●第一話 農業革命への道のり
お腹いっぱい、ご飯が食いたい――。
それが今の俺の最大の望みだ。
とにかく村は貧しい。
ひもじいので春は酸っぱい野苺や花の蜜を自分達で集めたり、川で魚を捕まえないとやっていけないほどの状態だ。よくこんなので暮らしていけるなと思ったが、おババ様の話では毎年子供が何人か死ぬらしい。
死んでるのかよ!
言われてみれば村で見かけなくなっている子供が何人もいた。
街へ出て行ったのかと思っていたのだが。
そうと知れば、もう我慢はならない。
「父さん、あの辺の使ってない場所、僕が耕してもいいよね? 領主様の許可もあるんだし」
「それは構わんが、余計に腹が減るだけだぞ?」
「大丈夫。こっちには【穴掘り】と【神操鍬戦闘術】があるからね!」
「スキルか……いいだろう」
「よし! 大農場を作るぞぉおおお! ノーフォーク! ノーフォーク! フォー!」
ノーフォーク。
それは一部のウェブ小説で有名な輪作で、小麦 → カブ → 大麦 → クローバーと植える作物をローテーションで替えていく方法だ。
これにより連作障害を休耕地なしで防げる。優れたチート農法である。
植物は、同一の作物を同じ場所に植え続けると、育ちが悪くなる。
これが連作障害と呼ばれるものだ。
それを避けるために、人々は畑を移動させたり、作物を変えたりしなければならない。
やがて休耕地という土地を休ませて土を回復させる方法が生まれた。
土地を三つに分け、A春耕地 B冬耕地 C休耕地 でローテーションするのが『三圃制』という農法だ。
新しい畑を開墾するのは、木を倒したり石をどかしたりと大変な労力を必要とするが、この休耕地を挟むことによって農業が楽に安定する。
ホイット村では何年かに一度、育ちが悪くなってから休耕地を作るという話だったので、まだ三圃制にも至っていない。
だが、さらにノーフォークは休耕地さえも必要としない。
組み合わせの良い作物をローテーションさせれば、連作障害そのものが起きないからだ。
これにより、生産性が休耕地を必要とする三圃制に比べても33%UPと格段に上がるはず。
地球の歴史では三圃制以前に比べて人口は2倍以上に増え、余った非農業部門の労働力が都市に流れ込むことで、あの『産業革命』が誕生したのだッ!
幸い、この辺の土地は土が軟らかく、芝生のような草原が広がっているだけなので、畑にするのは簡単だ。
ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク、ガツッ! ポイッ! ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク!
たまに石があったりするのでそれを畑の外へ投げて、どんどん耕していく。
「でも、あれ? 前よりもずっと楽だな?」
去年はクワを持つだけでも重く、これは農家なんて無理、と思ったものだが。
「オークを倒してレベルが上がったからだろう」
父さんが言う。
「ああ、なるほど」
父さんが教えてくれて気づいたが、この世界ではモンスターを倒すと強くなる。まんまゲームだ。
トラクターも家畜も関係ねぇ! レベルこそすべて!
ちなみにオークやカンダータを倒したときのレベルアップで俺の能力値はこうなっている。
|筋力(STR) 17
|耐久(VIT) 7
|知力(INT) 22
|魔力(MAG) 10
|速力(AGI) 6
|器用(DEX) 7
|運気(LUC) 15
ボーナスポイント 19
|筋力(STR)などの能力値に割り振れるポイントボーナスをもらっているのだが、村にいる限り戦闘をやることもないし、オークより強い魔物はこの近くにはいないと聞いている。
強いと評判の大悪党カンダータも、(ステータスポイントのことをすっかり忘れていたが)なんだかんだで倒せたからな。
試しに1ポイントだけ|耐久(VIT)に割り振ってみたのだが、特に変わった実感はなかった。
上げる前と上げた後で、腕に石をわざとぶつけて比べてみたが、どちらもフツーに痛かった。
ボーナスポイントは一度振ってしまうと戻せないようなので、今後の能力値をどのようなタイプにするか、しっかり考えてからにしたい。
例えば筋力を上げまくって戦士などのパワータイプにするか、それとも魔力を上げて魔法使いタイプにするのか。まだ決めかねている。
せっかく19レベル分の自由なボーナスがあるのだ。
どれも平均的に伸ばして、平凡で終わる人生なんてまっぴらだ。
かといって魔力を上げまくったら、実はこの世界では戦士のほうが強かった、というのも困る。
せめて、戦士と魔法使い、どちらが強いのか、どちらが俺に合っているのか、そこを見極めてからだ。
父さんに聞いてみたが、戦士のほうが強いだろうと言っていた。
でも、父さんはただの農民だ。
強い魔法使いを見て、実際に戦ってみないと、わからないだろうしな。
だからステータスについてはしばらく保留でいい。
翌日――
「父さん、深さはこれくらいでいい?」
「ああ、大丈夫だ」
畑で父さんに教わりながらカブを植えていると、俺を呼ぶ声があった。
「おーい、シンくん!」




