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●第二話 腐敗と神罰

 俺はマリアに皿の上にあるものを説明する。

 

「これは塩の結晶ですよ。小さな粒を作ってそれに毎日塩水を少しずつ足していって、結晶を大きくしたんです」


 塩水が気化して蒸発していくと、塩の結晶ができるのだ。


「へぇー、凄い、これがあの塩の粉からできているなんて。まるで宝石みたい!」


「その話、本当なのか?」


 リリスが疑ってくるが。

 

「リリスお嬢様、あなただって毎日ずっと、僕の作業を見ていたじゃないですか」


「いや、だけど、水を足すところだけだから。あとでシンがこっそり粒をどこからか取り替えたかも」


「ええ? 疑り深いなぁ。そんなことはしませんよ。あとで自分でやってみてください。同じことができますよ」


「うん。それでその結晶をどうするんだ?」


「フフフ、実はこの結晶は使いません! 皿に残った水こそが、僕の求めしモノ!」


 俺は結晶をひょいとつまんで皿から取り除き、下に残っている水を鍋に注ぎ込む。


「わ、じゃあ、その結晶、私にちょうだい」


「いいですけど、はい、マリア様。舐めちゃだめですよ」


 塩分を取りすぎると体に悪いし。


「ええ? うん、でも、私の宝石箱に入れておくつもりだから」


「それならいいですが」


 俺は鍋の下にくべた薪に向けて炎の呪文を唱える。


「――四大精霊サラマンダーよ、我がマナの供物をもって炎の息を吹きかけたまえ。ファイア!」

 

 火箸で薪の位置をつついて、火力を調整っと。

 鍋の水がぐつぐつと煮立ち、どろどろになり始める。

 

「これは、何だ? 普通の水とは違うようだけれど」


 リリスは鋭い。

 

「ええ、これは『苦汁(にがり)』なんですよ」


 【前世知識】によればマグネシウム。とある食品には欠かせない材料だ。


「『苦汁』……そういえば、質の悪い塩は苦みがあるな。ほう、皿で塩水に浸して放置するだけで、塩の純度を上げられるなんて!」


 リリスが何やら感動しているが、おそらくこの世界でも大人や職人にとってはそれが一般的な知識のはずだ。ただ、手間がかかるから粗悪な塩はそのまま売られているというだけで。

   

「そしてこれに、ハイッ! 今朝作り置きしておいた豆乳を混ぜます」


 壺から乳白色の豆乳をドボドボ。

 箸で混ぜ混ぜすると、おお、覚えのある匂いになってきた。

 ちなみに、豆乳は煮込んだ大豆を潰して水に混ぜたものを、布で濾過しただけだ。

 

「これで沸騰しないよう、火を弱めて待つと……」


 かき混ぜる箸に抵抗感があり、少し固まってきた。よしよし、上手く行きそうだ。【調合】のスキルもあるからな。

 

「こんなものかな。あとは深皿に布を敷いてと」


 鍋の豆乳を移して小分けにしていく。


「あっ、なんだかプリンの作り方に似てるわね! 美味しそう~♪」


「甘くないですよ?」


「エー?」「甘くないのか……」


「これで一晩寝かせれば、豆腐の完成です!」


「「豆腐?」」


「誰しも認めるヘルシーフードで、味噌汁に入れると舌の上でとろけて、それはもう心地よい美味しさです。夏はネギとワサビを付けて冷ややっこ、冬は湯豆腐、ピリ辛の麻婆豆腐でも美味しいですよ!」


「へえ、薬膳料理なのね」

「味噌汁? どちらも聞いたことがない料理だ」


ピロリン♪


『スキル【廃ゲーマー☆】が発動。豆腐(発明中国965または紀元前2世紀)のエクストラ・ルートが解放されました』


『天啓――汝、パンのみにて生きるにあらず。神の水は、ときに邪を払い、ときに人を溺れさせ、享楽をもたらさん。神々の作法に背きし領主に神罰を与えるものなり。異端の英雄、領主のはらわたを抜き取り、血命の信義を得ん』


「ええ……?」


 スキルが発動するのはもう覚悟の上だ。そんなことをいちいち気にしていたら何も開発できないし、何も生活を改善できない。

 だが、今回の天啓は酷くまずい。

 領主が罰せられるという予言になっているが……この領主ってここブランデン男爵領のことじゃないのか?

 館で一緒に顔を合わせている人物が英雄に臓物を抜かれるとか、しゃれになってない。


「どうしたの? シン」「どうかしたのか? シン」


「あ、いえ……ちなみに、お館様ご自身は、信仰や礼儀作法といったところは……」


「お父様? お父様は全然信心深くないわね。礼儀だっていい加減なのに、私達だけしっかり勉強しろだなんてちょっとズルいと思います」


「そうだな。神殿にもたまにしか顔を出さないし、親父も礼儀作法を学んだほうがいい」


 おおう……信心深くないのか……一応、この前、神殿に銀貨を寄付したのは目撃したが、礼儀にも疎いらしいし、これはいかん。


「急用ができましたので、その豆腐は料理長に渡しておいてください。では」


「あ、シン!」「おい、どこへ行く」

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