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●幕間 パーティー『不屈の槍』

 一撃――

 迫りくるゾンビウルフを短剣で仕留めた。

 本来、ゾンビは短剣で数回斬ったくらいでは仕留められない。不死者のHPはそれほど驚異的だ。

 

 さらに不死者は生前にあったはずの急所も消えており、大幅に個体が強化されている。だが、骨までは強化されておらず、オーラや剣技によって骨格を動けぬ程度に破壊してしまえば、無力化することはさほど難しくない。

 ……強者にとっては。

 なお、ゾンビの倒し方はいくつかあり、そのもっとも手早く効果的なのが、神聖系魔法である。


「――灰は灰に、塵は塵に。偽りの生命よ、神の御慈悲を賜りて、安寧の土に還れ! ターン・アンデッド!」


「よっし、片付いたな。アンリエッタ、よくやった」


 僧侶(クレリック)に槍使いの戦士が声をかける。

 

「ええ、でも、魔法を使ってしまいました。彼らに気づかれたのでは?」


「気にするな。ヤツらはとっくに気づいているさ」


 パーティー『不屈の槍』で唯一、短剣を装備した男が言う。


「だろうなぁ。見たかよ、あのジークとかいう剣士。一振りの一閃で三頭も仕留めやがったぞ。滅茶苦茶だ」


 槍使いの戦士が肩をすくめた。


「結構なことじゃないか。ヤツは強い」


「おいおい、ミハイル、そんなことを言ってる場合かよ。このミッション、ヤツらが逃亡しようとしたら、……その、始末しなきゃいけないっていうんだろ?」


 槍使いの戦士が難しい顔をして言った。クリストフはこの若さでなかなかの腕前だが、冒険者としては経験が浅い。


「そうだ。だが、クリストフ、お前は手を出さなくていい。オレが全部片付けてやる」


「それはいいけどよ……勝てるのか? ミハイル」


「フン、いいか、クリストフ。オレ達に課されたミッションは勝つか負けるかじゃあない。真正面からのお行儀のいい剣術試合でもない。なら、やりようはいくらでもあるさ」


「そ、そうか。そうだよな」


「じゃが、あヤツの不意を突くのもなかなか難しそうじゃ」


 老戦士も乗り気でないらしい。

 

「案ずるな。ジークがそれほどの腕前なら、『白顔の司祭』も倒せるかもしれん。倒してくれれば、オレ達が口封じする理由もなくなる。倒せずとも、あれとやりあえば無傷で済むはずがない」


「なあ、ミハイル、共闘ってわけにはいかないのか? みんなで協力して『白顔の司祭』に立ち向かえば……」


「クリストフ、お前は『白顔の司祭』のヤバさを知らないから、そんなのんきなことが言える。ヤツには、この国のAランクが二つも全滅させられたんだ。そうだな、お前なら……五秒と持つまい」


「くっ、わかったよ、リーダー。だが、それならそれで、オレらが周囲の雑魚を片付けてやってもいいよな?」


「勝手にしろ」


「やれやれ、ミハイルがそんな優しいことを言うとは、今日は雨でも降りそうじゃわい」


「無駄口を叩くな。ヤツらが先に進む。追うぞ」


「「「了解」」」


 ジーク達を尾行し、霧のかかった森を奥へと進むと、崩れた砦の石壁が見えた。


「来たぞ、あそこだ」


「うっ」


 アンリエッタが突然、口を押えてよろけた。


「ど、どうした、アンリエッタ」


「ごめんなさい、ちょっと気持ち悪くなっただけ。大丈夫だから」


「そうか、なら良かった」


「でも、なんて邪気の濃さなの。まるで地獄の中にでも入ったみたい。いったい、ここは……おお、神よ、迷える我らにご加護を」


 印を切り、神に祈りをささげるクレリック。霧に包まれた砦の不気味さは、パーティー全員がここに一歩足を踏み入れたときから感じていた。


「見ろ、さっきまで晴れていた空がまるで夜のように曇っておる。この場所はまずいぞ」


 老戦士が空を見上げて言った。


「行くぞ。情報では地下に入らなければ、問題ない」


 ミハイルはこともなげに言った。

 冒険者として、また、暗殺者として経験豊富な彼はこれまで数々の死線を乗り越えてきた。無謀に突き進むだけではない。ときには依頼と名誉を放棄して逃げ出したこともある。

 だから、引き際の見極めには自信があった。


「お、おう」「「了解」」


 だいたい子ども二人も先に進んでいるのだ。

 それを『不屈の槍』がしっぽを巻いて引き返すだと? 冗談じゃない!


 ミハイルは短剣を握りしめ、先頭を歩く。

 ……その先が己の死線をわずかに踏み越えてしまっているとも知らずに。

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