●第九話 シンの願い
神に匹敵する力を持つ古き白き竜。
それが目の前にいる。
しかもこの神竜はどうやら友好的で、言葉も交わせるときた。
なんだ、バトルで瞬殺されるかと思ったけど、心配する必要は無かったな。
あの天啓、少しエラーも入っていたようだけど……?
「ちなみに神竜様、死んだ村の子を生き返らせてくれ、というのは……」
『その新しい死体がそこにあるのか?』
「いえ、新しいのはないと思います」
『なら、無理だ。あきらめて他の願い事にせよ』
さすがに、復活は無理か。死んだ直後なら、何とかできそうな雰囲気だったけど。
何を頼もうか。
食い物? いや、食料は欲しいけど、今のところ増産が順調だからな。行商のリックがまた何か種を持ってきてくれるはずだし。
金――もいらない。木彫りの彫像や、チェスセットを作ればいつでも儲けられる。
となれば、ここは【ドラゴンブレス】とか、かなり特殊なところを攻めてみようか?
『炎の息はやってやれないこともないが、汝、力を求めるか?』
「そうですね。ちょっとこの前、中ボス戦みたいなので、苦労したので。今後のためにも戦闘力かと」
『……』
あれ、なんかマズった?
『愚かなる人間よ、争いの種を蒔き、自ら滅びの道を歩むか。ならば、この場で焼き尽くしてくれよう! 死ね! GHOOOOOO――――!』
――とか、言われたら嫌だなぁ。
『そうは言わぬ。過ぎた力の恐ろしさを理解しているなら、問題ない。では、力を示してみよ。それをもって我への貢ぎ物としてくれる』
「おお。つまり、強い力を見せれば――」
『うむ、ていどにより、相応のモノをくれてやろう』
強ければ強いほど、褒美のランクが上がるってわけだ。こりゃ燃えるね!
「あっ、じゃあ、シン、私、風の精霊で手伝う!」
『それはならぬ。一人の力にせよ』
「エー」
まあ、そうだろうな。
「では、神竜様。このクワを使っても?」
いざというときに、肌身離さず持ち歩いてきたクワだ。【神操鍬戦闘術】さえ使えれば……
『好きにしろ』
「よし! じゃあ……」
まずはここまで温存していたステータスポイントを、一気に割り振ることにした。
|筋力(STR) 17
|耐久(VIT) 7
|知力(INT) 22
|魔力(MAG) 10
|速力(AGI) 6
|器用(DEX) 7
|運気(LUC) 15
ボーナスポイント 19
これをすべて|筋力(STR)に回す。
相手は神竜、こっちの生半可な攻撃ではおそらく傷一つつけられまい。
それでも、派手に攻撃を当ててやれば、何かくれるはず。
|筋力(STR) 36
『ほう。子供でありながら、ニンゲンの称号を持つ力を出せるか。これは面白い』
こちらの能力値が丸見えな時点で勝ち目はないなぁ。
あんまり驚いているふうでもないし。
こんなことなら、もっと戦闘系スキルを取っておけば良かったけど、金やら食料やらこっちも必要だったのだから仕方が無い。
今、溜まっている熟練度は――
大工、木工職人、農民、薬師、この辺だ。
その職業のツリーを眺めて見ていくが……
これだな。
【気合い】【釘抜き】【解体】【バール使い】New!
「お待たせしました。では、いざ、推して参る!」
『来い』
「頑張れ~! シン」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
声を張り上げ、気合いを入れる。
人間は体を保護するため、無意識のうちに自分の力をセーブして、筋力の100%を使っていない。
この力のリミットは、大声を出してアドレナリンを分泌させることで、一時的に解除できる。
これを『シャウト効果』という。
最大筋力が12%上昇し、特に疲労時には声を出さないときよりも3倍の力を発揮することができるのだ。
クワももちろん、刃を最初から使う。
竜の鼻先、そこが『逆鱗』だったら怖いので、ちょっと横のほっぺたを狙う。
重力を考えるなら真っ直ぐ上からの振り下ろしだが、俺はあえて下から、ゴルフショットのようにクワを回転させ、跳ね上げる!
カーン!
と森の木を斧で叩いたような、小気味いい音が辺りに響き渡った。
「くっ、硬い!」
予想はしていたが、傷を付けるどころの話ではない。まるで金属の塊を叩いたような衝撃だ。
それでも――
「うぉりゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」
今度はクワの柄に全体重を乗せ、踏ん張る。
てこの原理も使って押す!
バキッ!
と、たまらずクワの方が先に折れてしまった。
「ふぅ、参りました」
『うむ。やはり小さき者の力では――おお?』
パキッと音がして、神竜のうろこが一枚、こそげ落ちた。四十センチくらいの楕円形のうろこだ。
割れたのではなく、まるまる一枚、古いのが落ちただけのようだが。
「やったぁ! シン! すごーい。白いドラゴ――神竜に傷を付けたね!」
『よもや、これほどとは……。最初から剥がれやすそうな古いうろこを狙っておったな?』
当然ですよ! 弱点を攻撃するのはゲームの常道ですから。
ピロリン♪
『称号<神竜を傷つけし者>を手に入れました』
『竜ルートが解放されます』
『<属性> 原初+1』
『称号の付与効果により、以下の能力が永続的に上がります』
『<対ドラゴン 戦闘能力補正値>+20%』
『<カリスマ>+50』
『<名声>+10000』
ピロリン♪
『【平凡】が発動! <名声>+1000に修正されました』
これは自慢できそうな称号だ。
ドラゴンバスターの称号持ちと出会ったら、「ふうん? で、あなたの技は神竜に通用するのですか?」
って上から目線でマウントして煽れるな。
『では、シンよ、約束のものを与えよう』
念力なのか、地面から二十センチほどの竜の爪の欠片が出てきた。
『これでクワを作り直すが良い』
「ははー!」
別に剣やナイフを作ってもいいんだけども、ま、せっかくクワ用にいいかんじの形をくれたのだ。
クワにしてみよう。クワがいらなくなれば、爪だけ付け替えて短剣に作り直してもいいし。
そして――
ゴゴゴゴゴゴゴ……と地面が揺れ始めた。
「な、なんだ?」
「あう」
『恐れる必要は無い。ニンゲンに姿を見せた以上、我はここに留まるわけにはいかぬため、しばらく別の場所に移るだけだ。では小さき者達よ、また見えたとき、貢ぎ物を捧げて願い事をするがよい。さらばだ!』
「「ははー」」
ボコンッと、地面から巨大な体を浮かせると、ゆっくりとした羽ばたきで竜が雲の上に消えていった。
「おーい、シン! 大丈夫か!」
「ああ、父さん、平気だよ」
「しかし、今の巨大な竜は……」
「神竜だったよ」
「なにっ! なんと……」
父さんがここまで驚いて目を見開いたの、初めて見たな。
「神竜~!」
ニースも目をキラキラさせて、神竜との出会いを自慢したいようだ。レア体験だろうしな。
それとも、エルフの里には、水の神竜が定住してるのかな?
「じゃ、畑に大麦を植えて、街で親方に新しいクワを作ってもらったら――父さん、ニースをエルフの里まで送りに行きましょう!」
「あ、ああ。そうだな。その前に、何があったか、話してくれ」
「ああ、そうだね」
俺とニースはニヤリと笑い合い、父さんに起きた出来事を話すのだった。




