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●第三話 塩析とリバーシ

「まず、石けん、獣油ロウソクなど、前回と同じラインナップから」


「あれ? ハチミツ印の『蜜蝋ビース・ワックス』のロウソクはないのかい?」

「冬の間はミツバチが活動しないんですよ。一度に取って絶滅させてもあとが続きませんから」


「ああ、それはそうだね。じゃあ、今回は獣油ロウソクでいいよ。二十本で240ゴルダだ」


「毎度あり」


「それと、石けんが壺四つだね。もっともっとたくさんあってもいいよ。今回から馬車もあるし」


「そうですね。次回から倍の生産にしておきましょう。ただ、塩析で純度も上げたので前のより長持ちですよ」


「塩析?」


「説明するより、実演したほうが早いですね。家に行きましょう」


「ああ」


 本当は透明なビーカーでやると一番わかりやすいのだが、ガラス製品がないので壺でやる。


「リックさん、ガラスの壺とか手に入りませんか」


「ガラス?」


「ほら、透明で形がいろいろあって――」


「うーん、宝玉とは違うのかい?」


「いやー、宝玉がどんなものかわかりませんが、たぶん違う気がしますね。とにかく、透明な瓶があれば、買いますよ」


「わかった。だけど、透明な瓶か。ちょっと見たことはないなあ。神聖ロム帝国の宮廷には光り輝く壺があるそうだけど、おいら達じゃどうしようもないよ」


「うーん、高級品ですか」


「超高級品だね」


 作れれば大金持ちだけど、ガラスの作り方は硅素を超高熱で溶かすだったか。

 製鉄技術もなさそうなこの国ではちょっと厳しそうだ。


「魔術の本もあればぜひ」


「無理無理、そんなもの一般には出回っていないし、金貨百枚を出したって買えるかどうかだよ」


 この間、カンダータと手下を倒した賞金としてギルドから父さんが金貨百十枚をもらっているのだが、リックにもっと金持ち商人になってもらって自分で仕入れられるくらいでないと、難しいな。

 金貨百枚を渡して持ち逃げされたり、モンスターにやられて帰ってこなかったら悲惨だ。


「仕方ないですね。じゃ、この壺に塩をいれて水で溶かします」


「ふむふむ」


 塩が見えなくなるくらいの濃度に調整し、かき混ぜてよく溶かす。


「続いて、そこにこの液体石けんを入れると――」


「おお、石けんは浮いてくるんだね」


 白い液体が水面の上に盛り上がるほど、水面の上に出てくる。


「水より油が軽いですからね。さらに、塩水が石けんの中の水とくっつきやすいので、結果として水分と分離できます」


「へぇ」


「これが『塩析』です。フッ」


 クイッと、かけてもいない眼鏡を持ち上げる仕草で、デキる科学者を演出する。

 ま、全部おババ様に教わったんだけどな! 塩がたくさん買えるようになったので、実験もやりたい放題だ。


「わかった。じゃあ、前よりよい値段で買わせてもらうよ」


「毎度あり!」


 銀貨がジャラジャラ~♪ やめられまへんな~♪


「それじゃ……今回の目玉商品を頼むよ、シンくん」


「じゃ、今回の目玉商品はこちら!」


 俺は四十センチ四方の正方形の板と、それよりも小さな箱を取り出す。


「ジャジャーン、リバーシ~♪」


「リバーシ? なんだいそれは?」


「こうやって、駒を交互に打ち合って、黒を白で挟むとひっくり返せるので、相手より多くをひっくり返したほうが勝ちというゲームです」


「ああ、チェスみたいなものか」


「そうそう。アレより簡単です」


「それにしても、この駒はきれいな色をつけているね?」


「ええ、塗料を塗ってさらにクルミ油でコーティングしたんです」


 塗料の作り方はおババ様に教えてもらったが、鉛とお酢を混ぜると白い塗料が手に入る。

 黒は暖炉のススだ。

 塗料が手に付かないよう、さらにクルミ油を上塗りして乾かすとリバーシの駒が完成だ。


「うーん、チェスセットなら高く買ってあげられるんだけどねえ。これはそうだな、面白そうだけど、大銅貨一枚ってところだね」


「そうですか」


 あれ? 思ったよりイマイチだな。

 まあいいや。次はチェスの駒を彫って作るとしよう。


「他にはないのかい?」


「他は、オーク皮紙かなぁ。僕も使うので、あまり数は出せませんけど」


「オ、オーク? この辺にオークがいるのかい?」


「ああ、去年の秋にたくさんやってきたので、退治したんですよ」


「うえ……そりゃあ大変だったね。え? この辺ってオークが多いの?」


 リックが恐る恐る家の外を見回す。


「いえ、その時の一度だけらしいですよ。みんな不思議がってました」


「そうか、ふぅ、焦った。オークはゴブリンよりずっと強いし、冒険者が返り討ちに遭うこともよくあるから、出くわしたらおいらなんてひとたまりもないよ」


「レベルを上げたらどうですか」


「いやいや、そんなヒマがあるなら、商売だよ。おいらは商人なんだから」


「そうですか」


「じゃあ、これくらいかな。羊皮紙はオーク皮紙があるなら、いらないみたいだね。石けんはまた買いに来るよ。ビースワックスのロウソクもね」


「はい。ああ、それと、リックさん、うちの村に何日か泊まっていってください。その間に、荷車にタイヤをつけてみます」


「タイヤか。前に来たときもチラッと言ってたね。それが何が何だかおいらにはさっぱりだけど」


「ええ。それも作って見せたほうが早いでしょうし。車輪の予備はありますか」


「もちろん。積んであるよ」


 ニカッと笑って親指を立てたリックは記憶力がいい。

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