動する、ただそれだけだ。


しかしあの男‥‥


任務中にあれ程感情を揺り動かされ掛けるとは‥‥


あんな幼稚な、子供みたいな煽りが意外と効くとはな‥‥


本当に意外な発見だ、この歳になって初めて気が付くとは何と言うか人生とは面白い。


とは言えあの男、行商人相手に大金貨を出すか?


しかも次は金貨を出してきて、言うに事欠いて、

何が釣り銭を根こそぎ集めれば何とかなるだ?


しかも頑張れだと? ふざけるな!


挙げ句、散々嫌味を言いやがって、

楽しそうに、心底楽しそうに‥‥


釣り銭はいらん? 丁度渡して何を抜かすのやら、

本人は楽しいのかも知れないが俺はちっとも笑えん。


と言うか性格悪過ぎだろうあの男、俺を何だと思ってやがる、良い玩具が手に入ったとでも思って居るのか?


しかも散々まけさせて挙げ句オマケだ。


帰ったら妻に何と言われるか‥‥


物がモノだ、浮気を疑われるかも知れないな、

妻に仕入れの一部を任せたのは失敗だったかな?


だが女物の仕入れに関しては妻の目利きは確かだ、

実際売れ行きも良いのは事実だ。


とは言え今回まけた分はモノが悪い、

浮気を疑われる可能性は非常に大きい。


まさかと思うがあの男‥‥


そこまで読んでまけさせたのでは無いだろうな?

オマケに付けさせた物もそうだ、

アレも誤解を招く物になりかねない。


もし妻に誤解を与える為にやったのなら、

そこまで考えやったなら、もしそうなら性根がひん曲がり過ぎだろう、何て地味だが効果的な事に頭を使っているんだ。


頭を無駄に使わずもっと有効的に使えば良いものを何なんだあの男は?


嫌がらせに俺と妻の仲を裂こうと言うのか?


ふざけるな! 俺は妻を愛して居るんだぞ、

暗部の者としてはあるまじき事かも知れないが、

心から、本心から愛してしまって居るんだ。


いかん、冷静にならなければ。


腹の中で思う事は不意に、無意識に口から出る事もある、腹の中であっても商人として振る舞わなければならない。


私はもっと冷静にならなければならない。


商人としても、もう一つの顔として振る舞わなければ思わぬボロが出る事もある。


忌々しい事ではあるが終わった事として済まさなければならない。


妻には虚実混ぜること無く事実を伝えれば良い、

商人として、夫としてそれのみを伝えれば良いだけの話だ。


「会頭大丈夫ですか?」


「何かなマックス?」


「いえ、何か難しい顔をされて居たので‥‥」


おやおや、私は顔に出てしまって居たらしい。


本当に気を付けなければならないな。


「大丈夫だよ、ただ先程の取引で久々にやられてしまったと思ってね、私もまだまだ未熟だよ」


「あー‥‥ さっきって、ハルータ村の灯台守長さんとの事ですね? 確かに珍しいですね、会頭があんなに値引き交渉で譲歩しちゃうなんて」


「全く参ったよ、あのヘアブラシは妻が選んだ逸品だったのに妻に何と言えば良いか頭が痛い事だよ、それに髪留めもそうだね、三つもオマケに付けさせられるとは‥‥」


「あのヘアブラシ、物は凄く良い物でしたからね、行商で回る先でも結構奥さん達が足を止めて見てましたもん、アレもう仕入れる事が出来ないんでしたよね?」


思わずため息が出た、

これは演技では無く本心からのため息だ。


「残念ながらね、アレは仕入れ先で僅かに仕入れる事が出来た物で、妻が言うには現品限りだったらしいからね」


「あー やっぱりですか、女将さんも仕入れた時に言ってましたもんね、アレはあるだけで結構目を引いてたから客寄せにもそうだし、会話の切っ掛けになってたから僕はアレのお陰で大分助かってたんですけど‥‥」


マックスが残念そうにボヤいて居る、

確かにアレは良い会話の切っ掛けになって居た。


この子はアレに大分助けられて居たから出来れば売れずに残っていて欲しかったのだろう。


話の切っ掛けを良くアレのお陰で掴んで居た。


「今にして思えばもう少し値を付けていても良かったかも知れない、まぁそれでも守長さんは買っただろうけどね」


「そうですよね、守長さんが大金貨出した時に僕ビックリしましたよ、初めて見ました」


完全に嫌がらせだろう、行商人に支払いするのに大金貨なんて聞いた事が無い、嬉しそうに渡そうとして居たし。


「私もだよ、大金貨なんて見たのは何時以来やら、ある所にはあるもんだねえ、あやかりたいよ、私も大金貨を使って商売をしてみたい物だよ」


「あの守長さん特級官吏なんですよね? 給金が良いとは聞いて居たけど凄いですねー なんであんな所に居るんだろ?」


「マックス、駄目だよあんな所なんて言ったら、ハルータ村の人が聞いたらいい気はしないんだからね、それに人には色々あるんだ、あんまり詮索するのもいけない、官吏の世界はね複雑なんだよ、それに人には探られたく無い事だってあるんだ、気を付けなさい」


「はい、すいません会頭」


「うん、気を付けなさい、まぁ私もあの守長さんが買ったブラシがどうなるのかは正直気にはなるがね」


「あー アレ多分アマンダさんに渡すんですよね? あの美人の、確か最初にそんな事言ってた気がするんですが」


「らしいね、だけど渡すのでは無く、イカの一夜干しと交換だって言って居たから贈り物とはちょっと違うかな?」


ふむ、この子もアマンダさんが美人だと思って居るか‥‥


だが私の妻も中々どうして、

負けては居ないと思うのだが‥‥


何と言うかアマンダさんの美しさは魔性の美しさだ、あの男‥‥ おっと、あの守長さんの前でしか笑わないと言うのはあの村では有名だ、他の男の前では決して笑わない。


私もあの人に笑顔を向けられた事は無い。


そう考えるとあの守長さんはどうやってあのアマンダさんの心を開かせたのやら多少は興味があるな、これは個人的な、そう、完全に個人的な興味だな、私もマックスに偉そうには言えないな。


「本当あのアマンダさん美人ですよねー

あんな美人な人を僕見た事無いですよ」


「おやおやマックス、私の妻はアマンダさんに負けては無いと思うんだがね?」


「もう又ですか? 会頭は惚気過ぎですよ、毎回聞かされる僕の身にもなって下さいよ、大体ですね女将さんは僕にとって母ちゃんみたいな人なんですからね」


「・・・」


そんなに私は惚気て居るのだろうか?


私は事実しか言って居ないのだが?


私の妻は美しい、それは事実なのだが・・・



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