第106話 姉妹と秘密の木苺
爽やかな陽気だ 雀の鳴き声すら心地よく感じる
朝一で仕事も終わらせ長い自由時間の始まりだ
嗚呼何と素晴らしい日々だろう
左遷はされたがまるで休暇を与えられた様だ。
うん、それだけは感謝している。
帝城での仕事は確かに遣り甲斐はあった。
それは間違いない、だが自分では知らぬ間に、
そう、気付かぬ内に心身が疲れていたのだ。
まぁ仕事が面白過ぎてやり込み、
はまり過ぎたと言うのもある。
左遷され飛ばされたが結果オーライだな。
食い物もここは美味い、
魚介に関しては全く文句は無い、うん一切無い。
肉類がちょっと手に入れ難いが加工肉に関してはまだ手に入れ易いし、生肉に関しては残念ではあるが仕方無いとは思っている。
山々に阻まれているが一応は帝国第二位の大都市でもあるバハラの隣だ、そこまで不便な地とは言えない。
それに街道が整備されたのでバハラとの往来もかなり改善されている。
交通の便は良くはなってるんだ、
そこに関してはあのロリババアに感謝だな。
帝国全土での本格的街道整備、それこそ再整備では無く、新規作成と言って良い程の大改修だからな。
バハラ周辺で試験的に街道整備をしたが、それこそ他国から見たら十分以上の街道大整備に見えるだろう。
アレが単に限定的、試験的に行われたって聞いた他国の人間が度肝を抜かれたって話だ。
それを簡単に出来るのが帝国って国だ、
とは言えソレを帝国全土で本格的にやるとなると流石に時間も金も掛かる。
奴が一生掛けてやる仕事って言ったのも頷ける。
あのババアその話をする時嬉しそうに何時も話してたんだがなぁ‥‥
「守長~ 何してんの?」
ゲッ! アンナかよ‥‥
「暫く旅に出るんだよ、自分探しの旅だ、探さないで下さい じゃそれでは」
「もう又訳分からない事言って~ ねえねえ籠持ってるし鉈みたいなの持ってるし山に行くんでしょ? ねえねえ私も行く、ねえ良いでしょ?」
「良い訳あるか! てかお前学校‥‥ は休みか今日は‥‥」
くっそー 面倒な奴に見付かったな‥‥
てか今日は学校休みの日じゃないか、こりゃ暇してやがるな、意地でも付いて来るぞコイツ‥‥
いや、もうそれ付いて来るでは無く憑いて来るじゃないかよ! うん、でも付いてより憑いての方がしっくりくるな‥‥
撒くのは無理か? うん、無理だろうなぁ‥‥
チッ‥‥
「お前どうせ絶対憑いて‥‥ 付いて来んだろ?
嫌だけど、嫌だけど仕方無い、家の人間に許可は取れよ、それとスカートは危ないからズボンに履き変えて来い、あと靴もブーツを履いて来い、
そんで籠と小さい鉈と小さいナイフもな、
道具を持って来る許可も大人の家族に許可取れ、
嘘は付くなよきっちりと許可を取って了承‥‥
許可が出たら付いて来ても良い」
「本当! やったぁ! ねえ守長、私が着替えて道具を準備してる時に勝手に行かないでね」
チッ‥‥ アンナめ俺が撒く事を警戒してやがる。
仕方無い、これもし撒いたら後でうるせーからな、
コイツ、付き合いがそこそこ長くなったからか俺の考えある程度読みやがる様になったな‥‥
「撒かねーよ、てか俺は靴下茸を採りに行くんだぞ、木苺が有ったらそれも採るが‥‥」
「あっ、私もアレ好きだから良いよー それに木苺もイイねー 私の秘密の場所を守長に教えてあげるね」
そうだった、コイツも松茸は好きな奴だった、
何故アンナが松茸が好きかと言うとクラインのじい様と一緒で度胸試しで食った事が原因だ。
クラインのじい様は松茸を益々嫌いになったが
アンナは食べて行く内に慣れ、そして好きになって行った奴だ、帝国では珍しいとも言える奴である。
てか松茸を度胸試しに食えるって、
前世からしたら信じられない贅沢だよな。
「ねえねえ守長、靴下茸はまだ時期じゃ無いからそんなに採れないかも知れないね、後少し経ったらいっぱい採れると思うけど」
「まぁそうだなそれでも少しは採れるだろ、どうせ後一月だ、場所と状態の確認をしておきたいしな」
「そうだねー でもいっぱい取りたいなぁ、あっ守長、私用意してくるね、絶対待っててね」
「おう、ちゃんと準備して来いよ」
話ながらだったからアンナの家にあっという間に到着した、多少時間を食う事になるが仕方無いな。
人がやや少ないのは昼飯食ってる奴等が多いんだろう、俺は朝イチで仕事を終わらせ本を読んだりコーヒーを飲んだり、畑を手入れして時間を潰した後、早めに昼飯食ったが基本的には今の時間は昼時だ、アンナも早めに食ったんだろう。
そう考えればアンナと一緒に行くのは巡り合わせって事か、ん? アレ?
