●第十二話 格上
人さらいカンダータとの対決。
カンダータの手斧による攻撃はすべてかわしているのだが、壁破壊による破片散乱とブロック落としによって俺は地味にダメージをくらっている。
あまり長引かせてはまずいが、ここで逃げるつもりはなかった。
治安組織が当てにならず、家の中にはまだ縄で縛られたままのマリアとリリスがいる。
カンダータがあの二人の少女を再び連れ去ってしまえば、二度と会えないかもしれないのだ。
別にそれだけの縁があるわけでもない。彼女達は一度会っただけの他人だ。
だけど、ルルはマリアにスカートを譲ってもらった形になっている。
それに――そんなことがなくたって、何の罪もない二人の少女がみすみす悪人に好き勝手されるのを、黙って見過ごすわけにはいかないじゃないか。
俺はそんな人間にはなりたくない。
“英雄”となりうる資質、それだけの才能があると神様は確かに言ったのだ。
ヒーローが、助けるべき女の子を見捨てて逃げるとか、ないよな。
ま、それでも危なくなったら、いったん逃げ出して父さんと兵士を探す羽目になるだろうけど。
「って、格好付けすぎだな……俺」
「ああ? 何か言ったか」
「別に」
「ふん、かわいげのねえガキだ。そら、もう一丁!」
くそっ、またか。
突っ込んできたカンダータに対して、俺は逃げつつ、足払いも試みる。
上手くいけば、転んで頭を打つという狙いだったが――
「くっ!」
足首をかかとで力いっぱい踏んづけたが、カンダータの足を止められない。
「ああ? 今の、ひょっとして何かやろうとしたか、クソガキ? ククッ」
なぜだ。
足払いのタイミングも位置も完璧だったはずなのに、カンダータはびくともしない。まるで鉄の柱のようだった。
胴長短足で重心が低いのと、体重もあるからかな?
オークは簡単に草罠でスッ転んでいたというのに。
「バカめ、土竜剣の使い手に足払いなんぞが効くものかよ。地を這うべた足、足の速度や出だしは遅くとも、重心のバランスや踏ん張りが利くんだ。冥土の土産に、覚えておきな」
土竜剣というのは、土竜を模した動きなのだろう。土竜なんぞ俺は見たことがないが、おそらく鈍重で屈強、トリケラトプスみたいな感じのモンスターと予想が付く。
「さあ、そろそろつまんねえ鬼ごっこは終わりにしてやるぜ! 手下をやったのは褒めてやるが、格上に出会っちまったのがオマエの運の尽きだ」
「鬼ごっこ? 格上だって?」
「そうだろうがッ! 死ね、クソガキ!」
やれやれ、カンダータ君。
これだけ戦っていながら、相手の力量をつかめないとは、君は本当に剣士だったのかね?
まさかとは思うが、俺が避けて柄で突きまくるだけ、なんて思ってないよな?
隠し球を持ってるのはこっちも同じだよ。
どちらが鬼の役か、今、教えてあげるとしよう。
「【神操鍬戦闘術】、奥義――首ザク!」
俺はここで初めて、クワを大振りして、刃の先と柄をひっくり返した。
うん、実を言うと、俺もクワで戦っていることを忘れかけていた。
そうとも! クワの最大威力は、他でもない。刃を振り下ろしたときに発生する。
この【神操鍬戦闘術】は別に刃を使うことを禁じたりはしていなかった。
スピードを活かすというメイン攻撃が柄というだけなのだ。
「なっ!」
はい、そこで弾かれる前にザクーと!
俺は力いっぱい、クワを振り回し、遠心力と体重を乗せ、全力で攻撃した。
パキッと、クワを防御しようとしたヤツの手斧の柄が折れた。この手斧の柄が鉄だったら、受け止められていたかもしれない。
だが、木だった。
木では鉄に勝てない。
ザクッ!
入った!
やたらと頑強だったカンダータもやはりそこは人間だ。
人間の肌や筋肉は鉄にはかなわない。
首半分まで刃が食い込み、うう、結構グロいな。筋肉や靱帯をやった手応えも柄にしっかりとあって、イノシシの解体なんて手伝わなきゃよかった。あれで何を切ったか、感触でわかってしまう。
「く、くそ、このオレ様が、やられる、だと」
「うわ、くそっ、動くな!」
急所に一撃を決めたので、俺はそこで終わりだと思っていた。
だが、カンダータはどう考えても致命傷と思われる深い傷でも暴れ回って、俺を捕まえようとしてくる。
血をビュッとビュッと首から飛ばしながら。
「うわああああ!」
とにかく死んでくれ、とばかりに俺はクワをねじる。
空気が100ミリリットル体内に入ると、人間は死ぬ。
空気が入らずとも、血液の三分の一を失えばやはり死ぬ。
「くそっ、力が、入らねえ……」
暴れてはいるが、次第にカンダータの力が弱ってきた。
俺にはわかる。
俺も前世で一度、失血死を経験したからな。
もう痛みも感じてはいないだろう。雷鳴の光も、雨の冷たさも。何もかも。
だけど……怖いよな、カンダータ。
死ぬかもしれないって感じながら、動けなくなるのは。
今この瞬間も、人生の走馬灯が彼の脳内を駆け巡っていることだろう。
だから――今回は他に方法がなかったけれど、次に相手を殺すときは、必ず一撃で意識を刈り取ってやろう。痛みも恐れも感じないように。
それが格上の、強き者の、情けだ。
ドサリ、と大きな体が地面に倒れた。
ピロリン♪
『ネームド<大悪党カンダータ>を倒した!』
『称号<賞金狩り> <街の若き英雄>を入手』
『称号の付与効果により、以下の能力が永続的に上がります』
『<対賞金首 戦闘能力補正値>+10%』
『<対地竜剣の使い手 戦闘能力補正値>+10%』
『<カリスマ>+30』
『<名声>+1500』
ピロリン♪
『カリスマが一定値に達したため、称号<リーダー格>を入手』
『名声が一定値に達したため、称号<強者>を入手。関連イベントが低確率で発生します』
ピロリン♪
『【平凡】が発動! <名声>+150に修正されました』
『経験値2000を入手』
『レベル3 → レベル13にUP!』
ピロリン♪
『【廃ゲーマー☆】が発動! レベルが4に修正され、10レベル分はMAX HPの永続的増加に変換されました』
『MAX HP +255』
ピロリン♪
『特殊イベントをクリアしたため、以下のエクストラ・ルートがそれぞれ解放されました』
<修羅の道> <森の巫女>
ピロリン♪
『【廃ゲーマー☆】が発動! <修羅の道>が<荒魂>に確変しました』
「ふぅ、結構苦戦した。勝てる相手でも、苦戦は危ないなぁ……」
俺は反省した。この世界には現代医学もないのだ。手術が必要なほどの重傷を負えば、勝ったとしても命を失うことだってありそうだ。
「おい、大丈夫か! うわ、酷い血だな」
家の中から、リリスが飛び出してきた。縄から自力で抜け出したのだろう。
「ああ、これは返り血だから、全然、平気――うっぷ、おええ」
俺はこみ上げてきた酸っぱい唾を、胃の中身ごと吐き出してしまった。
このむせ返るさびた鉄のような臭いは無理だわ。
「誰か! 誰か来てくれ! 怪我人だ! 領主の家の者である! 急げ!」
リリスが人を呼ぶ間、俺はしきりにゲエゲエとその場に吐き散らしていた。




