●第四話 果実酒を作ろう!
酒はコメ、麦、果実、芋などをアルコール発酵させて作るものだ。
酵母菌によって糖分を腐敗させると酒ができる。
【前世知識】(アニメ)で知っている俺の手にかかれば、酒を造るなど、簡単簡単。
ハチミツ酒も作っているからね。
「それではまず材料ですが……この地域に多いチェリーを使いましょう」
日本名だと、サクランボ。
ちょうど六月の半ばで実も熟している頃だ。村では子供たちが競って木に登り、甘酸っぱい実を採って食う。
花の咲き方が桜よりもぎゅうぎゅうで品種がちょっと違うかもしれないが、食べられる果物なら何でもいい。
ブドウもこの地域では育てられているが、まだ花が咲いたばかりで実がなっていない。
「よし、さっそく兵に集めさせよう」
「あと、村のヤム芋も使えるかな」
行商リックが南大陸から持ち帰ってくれた不思議な芋。
中身がオレンジ色をしていて、カボチャとサツマイモの中間のような味だ。甘めだから行けそうな気がする。
兵がチェリーを集めてくれている間、俺は樽作りに取りかかった。
酒を造るにあたって大事なのは衛生面である。
お腹を壊したり、死人が出るような酒を造っても意味がない。
味も美味しいほうがいいし。
「見よ、この木工職人、熟練度1200倍の威力を!」
ドワーフの親方に作ってもらったカンナやノコギリで、道具も以前とは格段の差がある。
そして神竜の牙で作られし『神竜のクワ』
シュバババババッ!
と残像を生み出しながら樽を作る。作る。作る。
「なんという動き……! だが、あの大盗賊カンダータを倒したのだ、それくらいの実力でなくてはな!」
「シ~ン、持ってきたよー!」
若草色の髪をした少女が手を振る。
彼女の耳は細長く尖がっている。
「おお、ニース、父さん!」
馬に引かせた荷車にいっぱいのヤム芋を載せてニース達がやってきた。
「ご苦労であった、ジーク、そしてエルフの子よ」
「いえ、これも領主様の思し召しとあらば」
「そう堅苦しくしなくていいぞ。ところで、その荷車の車輪、黒くて変わったモノが付いているな?」
「は、ゴムに硫黄と炭の粉を混ぜて固めたものですが……」
「ゴム?」
「シン、お前が領主様にご説明してさしあげろ。私では詳しくはわからぬ」
「はい、木から垂れる樹脂を煮詰めると、ちょうどいい硬さになるのでございます」
「ほう。おお、この肌触りと感触、変わっているな……これで荷車の無駄な振動を抑えているのだな?」
「その通りです」
前は硫黄で固めただけだったが、さらに改良を施し、炭を混ぜたことでタイヤの強度が増した。
『天啓――黒き運命の輪が回り出し、闇の雲に包まれし醜き者ども、小さき針を持つ宝の番人から、明かりと聖なる包みと美しさを盗み出すであろう』
洗濯板『洗えるくん一号機』のエクストラ・ルートを完全にコンプリートできたわけだ。
【前世知識】と『天啓』があったからこそ、強いタイヤを作り出せた。
へんてこでいらないスキルだと思ったが、神様には感謝しないとな。
「領主様、こちらは冬麦の収穫が終わり、シンが神殿の像を作るというそちらのお役目も終わったはず。そろそろこのエルフの娘をシンと共にエルフの里へ送り返してやろうと思うのですが」
父さんが言う。農繁期が終わったら、ニースを故郷に送る約束だ。エルフの国を見てみたいので、俺も付いていくと言ってある。
「ううむ、ちょうどシンには酒を造ってもらい始めたところなのだが……そうだな、エルフの親も心配しておろう。シンよ、こちらはいったんそのままにして、先にエルフの国へ向かうがよい」
「は。では、仕込みだけ済ませて、出かけることにします」
衛生面を考えたら、兵士達だけに任せるのは心もとない。
ニースにも手伝ってもらい、魔法の水でサクランボを洗った。お湯で加熱殺菌した布で包んでサクランボを絞る。
「おいしそう……ジュルッ」
「ああっ、ニース! よだれよだれ!」
「あぅ、ごめん」
数滴、ニースのよだれが樽の中に入ってしまったが、仕方ない。捨てるのはもったいないし、加熱殺菌して味や栄養が失われるのも微妙だから、このまま行こう。樽は八個もあるのだ。兵士たちも自分たちが飲める酒の材料とあってか、張り切ってブランデン中のサクランボを集めまくったらしい。ま、木の実なら、取りつくしてもまた来年に実がなるからな。
サクランボを大量に植えて増産するのも良さそうだ。種はある。
「では、マリアお嬢様、しっかり記録を付けておいてくださいね。たとえ今回が失敗しても、次に活かせますから」
「ええ、任せておいて、シン。この、『温度計』? の目盛りと匂いと色を記せばいいのよね?」
カプチーノ老司祭から受け取っていた透明な石『ラピス・スペキュラリス』の残りを加工し、そこに水銀を入れて密封した『温度計』も作り出した。発酵は温度管理が大事そうだからな。
目盛りはニースに氷の魔法を唱えてもらい、凍り始めたところがゼロ、炎の魔法(着火だけど)は俺が使えるので沸騰したところを百、体温がだいたい三十六あたりになるよう、目盛りを刻み込んである。摂氏だ。
スキルが発動すると思ったが、温度計はすでにこの世界の誰かが作っていたようで発動しなかった。
「はい。あと、気づいたことや変化があれば何でも」
「うん、細かく書いておくね」
「お願いします」
「そう心配せずとも、シンよ、酒の醸造くらいはこの街でも職人がいるぞ」
「ええ、ですが、職人の勘に頼るよりも、誰でも再現できるようマニュアル化したいので」
「マニュ? まあ、言いたいことはわかった。ではエルフの子よ、達者でな」
「うん! さようなら、人の子の男爵様」
「ハッハッハッ、人の子か、まあ、そうなのだがな」
さあ、エルフの国に出発だ!




