第108話 甘いな
楽しそうな幼い声が聞こえる
心の底から楽しそうな声がする
幸せ一杯 今この瞬間が人生の絶頂かの様だ。
「あっ! 守長こっちにもあったよ、ここも!」
「こっちにもあったぞ、五本あるな」
「私は七本あったよ」
「マジか‥‥」
さっきの場所は不運にも一本も無かった、
去年は四回に渡り計三十七本も採れた場所だった。
今この場所では去年二本しか採れ無かったのに今年は大豊作となっている。
正直この場所は期待していなかった。
だが今は良い意味で裏切られて居る。
「守長凄いです、ここに三本ありました、あっ、こっちにもあった‥‥」
「マジか? ちょこっと離れたそんなとこにもあるとはな、マジで大当たりだな」
ジゼルは俺達から三メーター程 離れた左斜めの斜面に居る、斜面と言っても緩やかではある、
ジゼルに斜面を探させるのは危ないかと思ったが、
ジゼルもアンナもこの位なら危なく無いと言ったので信じる事にした。
実際上手くバランスを取って危なげ等一切無い。
何やかんや言ってもジゼルも村の子の一人だ、
身体能力は高いんだよなぁ。
他の村の子供達が異常な位の身体能力を持ってるだけであって、ジゼルも平均より身体能力は高い。
それにアンナを見てるからかな、うん、アンナと比べちゃいけない。
てかアンナとジゼルは姉妹なんだ、基礎能力は基本的には一緒なんだよな、そうだな俺が心配し過ぎか。
「オッヒヨ~ 又あった~ 私凄~い」
「・・・」
うん、身体能力が幾ら高いとしても浮かれてたら思わぬ不覚を取るかも知れないな、気を付けよう。
しかしアンナの奴オッヒヨ~って‥‥
楽しいのは分かるけど、
こんだけ採れたら楽しいのは分かるけど‥‥
まぁ良いだろう楽しそうで何よりだ。
さて、この辺りをもう少し探してから次に行こう。
「守長いっぱい採れたねー」
「そうだな何やかんやでかなりの数になったな」
あれから何ヵ所か回ってアホ程採る事が出来た、
最初はどうなるかと思ったが結果的には大満足な結果となった。
今は姉妹の秘密の場所、誰にも知られてはいけない姉妹二人だけの特別な場所、
木苺が毎年大量に採れる場所に移動してる最中だ。
因みに先頭はジゼルだ、俺が先頭に立つと言ったが二人にダメだと言われた。
曰く、秘密の場所だから足跡をあまり残したく無いし、鉈や何かで草木を切るのは絶対にダメだと言われた。
歩く時も草をあまり踏まない様に注意して進むように二人に念入りに、何回も言われたのだ。
その為 先頭はジゼルが先頭に立ち道を進み?
切り開いたり? しながら進んでいる。
二人に草木を踏まず、足跡が残り難い歩き方まで 伝授され道無き道を進んでる最中だ。
しかし厳重と言うか無茶苦茶 警戒してるな、
他の奴に見付かったら荒らされるから仕方無いと言えば仕方無いが、凄い慎重だ。
「ジゼル大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
ジゼルの奴 足取りがしっかり‥‥ いや、軽いな。
足元も‥‥ すげえな、人が通ったって気付かんわ、
多少倒れてはいるがあれ位ならその内戻るだろう。
「守長さすがだねー 草が避けてるみたいだね、歩き方も上手いし」
「お前達に口が酸っぱくなる位に言われたからな、そりゃ気ぃつけるわいさ、しかし慎重だな」
「だって秘密の場所だもん慎重に慎重に気を付けないとバレたら全部盗られちゃう」
アンナが盗られると言うのはある意味間違って無い、そこの場所にある木苺は代々受け継がれてきた秘密の場所だ。
二人の先祖がその場所を発見して以来、
代々受け継がれてきた場所らしい。
「それなのに俺に教えても良いのか?」
「守長はイイの、それに守長はみんなに言ったりしないでしょ?」
「まぁそりゃ言ったりはしないけど」
「ならイイよ、ねっ、お姉ちゃんも良いんだよね」
「私も守長なら良いですよ」
あらあら、えらい信頼されてる事で、そら誰かに口軽くペラペラ言うつもりは無いけどな。
ん? ジゼルが藪の様なのを掻き分けだした、
あーそっから入るのか?
