●第七話 『白顔の司祭』
「フヒ、フヒヒヒヒヒヒヒヒヒ」
「フフ、ウフフフフフフフフフ」
二人でその宝物を眺めながら愉悦の笑いに浸っていると、父さんが振り向いて言う。
「シン、ニース、冒険者カードはもういいだろう。懐に収めておけ」
「「エー。見るのが楽しいのに」」
せっかく初めてもらった冒険者の証なのだ。
しかも、異世界といえば冒険者カードである。
ランクFと記されているのが玉に瑕だが、これから上げていけばいい。
どういう仕組みなのか、左には俺とニースの顔写真がそれぞれ写し込まれ、裏にはステータスの数字まで書き込まれている。
父さんの話ではこれはアーティファクトと呼ばれる不思議な力によって作られていて、その詳細はギルドの幹部しか知らないそうだ。
「いいか、二人とも振り向かずにそのまま聞け。さっきの街からずっと後をつけてきているパーティーがいる」
「「えっ」」
思わず後ろを見たくなったが、我慢しなくてはならなかった。表情を変えぬまま、父さんが付け加えて言う。
「それに『白顔の司祭』の場所をギルドが把握していながら、今まで放置しているというのもおかしい」
「どうして? たまたま見つけて、僕らにすぐに教えてくれたってわけじゃないの?」
「違うな。あの受付の落ち着きぶり、しかも教えるならその場で教えても良かったはずだ。半日も待たせる理由がない」
「それは……」
確かに、今振り返ってみると、ギルドの対応はちぐはぐな印象を受ける。
「おそらく、『白顔の司祭』は相当な強敵なのだろう。少なくとも居座ってひと月は経っているはずだ」
「そんなに? じゃあ、ゾンビ達も」
「ああ、相当な数がこの付近にいるはずだ。本来なら、指名クエストや大規模ミッションを組んで、他所からも有名冒険者を呼んでこなければならない事態だと思うが……あるいは、騎士団の編成が遅れているだけかもな」
「ああ、きっとそうだよ、父さん。騎士団って大人数だから、すぐには編成できないんでしょ?」
「まあそうだがな。シン、私はお前にそんな話をしたことがあったか?」
「えっとね、リック! リックがそんな話をしてたよ」
そういうことにしておこう。前世の知識、しかもゲームの知識なんて、父さんには説明しづらいし。
「そうか。あの若者、やはり行商だけあっていろいろと詳しいな。とにかく、『白顔の司祭』は父さんに任せておけ。お前達は手を出すな」
「ええ? せっかくパーティーを組んでいるっていうのに」
「そうよ、おじさん! 私が精霊で援護するから」
「ダメだ。……そうだな、冒険者の鉄則を一つ、お前たちに伝授してやろう」
「「おお! 教えて!」」
「それは、己の敵を見極めろ、ということだ」
「んん?」「己の敵?」
「そうだ。特に未知の強さの敵を相手にするときは、その見極めがこちらの生死を分けるし、強すぎる敵に挑めば、パーティーが全滅する。戦ってはならない敵には決して近づいてはならん」
「……わかったよ、父さん。それほどの相手かもしれないってことだよね?」
「ああ」
「ニース、魔法も使えて強いのに……」
「そうだな。シン、ニース、お前たちには近くにいるゾンビを任せたい。お前たちが強いから、任せるんだぞ?」
「うん」「任せて!」
雑魚の相手を任されてしまったが、ま、父さんは間違いなくこのパーティーで最強なのだ。あの素振りを見るだけでわかる。
だから、相手のボスに相対す布陣としてはこれが正しいだろう。
「でも、父さん、帰ったら、僕にも剣術を教えてよ」
「いいだろう」
「やった!」
「あ、ずるい、ニースもぉ!」
「んん? ニースはなぁ」
父さんが頭を掻いて困った顔をするが、彼女をエルフの里に送り届けるのが今回の僕らの目的だものな。
もうすっかり言葉を覚えて、仲良くなったけれど、ニースはエルフの両親の元に帰るべきだ。
「やーだー、やだやだやだやだやだやだ!」
その場で駄々をこね始めたニースはやはり子供だ。仕方ないな。
「じゃあ、約束だ、ニース。父さんも、いつか、ニースに剣術を教えてくれるよね?」
「わかった、約束しよう」
今すぐ、ということでなければ、ということで父さんも妥協する。
またいつか、エルフの里を訪ねてもいいだろう。国境を越えないといけないし、遠いから度々というわけにもいかないけど。
「うん、じゃあ、約束。――ヤー、イミン、クロスナム、インクエット、フェブント!」
ニースが指でルーンを象り、何かの魔法を唱えると、父さんとニースの体が青く輝いた。
「むむっ、誓約の魔法か。仕方ないな……またニースに会いに行かねばな」
「ふふー♪」
「ニース、この魔法、約束を破ったらどうなるんだ?」
「えーとね、すっごい頭痛で……じゃなかった、約束破ったら死んじゃうんだから、絶対死ぬ!」
「ええっ! それは困るよ。父さんだって忙しいし、いつでも来れるというわけじゃ」
「まあいい、時間指定まではしていないからな。約束は守ろう。それより、来たぞ、二人とも」
「「了解!」」
俺達が構えると同時に、左右からゾンビウルフが跳びかかってきた。




