●第七話 ノーフォーク農法をやろう!
すっかり忘れていた。
いや、あるかもしれないとは考えていたが、カブを植えた時点で何も起きなかったので、大丈夫なのかと思っていた。
やはり、ここで来るか。
だが、村の子供が飢えで死んでいる状態なのだ。
スキルが発動しても、俺は後悔しない。
『スキル【廃ゲーマー☆】が発動。ノーフォーク農法(普及18世紀ごろ~1789)のエクストラ・ルートが解放されました』
『天啓:大地の神が定めし時の制約を破りし者、太陽の光を失い、いにしえの白き竜に掣肘されるであろう。ミスリルより硬き爪を
――ジッ! \%qうぇrちゅいあsdfghjふじこ――警告! 外部からの干渉により、予期しないエラーを検知しました。……修正を試みます――
ゆえに、決して近づいてはならず、言葉を交わさずに逃げよ。さすれば荒ぶる道は避けられん』
竜だと!?
『掣肘』の意味がわからないが、攻撃されて一撃を加えられる、みたいな意味だったかな?
とにかく、起きてしまったものは仕方ない。
「父さん、今度は竜がくるよ」
「なにっ? ドラゴンだと?」
さすがに父さんも顔が険しくなった。
そう、この世界におけるドラゴンは力の象徴。どこにでもいるというわけではないが、一匹の竜が七日間で王国を滅ぼしたという伝説もあるほど、おっかない生き物だ。
「でも、言葉を交わさずに逃げれば、助かるらしい」
「そうか。なら、その予知を信じるといい」
前回のオークの一件があるから、父さんも今度はすぐに信じてくれた。
「よし、私は村人を集めて、家の中に隠れているように伝えてくる。お前達も早く家に入りなさい」
「うん」「えぅ? お家、帰る?」
「そうだ」
ニースも二ヶ月ちょっとで簡単な言葉は覚えてしまった。頭のいい子だ。
大麦の種籾が入った袋の口を紐で縛り、大事に懐に入れて、家に戻る。
すると――
辺りが急に薄暗くなってきた。
「なんだ? まだ夜じゃないけど――まさか!」
俺は上を見る。
そこに巨大な竜が飛んでいるのではと恐れたのだが、空は雲一つ無く、何もない。
ただ、太陽の光が欠けていき、ついには真っ黒い点になってしまった。
「シン! お日様がおかしいよ!」
ニースも指さして叫ぶ。
「ああ。天啓にあった、太陽を失うとはこれのことだろうけど……」
「おい、見ろ、た、お日様が」
「なんだべ、あれは」
「食われちまったのか?!」
「おお、あれは!」
「おババ様!」
「不吉な。黒日がこんな日に訪れるとはねえ。前に見たのは、もうかれこれ五十年前になるか」
だが、俺はこの現象をおそらくこの大陸で唯一、正確に理解していた。
「みんな! あんまり太陽を見つめないように。これは『皆既日食』というもので、太陽と大地の間に月が入り込んで影になってるだけだから。しばらくすれば元に戻るよ!」
「シンの言う通りじゃ。五十年前も、お天道様は元通りになられた。恐れることはないぞえ」
「よかっただ。お日様がずっと隠れてしまったら、作物が育たなくなっちまうだよ」
「ずっと夜でも困るものねぇ」
ようやく村人が安堵の笑みを浮かべ、ほっとした様子を見せる。
「おおぅ、『皆既日食』、不思議!」
ニースは初めて見たのだろう。俺も、写真や動画でしか見た事は無かったな。
一度、日本でも皆既日食のニュースをやっていたが、そのときはゲームで忙しかったし。
その時、森のほうから、大きな音が聞こえてきた。
「GUHOOOO――――!」
「な、なんだべ?」
「きゃあ!」
いけない。竜の咆哮だ。
「早くみんな、家の中に入って! あっ、ダメだ、ニース! そっちじゃない」
「神の竜が呼んでる!」
「ええ? ニース、ダメだ!」
慌てて俺は追いかける。
「グラスシス! エンゼ! ヴィンデンスアンゼ!」
くっそ、ニースのヤツ、草の精霊と、風の精霊を呼んだな。
幼女の足が、幼女とは思えないスピードになり、なかなか追いつけない。
「GUHOOOO――――!」
まただ。ビリビリと空気と大地が震え、本能的に足がすくんでしまう。
それでも、俺はニースを追いかけ、ニースは精霊の力で森の奥へ向かっていく。
「ニース! そいつと話してはダメだ!」
「なんで? 相手は神の竜だよ」
「いや、神の竜だからって――んん? 神様ってことなのか?」
「違うよ。竜だよ!」
わからん。だが、ニースは相手が何者か知っているらしい。
それに、危険がないからこそ、近づいている――?
どうする?
俺のスキルでは危険だと出ているが、俺だけ近づいて話さなければ大丈夫なのか?
だが、ニースを一人で行かせるなんて無理だ。
何が起きるかよくわからないってのに!
ニースが立ち止まった。
「ふう、ニース、頼むから……うぇ」
ニースの目の前に、巨大な竜の頭が見えていた。