折らないように慎重に中に入るとそこは別世界だった。
一面に木苺が生えている、おいおいどんだけ生えんだよこれ? 凄いな‥‥
ここだけぽっかりと空間が広がっており、
周りから隠す様に木や、高さのある藪に囲まれていて、まるで妖精が自分達で食べる為に特別に作った場所みたいだ。
ふと上を見た、山の上部からも木々に隠されており
見付からない様に隠されていて、藪もここの上部の周りを上手い事隠している。
しかもあれ斜面の角度がきついな、
普通の人間はあの斜面には入り込まないだろう。
ここに至る迄の道は割と平坦ではあるが、藪や草や木々に邪魔されて入り難いし、普通は入ろうとは思わないし、実際入りたいとは思わない。
だが入った先には平坦であり、木苺が一面に広がる素敵な風景が現れる。
素敵ってジゼルみたいな言い回しになったな。
「どう守長凄いでしょ?」
「私達の、我が家の秘密の場所なんですよ、と言ってもヒミツの自慢なんですけどね」
「本当だな秘密の場所にしておきたい気持ちってのも分かるわ、まるで精霊か妖精が自分達用に特別に造ったみたいだ」
美しさすらあるな‥‥
絵画の1場面みたいだ、何と言うか綺麗な風景でもあるし、うん、何か良いな。
「守長ここの木苺とっても美味しいんですよ、食べてみて下さい」
「さぁさぁ守長、私のおごりだよ、お腹いっぱい召し上がれ」
「コイツ‥‥ 洒落た言い方しやがって、
アンナの癖に言うじゃないか、気に入った!
うむ、苦しゅうない、褒めて遣わすぞ」
「も~う又そんな難しい言い方して~ ねえ食べようよ、とっても美味しいんだよ」
「ああそうだな、ジゼル、アンナ、頂くぞ」
二人は俺の言葉に嬉しそうに頷く、悪くないな、
うん、何か良いなこう言うの。
食べる前にジゼルとアンナにクリーンを掛けた、
勿論俺自身にもだ、少し汗が出てたし草木で汚れていたからだ。
木苺を六つ採り手の平に置いた、香りが強いな、
しかも酸っぱい香りより甘い香りが強い、
木苺は普通は酸っぱい、酸味の香りが強いのにな、
まぁ食べてみるか。
ん? 甘いな! 何だこりゃ?
これ本当に木苺か? 木苺は甘味より酸味が強いもんだぞ、それなのに甘味が強い、酸味も勿論あるが強い甘味に酸味が味付け程度にしか無い。
美味いな‥‥
酸味が強くほんのり甘いのが木苺だ。
だがこれは甘味が強くほんのり酸味がある。
逆だな、普通の木苺とは逆だ、たまたまか?
もう一つ食べてみるか、ん? これもだ!
残り四つも食べたが全部甘味が強く、ほんのり酸味があるだけだ。
適当に採り食べたが全部そうだった。
おいおい、精霊か妖精が自分達用に造ったって言ったがあながち間違って無いかもな。
木苺は前世でも食った事はあるがこんなに甘味と旨味のあるやつは食った事無いぞ。
今世で食った物と前世で食った物も酸味が強く、
甘味が少ない物だったがここのは良い意味で逆だ、
マジか‥‥ 美味い、幾らでも食えるな。
「守長 美味しいですか?」
「ああ美味いな、こんなに美味い木苺は今まで食った事無いな、皇帝陛下でもこんな美味い木苺は召し上がられた事は無いだろうな」
「良かったです喜んで貰えて」
ジゼルはとても嬉しそうだ。
アンナも嬉しそうだが口一杯に木苺を詰め込んでリスみたいになって居る。
「おいアンナ何だよそれ? 口に詰め込みすぎだぞ」
「ふぁってほいしいんらもん」
「飲み込んでから言え、行儀悪いぞ」
「もう、急いで食べちゃった~ だって美味しいんだもんって言ったんだよ」
アンナの言い方に、そしてアンナらしい理由に笑ってしまった。
ジゼルも笑って居る、楽しそうに、嬉しそうに。
「もう、口に付いてるよアンナ、慌て無くてもいっぱいあるんだからゆっくり食べよう」
そう言うとジゼルがアンナの口を拭いて微笑んで居る。
その姿は正に大天使であるかの様だ。
流石は大天使ジゼルだな、慈愛に満ち溢れているよ。
残念だな、ジゼルがせめて後十才+されてればなぁ、
二十歳を越えていれば多分口説いて居たな。
「あの‥‥ どうしたんですか守長?」
「いやなーに、アリーばあ様が飲めば大人になれる怪しい薬でも持って無いかと思ってな」
「?? 大人になる薬ですか?」
「まぁあれだ、ジゼルが可愛いと言う事だ、
そしてここの木苺は帝国一の美味さだな」
「もうからかわないで下さい守長‥‥」
本当残念だよ、話も合うし天使だし、ジゼルがもっと早く生まれて居ればな。
おっと!
「アンナ食え食え、ホレ、お喋りするよりも美味しい木苺を食え、こんな美味いの食わなきゃ損損」
「もう! お姉ちゃんばっかり‥‥」
「ほらアンナ、そんなプリプリしてたら自称村一番の美人が台無しだぞ」
「エヘヘそうかなぁ‥‥」
チョロいな、てかちゃんと聞いていれば気付けたのにな、本当、残念な奴だよ。
ジゼルは意味が分かったみたいだな、
お前の姉は苦笑いして居るぞ。
うん、ちゃんと聞いていれば分かるんだがな。
甘いなアンナ、まるでこの木苺の様だ。
本当残念だよ、まぁ良い、今はこの木苺を楽しもう、甘い甘いこの実を楽しもう。