●第九話 短剣のミハイル
地上は血が飛び散り、悲惨な状態だった。
動いているのは五人。
だが、生きていると言えるのはたった一人だけになっていた。
「くそっ、アンリエッタ、頼む、正気に戻ってくれ!」
噛みつこうとするクレリックを槍で防ぎながら、戦士が懇願する。
「無駄よ。その顔色はアンデッド、生無きモノ。彼女のことを想うなら、解放してあげなさい。……それしかないわ」
ニースが目をそらし苦々しく言う。
「ちっくしょうがぁああああああああ!」
最後に生き残った戦士が槍を振り回し、仲間であったはずのアンリエッタの首を跳ねた。
ここは……
「――四大精霊サラマンダーよ、我がマナの供物をもって炎の息を吹きかけたまえ。ファイア!」
着火の呪文を唱えてみたが、炎が上手く点火してくれない。土と石壁しかない砦では【火計】も使えないか。
「シン! どうしてクワを使わないの。早く彼を助けないと」
「わかってる」
死体を斬る手ごたえがあるので、クワを彼らに使いたくはなかったのだが、他に方法も無さそうだ。
青白いオーラを発した刃でゾンビと化した戦士を斬ると、ゼリーでも斬ったようにあっさりと斬れた。
「ヴィンデンスアンゼ!」
遅れてニースも風の精霊に命じ、もう一人を倒した。
これで、残り二人。
「すまない、加勢、感謝する! 槍の戦士は僕が相手をする。だから、ミハイルを――短剣のスカウトを頼まれてくれるか。彼を倒すのは僕の腕では無理なんだ」
「わかった」
ゾンビと化した四人の中で、短剣を持つ男は一人だけ。すぐにわかった。
そのミハイルは、軽装のシーフのような格好をしていた。
冷徹な目は、ゾンビ化していてもどこか落ち着きがある。
青白い顔をしていなければ、ゾンビだと誰も信じないかもしれない。
小さく短剣の先を揺らし、フェイントを使いながら、ミハイルはその場でこちらの出方を窺っている。
「はっ!」
まっすぐ駆け込んでクワを振るおうとするが、ミハイルはするすると蛇行して後ろに下がる。
……コイツ、やりにくいな。
相手が人間だから、というより、間合いに入らせない独特の動きが面倒だ。
「ヴァッセ、ネン!」
ニースが援護してくれ、水をミハイルの背後に出す。だが、ひょいと小憎らしい動きでそれを躱してしまうミハイル。視野が広い。スキル持ちかもしれないな。
このままではらちが明かないので、足止めをしたいところだが……、いや、できるか。
何せ、俺はクワを持っているのだ。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!
「おい、何をやっている! 地面を耕してる場合かよ!」
違うんだなぁ。こうして掘った土を、今度は盛って固める。
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタ!
「はい、土壁の出来上がり!」
「えぇ?」
コの字に作り上げた高さ三メートルの壁。
そこにミハイルを追い込んでいくが、途中でするするっと回り込まれてしまった。
ならば、と壁をさらに増やして追い込むが、三角跳びの要領でぴょんぴょんぴょーんと飛び越えて逃げられた。
体術の優れたゾンビって嫌らしいな。
だが、ミハイルは自分の使命からは逃れられないのか、ある程度距離を取ると、その場で佇んで待機したままだ。
「仕方ない。農民としてこれだけはやっちゃダメだと思うけど……クワを……投げる!」
【怪力】を活かして、俺はクワをミハイルに向けてぶん投げた。
それを、ひょいと避けるミハイルだが――
「取った!」
槍の戦士が横から攻撃し、ミハイルの体を壁に縫い付けることに成功した。
動けないゾンビなど、俺達の敵ではない。
「――四大精霊サラマンダーよ、我がマナの供物をもって炎の息を吹きかけたまえ。ファイア!」
「ヴィンデンスアンゼ!」
ミハイルが炎と風に包まれ、静かに灰と化した。
「終わった……、すまない、ミハイル。僕が油断したせいで、くそっ、パーティーのみんなまで!」
地面を殴る槍の戦士。
その姿を横目に、俺はクワを取りに行こうとしたが――背後に影が現れた。
「ほほっ、小僧、油断しましたね? この機会を待っていたのですよ! お前がマジックウェポンをその手から離すのを!」
おお、逃げていなかったのか『白顔の司祭』
だけど、油断してるのはそっちじゃありませんかね?
「これで、終わりです!」
「ああ、お前がな」
「なっ!?」
さらに司祭の背後に現れた影。
俺とニースはその頼れる剣士の名を笑顔で呼ぶ。
「父さん!」「おじさん!」
「ほほほ、脅かしてくれるじゃありませんか。そんななまくらの剣で拙僧が斬れますかねぇ?」
「では試してみるか? 【レイス・スラッシュ!】」
「ほほ、レイスなどと、この最上位のリッチな肉体をそんな低級の悪霊と……おお?! ば、バカな」
司祭の体に青白い線が浮かび上がった。
「「斬れてる!」」
「なぜですか! 鋼の剣ごときで、アストラル界の幽体を斬れるはずが――GYAAAAA!」
ピロリン♪
『ネームド<白顔の司祭>を倒した!』
『称号<若き勇者><死の救済者>を入手』
『称号の付与効果により、以下の能力が永続的に上がります』
『<対格上 戦闘能力補正値>+10%』
『<対不死 戦闘能力補正値>+10%』
『<カリスマ>+50』
『<名声>+10000』
ピロリン♪
『名声が一定値に達したため、称号<救国の英雄>を入手。関連イベントが低確率で発生します』
ピロリン♪
『【平凡】が発動! <名声>+1000に修正されました』
『経験値5000を入手』
『レベル4 → レベル19にUP!』
ピロリン♪
『【廃ゲーマー☆】が発動! レベルが9に修正され、10レベル分はMAX HPの永続的増加に変換されました』
『MAX HP +255』
ピロリン♪
『特殊イベントをクリアしたため、以下のエクストラ・ルートがそれぞれ解放されました』
<死者への道>
ピロリン♪
『【廃ゲーマー☆】が発動! <死者への道>が<奇魂>に確変しました』
うーん、父さんが倒したのに、経験値が入るってことは、パーティー戦闘扱いってことか。
それはいいけど、不死者の最上位が出てきたのも、このスキルのせいの気がしてきたぞ……。
第七章、終わりです。また次ができたら投稿します。




