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●第五話 大きくなあれ!

 一週間後、俺の畑に植えたビートの種がどうなったかを確認する。

 だが、そこには耕した土の盛り上がり、うねの列が寂しく広がるばかりだ。


「うーん、芽が出ないなぁ。あっちのカブの畑はもう芽が出てるのに。やっぱり気候が違ったりするとダメなのか? それとも土か? 木の灰を撒いて土を少しアルカリ寄りにしてみるかな?」


 とにかく、今日も水やりだ。父さんに教わったカブ(別種だが形が似てるからいけると思う)と同じように、種は濡れた布で包んで一晩寝かせたりしたが、水やりも必要だという。


 ひしゃくで桶の水を撒いていると、ニースが何かを唱えた。


「ヴァッセ! ネン!」


 すると、畑にバシャバシャと水が落ちてきた。


「おお、水魔法か。ヴァッセ! ネン! ……うーむ」


 なぜだ。着火の魔法はちゃんと使えるというのに。


「テベルーパシンターレインゴッノーゴットコントラクトメンヴァッセネン」


 肩をすくめて首を横に振るニースだが、発音が悪いと言ってるのか、それとも魔力が足りないと言ってるのか。わからん。


「ヴァッセ! ネン! ヴァッセ! ネン!」


 バシャバシャ、バシャバシャ。


「あっ、ニース、そんなに水は撒かなくていいから」


 手本のつもりか、ニースがまた水魔法を使ってくれたが、もう土の上に水溜まりができるほどだ。


「ネイン、ネイン! ジンゼへベメアヴァッセン!」


「いいから。それじゃ根が腐っちゃうから。ダメ」


「むー。ゴッセウ、ヴィアッセ!」


 またニースが何か別の魔法を唱え、彼女の手から黄緑色のオーラが地面の土に吸い込まれていく。


「んん? 今のは何の魔法だい?」


「ふふーん。ティッツァ、コマルケン」


 自信ありげに笑みを浮かべ、地面を指さすニースだが……。


「ん? ああっ、芽が生えてきた!」


 クローバーみたいなちっちゃい緑の双葉が、にょきっと土に生えていた。


「すごい! ニースは植物を育てられるんだな! よーし、その調子でもっとバーンと、どんどん育ててくれよ」


 俺が大きく手を広げて、ジェスチャーで伝えるが。


「ネイン、オンディペッサプランタンフォルホートコメンデンナッセー」


 首を横に振るニースは、もうMPが足りなくなったか、何か無理だと言っているようだ。


「そうか。でも、ありがとう、ニース」


 とにかく、芽を出してくれたのだ。彼女のライトグリーンのサラサラ髪をいい子いい子で撫でてやる。


「えへー。ヴァッセ! ネン!」


 また水を出してきた。


「ああ、ええ? これくらい水がいるってことか?」


 まだ撒いていないところにひしゃくで水を撒きながら聞いてみる。


「ヤー!」


 なるほど、水が足りなかったようだ。って、こんなに水が必要なのか。ちょっと驚きだ。

 すでに芽が出ているカブのほうも水やりを追加したが、全然足りない。何度も桶を持って川まで行くのは一苦労だ。


「これは、自動化したほうがいいな。よし!」


 川の少し上流までいき、そこからクワでザクザクザクザク! と溝を掘ってみる。


「ユージェンス! アンゼ!」


 ニースも土魔法を唱えてくれたようで、溝をつなげて掘ってくれる。

 俺が畑までの水路を作ろうとしていることが説明しなくともわかっているようだ。まだ四歳児くらいだと思うが、賢いよな、この子。


 だが。


「うーん、高低差が難しいな」


 川の位置が他より低いので、溝を掘ってもこちらまで水が流れてこない。


「むー」


 ニースも俺の真似をして腕組みだ。


「ダムだと、洪水になったときや、洗濯するときに困りそうだし、ポンプがあればなぁ」


 だが、ポンプだとモーターまで開発する必要がある。まだ電気も作っていないというのに。

 何か、方法はないだろうか?

 ニースに水魔法をガンガン唱えてもらえば、それで事足りてはいるのだが、彼女は夏になればエルフの国に帰す予定だ。

 マンパワーやワンオペに頼るのは、違うんだよなぁ。

 やはり、ゲーマーの俺としては、無駄な労力は極力減らしたい。


 電気や人力を使わず、水を汲み上げる方法――


 いや、待て。だいたい、中世以前ってもともと電気はなかったんだから。

 そうとも、一つだけ、この時代にぴったりの方法があった。


「そうだ、水車だ!」


「スイシャ?」


「ああ。くるくる回る木の道具、施設だよ」


「えうー?」


 手振りで説明してみたが、ニースにはちんぷんかんぷんのようだ。

 ま、作って見せてやれば、わかるだろう。エルフの国に水車があれば、だけど。


「そんなわけで、ヨーサックさん、水に強い木材をください」


「オーキーファーだべな。ほれ、ちょうどそこに家用に干しておいたええのがあるべ。板と柱はやっぱり干したほうが強いべ。あと、『赤身』、外側じゃなくて木の真ん中が強いだよ」


「へぇ。ためになります」


 さっそくオーク皮紙に正確な図面を書き、水車作りに取り組んだ。

 普通なら、こんな難しそうなものDIY大工でできるとは思わないだろう。

 だがッ! 俺には1200倍の熟練度と、スキルが存在する。


【木工細工】【大工】New!


 板や柱は着火の魔法で炙ったあと、ゴムの樹脂を塗りつけ、防水に気をつかった。

 耐久性を上げるため、釘は極力使わず、凹凸を利用してパズルのようにはめ込む形にする。


「おう、シン、まーた変なのを作ってるな! オレも手伝ってやるぜ」

「私も手伝うね」


「ありがとう、オルガ、ルル。じゃあ、オルガは木材運び、ルルには板のヤスリがけを頼もうかな。


「よしわかった!」

「うん!」


「ヴォーモッセヤーラー?」


「ニースはゴム作りのタンポポを集めてくれ」


「えう? ゴム? タンポポ?」


「私が教えてあげるね、ニースちゃん。こっちだよ」


「ヤー!」


 ルルとニースは女の子同士だからか、すぐに仲良くなった様子だ。


 そして一週間後――ついに水車が完成した。

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