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●幕間 領主ブランデン男爵の悩み

 ここは領主の執務室。

 そのあるじのブランデン男爵は自他共に認める武人であり、たいていは狩りを楽しんだり、気さくに農民達と雑談したりしている。もちろん領主の仕事もきちんとこなしている。最低限、ではあったが。 

 今日も机に積み上げられた羊皮紙の束を前に、ブランデン男爵は頭を抱えていた。


「ええい、いったい全体、どうなっている! 最初は王妃の手紙、次にドラゴンの目撃情報など!」


 ブランデン男爵も一応、辺境とはいえ貴族の端くれであるから、王族からパーティーのお誘いみたいな招待状が来ることもたまにある。ただ、王都まで馬で三日かかる位置と離れているので、滅多に顔を出すことは無い。中央の王宮で都会ぶっている鼻持ちならない貴族達とは基本的に、そりが合わないのだ。だから、パーティー以外の手紙が来ることはまれだ。


 本当に王妃からの手紙なのか、と念のために封印を確認するが、やはりユニコーンの首が描かれており、王家の紋章で間違いない。シースタニア王家はかつて街を荒らすユニコーンをうまく捕まえ、そのツノの力を利用して王となり、大きくなったという伝説がある。他の貴族はユニコーンを紋章に使う事は許されていないし、ましてや商人や一般の者も同様だ。


「だが、なぜ、王妃が村の農民の子などを心配するのだ? わからぬ!」


 王族と農民では身分の差もあるし、ましてやここは辺境の地。

 亜麻色の六歳の子を探し出せなどと、どうして王妃がそんな命令を出してくるのか、ブランデン男爵には理解できなかった。理由も一切、手紙には書かれていないのだ。

 しかも、極秘裏に捜してくれと言う。


「そんなもの、名前もわからずに、髪の色だけで簡単に――?」


 見つかるわけがない、と思ったが、一人、ブランデン男爵には思い当たる人物がいた。


 ――農民ジークの子、シン。


 農民にしてはきれいな顔立ちをしており、一瞬、貴族かと思うほど、品がある。

 しかも、大悪党カンダータを退治するなど、子供とは思えぬ力量の持ち主だ。


「ふむ、ひょっとすると、カンダータの退治のウワサを聞きつけられて、興味を持たれたか。だが、それならカンダータの話が出てきてもよさそうだが……」


 ひとまず、心当たりのこの子の名前を書いて返事を出すとしよう。あとは知ったことか。


「お父様、またシンくんを夕食に――」


「ええい、マリア、今、それどころではないのだ! あっちへ行ってなさい」


「はーい……」


 娘のマリアについ、いら立ってキツい言い方をしてしまった。あとで謝るとしよう。シンは娘の命の恩人でもあるし、マリアが上品で礼儀もわきまえているシンを気に入ったようである。ま、自然な成り行きだろう。それは別にいい。どうせまだお互い六歳の子供なのだ。お付き合いがどうとか、そんな段階ではなく、同い年の仲良しさん、その程度だろう。


 ドアがきちんと閉められていることを確認してから、ブランデン男爵は引き出しを開けた。そこにはちょっと人前にはあまり持ち出せない、芸術品の彫像が納められていた。


「司祭が持ってきたこのエロいムチムチの肉体の彫像。これは女体を知り尽くしている男の技だ。服の中まで細かく造りあげるなど……タダ者ではないな」


 スケベ爺の司祭が持ってきた木彫りの彫像にはブランデン男爵も衝撃を受けた。なにしろ豊穣の女神ディメトリアを、このようなボインボインの肉感的な像に仕上げているのだ。ここまで生々しい女神像は初めて見た。花の冠をして麦穂やリンゴを持っているから、女神ディメトリアには間違いない。

 最初は司祭が不敬だと言って彫り師を探しているのかと思ったが、そうではなく、神殿の奥に飾られている等身大の彫像が古くなり壊れてしまったので新しく作り直したい、そのため、この彫り師にぜひ! ということであった。


 売りに出していた道具屋を問い詰め、これを売り出したのはシンだと判明している。まさか、あの六歳の子供がと耳を疑ったが、この目で彫るのを見たと道具屋が真剣な眼差しでいうのだ。嘘ではあるまい。この領主に嘘を付けば、街での商売などあっという間にできなくなるからな。


「それにだ、行商人が石けんや不思議な布を持ってきたり……」


 石けんと蜜蝋の口紅は、妻のブリジットが飛びついた。田舎だから質の良い化粧品などを手に入れるのはなかなか難しいし、石けんに至っては、王族が使うような代物である。男爵も使ってみたが、実に気持ちが良かった。定期的に購入したいものだ。どこから聞きつけたのか、耳の早い近隣の領主からは譲ってくれと手紙も来ている。


 だが、そんな細かい話は、今日の報告に比べればどれも大した事はなかった。


「いにしえの竜を見たなどと……いったい、この領地で何が起きているというのだ」


 ドラゴンが本物であれば、一大事である。

 ただちに騎士団を率いて討伐せねば、街が炎の息で燃やされてしまうかもしれないのだ。

 かつてドラゴンに襲われて廃墟となった街や国はいくつもある。

 去年にはオークの群れ、それも新品の鉄鎧を装備したモンスター達が襲ってきたのだ。

 鉄鎧を大量に買い付けた王都の大商人は行方知れずのままである。


「まずは事実確認だな。ジークとその息子を呼べ! 今すぐだ!」


 ブランデン男爵は信頼できる騎士を呼び、ホイット村へと使いの馬を走らせた。

ストックがなくなりました。

以後、不定期投稿になります。


追記 2/2 19時から投稿再開します。(一章分ですが(;´Д`))

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