「あのー 守長」
「どうしたジゼル?」
「その‥‥ 妹に聞いたんですけど山に行くんですよね? 私も一緒に行っても良いですか?」
「いやまぁ良いけど靴下茸を取りに行くんだぞ、木苺もあったら採るがあくまでメインは靴下茸だからな、それでも良いのかジゼル?」
「はい、迷惑じゃ無いのなら一緒に行きたいです」
「迷惑じゃ無いから良いぞ、だが行くなら準備しなきゃな、まず・・・・・・・・・・・・」
ジゼルにはアンナに言った事を同じく伝え準備してくる様に言った。
そこまで準備に時間は掛からんとは思うが、
同行者が増えてくなぁ‥‥ まぁ良いけど。
「守長~ 何でお姉ちゃんも行くの~?」
「ジゼルが行きたいって言ったんだよ、
てかお前ちゃんと許可は取ったんだろうな?」
「取ったけど~ もう! 守長と二人で行けると思ったのに~ 二人っきりじゃ無くなっちゃった!」
いや知らんがな、てかコイツまさか俺とデートでもするつもりだったのか?
あー そうかデート気分だったんだな。
うん、そう考えればジゼルが同行するのは渡りに船だったな。
「ねえ守長!」
「うっせーな‥‥ ガタガタ言ってると置いてくぞ、ジゼルと二人で行くからお前は留守番しとくか?」
「何でよ! 私が先に誘ったのに」
「いや誘ったってお前‥‥ 付いて来るって言っただけだろ、お前本当‥‥ てか姉妹だろ、別に良いじゃないか、文句があるなら留守番しとけ、で? どうするアンナ?」
「・・・ 仕方無いからお姉ちゃんも一緒に行っても良い‥‥ 仕方無いからだけど‥‥」
コイツは‥‥
「おいアンナ、一度認めたのなら揉めたりするなよ、てかジゼルにヤカラ言うんじゃ無いぞ、チンピラ行為禁止な、分かったか?」
「わ 分かってるよ そんな事しないもん」
うーん‥‥ いまいち信じられないんだが‥‥
一応釘を刺しておくか。
「アンナ、言質‥‥ お前分かったって言ったな? 約束破ったらお仕置きな」
「うん・・・」
コイツは本当にもう! 姉妹仲良くしろよな。
これに関してはアンナの独占欲なんだろうが‥‥
「守長お待たせしました」
「ん、じゃ行こうか、おいアンナ行くぞ」
「うん‥‥ もうお姉ちゃん‥‥」
「おいアンナ、吊るされるのと、吊るされるのと、吊るされるのとどれが良い?」
「どれも嫌だよ!」
「じゃあ黙ってような、俺は言ったよな?」
「わ 分かってるよ‥‥」
そう言いながらやるんだよなコイツは‥‥
てかさっきから視線を感じるな。
うん、アレは我らのアイドル、ジョン君だね、
両手に花でムカつくとでも思ってんのか?
まぁそんなとこだろうな で、ちょっかい掛けてやられると、てか懲りないよなあいつも、お約束と言うかパターン化してるよな。
今ん所アンナは気が付いて居ないが、
気付いたらどうするんだろう?
まさか奴も付いて来るって事は無いよな?
うん無理、面倒だし鬱陶しいし絶対何かやらかす。
そうだな、間違いなくやらかすな、
そんで松茸狩り処では無くなると。
うん、見なかった事にしよう、てかさっさと行かないと時間が無くなる、楽しい時間は短いんだ。
「おいジゼル行くぞ、ついでにアンナも」
「何で私はついでなの? ねえ?」
「ジゼル山でコケるなよ、気を付けるんだぞ」
「ねえ守長私は? ねえ?」
「うっせーな‥‥ お前の身体能力があるならコケる事は無いだろ? てかわざとコケて可愛いアピールとかは止めろよ危ないんだからな、気を付けるんだぞ、それとジゼルは女の子なんだから気にするのは当然だ」
「ん? ねえ守長、私を褒めてるの? それとも心配してるの? 何か違う気がする、アレ? 女の子‥‥ ん~? 私も女の子‥‥」
いや普通気が付くだろ、まぁ褒め言葉とも心配してるとも一応は受け取れるな、だがそうで無いとも受け取る事が出来る。
言葉って本当難しいね。
「ジゼル結構ズボン似合ってるな、良いじゃないか、悪くないな」
「んー 何か少し落ち着きません、でも山に行くのにスカートは不味いですから仕方無いですけど」
そう虫もいるし草木で身体を切るからな、
上も長袖だしそうしないと大変な事になる。
それにこないだの様にパンチラの心配も無い。
うん、ジゼルのズボン姿は本当に似合っている。
何時もと違う姿で印象が変わるってのもあるが、
何かボーイッシュさが加わって意外とそれが似合ってる。
何時もの文学少女さが消えて活発さを感じるな、
邪魔にならない様に髪をアップにしてるのも良い、
てかこのアップの仕方は俺が教えたやつだな。
「ねえ私は? 私はどう守長?」
「わぁ~ すごくいいねー にあってるね~」
「本当? エヘヘ」
「・・・」
チョロいな、てか褒められた事で言い方とか迄 気が回らなかったんだろうな‥‥
普段なら絶対気が付いてギャーギャー言ってるんだろうが、俺に褒められると言う滅多に無い事をされてそこまで気が付かなかったか。
まぁテンションが上がってると言う事もあるか、
冗談抜きでアンナの事も気にして気を付けておかねばいけないな。
「守長、やっぱ私が村で一番の美人なんだね」
「・・・」
どうしよう、今からコイツ撒いてジゼルと二人で行きたいんだけどダメかな?・・・