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●第七話 敗北と本当の目的

 一週間が経過した。


「シンよ。設計図はもうええじゃろう。彫るのじゃ。まさか、おぬし、手を付けないために、時間稼ぎしているのではあるまいな?」


 カプチーノ司祭が怖い顔でそう言ったが、そろそろ設計図で時間稼ぎ作戦は限界のようだ。

 最初は司祭も素晴らしいと言って設計図を楽しんでくれていたんだけどねぇ。


「いえいえ、そんな。私にとって初めての大物となりますし、歴史に残るスペクタクル超大作にしたいと思っているだけですから。まさかまさか、アイディアだけで時間を稼ごうとか、そんなことはつゆほども思ってもいませんよ」


「なら、彫るのじゃ」


「……はい」


 ヤバいなー。

 あの石に手を付けたら、教皇に逆らったというレッテル貼りをされかねん。

 とにかく、薄く削って時間を稼ぐか。


「ふーっ」


 深呼吸して精神統一しているが、後ろにカプチーノ司祭が張り付いていて、どうにもやりにくい。

 ノミを持ってカツカツと薄く削っていく。

 

「シンよ、もっと大胆に削れるであろう。早く頼むぞ。そうすれば、ザーネの若造も諦めるに違いない」


「聞き捨てなりませんな、カプチーノ司祭」


「むむっ、ザーネ司祭。おぬし、巡礼に出ているという話ではなかったのか!」


「フフ、それは直前に気が変わりましてね。あなた方の動向を部下の神官に見張らせておいて正解でしたよ」


 ザーネ司祭もやり手だから、わざとそういうウワサを耳に入れて、カプチーノ司祭を油断させたんだろう。


「うぬう……騙しおったな」


「お互い様です。しかし、カプチーノ司祭、いくら正式な通知が来ていないからといってこれはやり過ぎでしょう。この石が教皇猊下のご意向によって帝都に運ばれる可能性があることは、あなたも理解しておられるはず。だからこそ、急いで像を彫り、事後承諾という形にしようという魂胆ですな?」


「いやいや、そうではない。おぬしも見たであろう。このシンの腕前を。もはやワシはこの神殿にこの像がなくても良いとさえ思っておる。シンに作らせてやりたいのだよ。希代の名工にな。作ったあとで運んでも良いではないか」


「……なるほど。ですが、急がせすぎです。それに、やはり石のままの方が運搬時の事故も少なくてすみます」


「チッ」


「まったく。そういうわけだ、シン君。君も、教皇猊下に逆らったなどというウワサを立てられては困るだろう」


「ええまぁ」


「だが、私も、君に彫像を手がけてもらいたいとは思っている」


「と言うと?」


「帝都へ来て欲しい。もちろん、タダとは言わない。工賃は月に金貨一枚を支払おう。像が完成したらさらに成功報酬は金貨十枚だ。三十枚も稼げば、一生遊んで暮らせるよ」


「おお」


 一ヶ月もあれば完成するのだけれど、そこはゆっくりのんびり作って三年くらいで仕上げてもいいだろう。

 それで一生遊んで暮らせる金が手に入るのだ。

 実に良い話だ。

 

 ただ、それくらいなら普通に稼げそうなんだよな。

 それに、今の俺にはニースを故郷へ連れて行くという大事な使命がある。

 ホントは父さんが連れて行ってくれればそれでいいし、ちょっとエルフの美少女が他にも見てみたいという好奇心が大部分なのだけれど。


「せっかくのお話ですが、父が許してくれそうにないので」


 そういうことにしておこう。


「そうか。わかったよ」


「ザーネ様! 帝都からワイバーンの伝令が到着しましたぞ!」


「来たか!」


 動きがあった。

 神殿の外が騒がしくなり、皆が向かうので、俺も好奇心で中庭に行ってみる。

 そこに空からゆっくりと下りてくるワイバーンが見えた。

 

 スゲえ、羽ばたいてるし、ちゃんと人が乗ってる。

 

「お待たせしました、ザーネ様。総本山から教皇猊下より直々のお手紙です。直接、あなた様に手渡すようにと」


 白銀の鎧を着た騎士が恭しく懐から筒を取り出した。


「うむ、ご苦労。確かに受け取った。誰か、この者に温かい茶を飲ませてやってくれ。ワイバーンにも水とエサを」


 その場で筒を開封したザーネは満面の笑みとなり、次にその文書をカプチーノ司祭に手渡した。

 カプチーノ司祭は文書を数行確かめただけでがっくりと肩を落とし、崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまった。

 

「よし、神殿長の許可も得た! 直ちに帝都に運ぶ準備をせよ。荷馬車に積み込むのだ!」


 ザーネはあらかじめ運搬の手筈を入念に整えていたようで、十数名の兵士達が大きな台車を運び込むと、布で石を覆い、さらにロープで縛って鮮やかな手際で石を神殿の外へ運び出していった。


 やれやれ、助かったな。


「司祭様」


 その場に座り込んだままのカプチーノ司祭に俺は手を差し伸べる。

 

「ふん、放っておいてくれ。ワシはあの若造に見事なまでに敗北したのじゃよ」


「そうかもしれません。ですが、彫像を作る資金は残っているのでしょう?」


「うん? まぁ、それは残っておるがの。じゃが、あの石がなければ……」


「この神殿の像は、他の材質ではいけないのですか?」


 俺はそれを問いかける。


「それは当然……」


 カプチーノ司祭はそう言いかけて、はたと動きを止め、そして笑顔になった。


「いいや、違う石でも構わんよ。そうじゃった! この神殿に、新しい彫像を作る。それが一番の目的であったの。ほっほっほっ、いや、ワシとしたことが、見苦しい姿を見せた。シンよ、もう一度、像を造ってくれるかの」


「はい、もちろんです!」


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