●第六話 竜骨車を作ろう!
(今回は小難しい説明文が多いので、よくわかんない人や面倒臭い人は、次に出てくる◇マークまで飛ばしてください。とばしとばしでもシナリオはつかめると思います)
水車小屋が完成した。
小屋の中には大小の歯車を縦横に三つ噛み合わせ、石臼まで回せるように工夫した。
これでツブツブした微妙なパンではなく、ライ麦粉で少しはおいしいパンが作れるようになるだろう。うちの村では、オーツ麦とライ麦しか育てていなかった。オーツ麦はおかゆみたいなオートミールの材料で、ライ麦がパン用だ。ライ麦は寒さに強いそうで冬に植え、夏に収穫する。
大麦と小麦は領主様にもらった種があるので、それが今年の秋にでも収穫できれば、小麦粉にしたい。大麦はビールでも造ってみるかな。
だが、それは石臼はあくまで動力のおまけに過ぎない。
この水車小屋の一番の目的は揚水だ。
川の水を少し高い位置まで引き上げ、畑まで水路を送り込む目的だ。
そのため、小さな模型も作ってあれこれと試行錯誤した結果――自転車のチェーンを大きくしたような横長形状のベルトコンベヤー式水車とした。
歯車は自転車と同じく右側と左側に一つずつ設置。左の歯車は川に接しており、低い側。右の歯車が少し高い位置で、水路側にある。左右に離れた歯車と歯車の間を、木の鎖で結んだのだ。
川の水をチェーンの一個一個の小さな桶が汲み取り、そのまま左歯車の回転で左から右へとベルトコンベヤーのように移動していき、ぐるっともう一つの右歯車の上を回って向きが反対になるところで、水路に放水。
◇
まあ、実物を見ないとさっぱりわからないだろうが、とにかく揚水に成功し、水路に水を送り込めたので目的達成だ。
オルガが「かっけー! 竜の背骨みたいだな!」と言っていたので、竜骨車と名付けることにする。あまり覚えていないが、中国の昔の水車にそんな名前のヤツがあったはずだ。この手のポンプには確か、アルキメデスポンプという別種のものがあったはずだが、俺は仕組みがわからず名前しか知らないのでこっちでいい。
これで水汲みが楽になった。
「シンくん、あの水路の水、おいらも使わせてもらってええだか?」
「ええ、もちろん。どうぞ」
「ありがてえだよ。川までいちいち汲みに行くのは大変だからなぁ」
「勝手に水を汲み上げてくれるなんて、あんなすごいもんを作るとは、シンくんは本当にすごいわねえ」
村人達も喜んでくれた。
みんなの生活が楽になり、みんなが喜んでくれる。
「やったな! シン!」
「みんな喜んでくれてるよ、シンちゃん」
「ヤー!」
手伝ってくれた三人も誇らしげで楽しそうだ。
よし、これからも、どんどん、こういうものを作らなきゃ。
俺は気分よく、そう思えた。
「シンシアル~、蝶々~」
翌週、畑に様子を見に行くと、ニースが蝶々を追いかけて遊んでいた。
いや、追い払っていた。
モンシロチョウは青虫を野菜に植え付けて食べてしまう害虫なのだ。
でも、いちいち青虫を捕るのも面倒なんだよな。農薬でも開発するか?
「シンよ、蝶を追い払いたければ、レタスを側に植えるとええぞ」
「おババ様! その心は?」
「ほっほっ、心も何も、レタスには蝶が寄りつかん。それだけのことよ」
へぇ。おばあちゃんの知恵か。
さっそく種をもらってカブのそばに植えておくことにした。
今年の収穫が楽しみだ!
ヤム芋やカブ、ビートを植えてからちょうど二ヶ月が経った。
六月だ。
村にはカレンダーもないので、俺が自分で作った日時計とカレンダーを使っている。太陽がもっとも上に来る夏至(影が一番短い)と冬至(影が一番長い)を起点とし、ブランデン男爵にも暦を聞いて割り出した日数だ。
不思議なことにこの世界も一年は365日であり、うるう年が四年に一度ある。
なんでも神聖ロム帝国のグレゴーリオス教皇が定めたそうで、現代地球と同じというのは引っかかる。とはいえ、新しく炎の月、水の月と勝手に俺が作るよりはマシだ。ロマ神聖帝国と仲が悪い国では、別の暦があるそうだけど。
現代日本の太陽暦と、昔の日本の太陰暦だが、太陰暦は月の満ち欠けの三十日周期を基準とするため、365日ぴったりとはいかずにズレが生じていたはずだ。
この世界には青い月と赤い月の二つがあり、赤い月は少し小さく四十日周期で満ち欠けしている。
この赤い月の太陰暦でなくてよかった。
一年が九ヶ月だと俺にはイマイチ季節感がつかめないからな。
そういえば今日が新月だった。数日前に青と赤の月が両方とも三日月へと細くなっていたので、上手くいけば両方の新月が見えるかもしれない。
いや、月が二つとも見えないから、今日は星だけの夜かな。
◇
「よし、育ってる!」
一本抜いてみると、立派な白いカブの球根がなっていた。
やっぱり自分の開墾した畑で実がなると、達成感もひとしおだ。
「よーし、収穫して食うぞ~」
「おー!」
ニースにも手伝ってもらい、おいしいカブの葉のスープを堪能した翌日。
「シン、本当にやるのか?」
「やるよ、父さん。ノーフォーク農法を」
俺は決意の揺るがぬ目で見返し、宣言する。
現代知識チートをここで活かさずして、どうするのかと。
これが成功すれば、村の飢え死にはゼロになるはずだ。
「だが、上手くいくかどうか……」
「大丈夫。これが上手くいかなくても、父さんの畑だけで食えるし」
「そうだったな。よし、手伝ってやろう。大麦でいいんだな?」
「うん。カブの次は大麦、その次はクローバー、その次が小麦だよ」
「ふうむ。ま、育てる時期は合っているが、連作が心配だな」
「種類が違うから大丈夫!」
「ふふ、そうか。よし、撒くぞ」
「「おー!」」
俺達が大麦を畑に撒き始めた時――
ピロリン♪
「ああっ!」




