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●第三話 ミットー=フォン=ザーネ司祭

「おや、これはこれは、カプチーノ司祭。構わん、運び出し作業をそのまま続けろ」

「「「はっ」」」


 金髪の若い司祭が出てくると、部下の神官達にアゴで命じた。


「待てぃ! その『ラピス・スペキュラリス』はワシが発見して、総本山から彫像にして良いとご裁下いただいたもの。勝手なことをして良いと思っておるのか!」


「カプチーノ司祭、落ち着かれなさいませ。その総本山、ヴァティカーノからこの拙僧が派遣されてきたことをお忘れですか。この神の石は極めて良質なため、このようなド田舎よりも帝都の彫像のほうがふさわしい。そのように総本山で新たな判断が下されたのですよ」


 若い司祭が口元をニヤつかせながら、老司祭に哀れみの視線を向ける。


「な、なんじゃと……? じゃが、そのような報せは届いておらぬ」


「いずれ届くことでしょう。さあ、もたもたするな、早く運び出せ」


「待つのじゃ、ザーネ司祭。この神殿においてはワシが首席で神殿の長であるぞ。総本山から教皇猊下の印が入った正式文書が届くまで、勝手は許さぬ」


「やれやれ……猊下もお忙しい方ですよ? 一地方の小さな神殿の決定まで、ご本人のお手を煩わせていては神への祈りすらままならぬでしょう」


「ふん、神殿の本尊の建て替えは、教皇猊下の祝福とご裁下をいただくのがしきたり、そのようなことも知らぬとは勉強不足じゃのぅ」


「それは頭の固い『伝統派』の解釈でしょう。時代は常に変わっております。神のご威光をあまねく地方の隅々まで照らすこと、それが我ら信徒の本来の使命であることをお忘れなく」


「はんっ、それこそ『民革派』の勝手な解釈じゃろう」


「なんと。本部の枢機卿の過半数の解釈を、地方の一司祭が勝手などと言われるか」


 ピクリとザーネ司祭が頬を引きつらせた。なんだか面倒な派閥争いがあるようだ。


「おい。しきたりや神殿内部のごたごたは好きにしてもらっていいが、この石材をここで使うのかどうか、はっきりしてくれ。でないとオレがここにシンを連れたまま、待ちぼうけになってしまうではないか。オレも忙しいのだぞ」


 男爵がいらだって声をかけた。


「失礼。この御方は?」


「紹介しておくぞい。この御方は、ここのご領主、ブランデン男爵閣下その人であらせられる」


「おお、これはご挨拶が遅れて申し訳ございません。私はミットー=フォン=ザーネ司祭と申します。つい先日、ヴァティカーノからこちらに新しく赴任して参りました。以後、お見知りおきを」


「うむ、ベルフォード=フォン=ブランデンだ。こちらこそ、よろしく頼むぞ。まぁ、新任の挨拶はそのくらいでいいだろう」


「ええ、挨拶をあまり長々とやっても、つまらないですからね。なるほど、今日はご領主自ら、石材をご覧にいらしたのですね。では、どうぞ、中に入ってご覧下さい。おい、布を外せ」


 ザーネ司祭はそれまでの態度を一変させ、親切に笑顔で案内した。司祭よりは男爵の地位が上、ということなのかな。

 

 石材の保管室は小部屋となっており、前は倉庫に使われていたのか、奥の壁際には棚があり、儀式で使いそうな錫杖や燭台が並べられている。その手前に長さ三メートル、幅一メートルくらいはある石柱が板の上に置かれていた。

 

 神官がロープを解き、石柱を覆っていた布をそっとめくる。


「「おお……」」


 内部から現れた透き通る石に、思わず俺も男爵も感嘆の声を漏らす。

 これは凄い。

 中世の透明な天然鉱物と聞いて、濁った白い石を勝手に予想していたのだが……どうしてどうして、まるで水晶玉のようにどこまでも完全に透き通る石だった。燭台の灯り(魔道具のようで普通の炎ではなく、青白いほのかな光を放っているが)を反射して、キラキラと輝いている。これが洞窟にそのまま存在していたとは。


「これは見事だな」

「凄いですね」


「そうじゃろう、そうじゃろう。洞窟からの運び出しは苦労したからのう。冒険者共は扱いが乱暴でいかん。ここをぶつけてちょこっと欠けてしもうたからの」


 老司祭が石の角を指さすが、角張っているだけで、どう欠けてしまったのかはわからない。見る限りは大した欠けでもなさそうだが。


「欠けたのは残念ですが、それでも彫像にするにはこれで十分な大きさですよ。私も、これほどの石は初めて見ました。見つけて無事に運び出したカプチーノ司祭の手腕には頭が下がります」


「ふん、今さらお世辞を言ったところで、この石の持ち出しは許可せんぞ、ザーネ司祭」


「仕方ありませんね。今はそれでよろしいですが、いずれ本国からの正式な通知文書が手紙としてくるでしょうし、私からも催促の早馬を出しておきます。神殿長が新任司祭の言葉を疑い、あまつさえ無視して抵抗した、といずれ総本山の史書に珍事として記録されることとなりましょう」


「ふんっ、総本山の神殿に頂点は一人。教皇猊下の印がすべてじゃ。これほどの逸材、万が一にも間違いがあってはあってはいかんからの。手続きが厳重で正解であったと、後で猊下や皆から褒め称えられることにならねばよいがのぅ」


「それは、私が嘘を申している、とおっしゃるのですか?」


「よせよせ、二人とも。そんなつまらぬ喧嘩はよそでやってくれ。ところで、シンよ、仮にこの神殿の彫像にするとして、できそうか?」


 男爵が俺に聞く。


「そうですね……、いきなりぶっつけ本番は怖いので、もう少し小さな石で、試させていただくことはできませんか?」

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