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●第十一話 土竜剣の使い手

 それでも、動き自体は俺も完全に把握できている。まだ速い動きでも余裕だ。

 おそらくはパワータイプ。

 ちょっとだけ意表を突かれて焦ったが、空中では方向転換もできない。いい的だ。


「はっ!」


 まずは小手調べの突きを放って様子を見る。


「通じるかよ、そんなもん!」


 カンダータが力任せに手斧を振るい、こちらのクワの柄を横に弾く。

 だが、片手斧は斧の中では小さめで取り扱いやすいとはいえ、その重さ、2キログラムはあると見た。

 対して、こちらのクワの柄は刃を含めなければ300グラムていど。

 つまり――

 カップ麺で三つ分の軽さだッ!


「ぬっ!?」


 素早く柄を引いて突き直す俺の動きに、カンダータは反応していたものの、手斧を戻して防御するまでには至らない。

 俺は奴の喉仏のすぐ下、鎖骨の付け根の交わる部分、気管を狙う。

 ここも人間の急所だ。

 VR手術ゲームをやりこんだ俺だからこそ知っている、人間の弱点。

 術式名、輪状甲状靱帯突刺術――!


「がはっ!?」


 取った!


 突っ込んできた相手の首をカウンターで突いてやったので、もう立てまい。

 さすがに、でっぷりした大男を柄で支えきるのは無理なので、俺は横に逃げる。


 カンダータが勢いそのままに壁に突っ込み、バキッっと家の柱まで折れてしまった。


「他に、仲間は?」


 俺はそう聞きながら二人の少女の縄を解こうと近づく。


「後ろ!」


 リリスが叫ぶ。

 それがなかったら、俺はカンダータの手斧で頭をかち割られていたに違いない。


「ちっ、クソガキを仕留め損ねた!」


 忌々しそうにダミ声で舌打ちするカンダータ。

 おいおい、さっきのこちらの攻撃は、完全に首の急所に入っていただろうに、なんで動ける?

 こいつ、化け物か?


「ふん、ガキにしては動きもパワーもそこそこだが、レベルは思ったより大したこたぁなさそうだな」


 ……やはり、レベルか。

 RPGが主体のシステムなんだろうな。

 たとえキャラメイキングの力が最高の10点満点であろうとも、レベル1のままでは、レベル10の筋力5の相手に負けるとか、そういう感じの。

 参ったな。街で戦闘に巻き込まれるとは思っていなかったから、レベル上げを怠っていた。


 いや、この前にオークを倒して一度はレベル20くらいに上がったんだけどな。

 神様が余計な【廃ゲーマー☆】や【平凡】なんてスキルをくれちゃってるからなぁ。


 嘆いていても仕方ない。

 とにかく、手数でダメージの蓄積を狙って倒すしかない。

 塵も積もればなんとやらだ。


「はっ、やっ、せいっ!」


 上、上、右、下、左、上、下、上、下!


「ぐおっ、くそっ、このガキ、調子に乗りやがって!」


 腹や顔を突かれたカンダータは手斧を滅茶苦茶に振り回して嫌がる。

 動きはそれなりに向こうも速いが、こちらの突くポイントにまったく対応できていない。

 人間の特性として目が左右に並んでいるため、物体の横への動きには強いが、上下の動きは苦手なのだ。

 加えて、視線に向かって垂直に突いてくる柄は、距離感リーチをつかめまい。

 棒術の基本、いや、クワ術の基本だな。


「しゃらくせえ、そのていどの攻撃、このカンダータ様がひるむと思ったか!」


 カンダータも実戦慣れしているようで、やられっぱなしではなかった。

 ヤツは両腕をクロスさせ、急所をかばったままで突っ込んできた。

 腹は突き放題だが、体重を乗せてこられるとこちらは押しつぶされてしまう。

 何と言っても、俺はまだ六歳児で子供の体だからな。体格と体重の差は埋め切れない。


 ここは逃げる。

 いったん部屋を出て外へ。中はダメだ。狭いとクワのリーチが活かしきれない。


 ドカン! と、家の壁を完全に破壊してカンダータが追ってくるが、家の人、マジでごめん。ご請求はカンダータさんに頼みます。


 家の外に出たところで、俺は改めてカンダータに相対した。


「なめるな! ガキが!」


 カンダータは怒りで顔を真っ赤にして手斧を振り下ろしてくる。

 動きは単調。

 キッチリとステップを踏んで攻撃をかわし、首と腹を突いていく。首のほうは突いたところが赤くなっており、ノーダメージというわけではなさそうだ。


「くっそ、おらおらぁ!」


 カンダータは声を張り上げ、なりふり構わずに攻撃を仕掛けてくる。

 ここは慌てず、捕まらないようにしながら、引いては突き、避けては突きを繰り返す。

 これは安全に戦える――と俺が油断したその時だった。


「バカめ、おりゃ!」


「あっ」


 またしても家の壁を体当たりで破壊したカンダータだったが、破壊された石壁が崩れ、俺の逃げようとした先まで落ちてきた。


 今のは狙って、わざと崩したな?

 

 くそ。落ちてくる石のブロックが多すぎて、逃げるスペースがない! 避けきれない!


「いって!」


 なんとかクワと腕でガードしながら避けたが、完全には避けきれず、いくつか体に当たってしまった。


「見たか! 土竜剣、【岩崩し】。斧が当てられなくとも、オマエを倒す技はいくらでもあるぜ?」


「その土竜剣というのは、あなたの勝手な恥ずかしいネーミングではなく、きちんとした流派ですか?」


 ちょっと気になったので聞いてみる。


「あ、当たり前だッ! クソが、それくらい……まあ、農民のガキなら知らなくても無理はねえか。教えてやろう。これでもオレ様は昔は名を馳せた剣士でな。クソ忌々しい師匠に破門させられちまったが、技はこのとおりよ! 死ね!」


 そりゃまあ、人さらいなんて白昼堂々やるようなクズだから破門されちゃったんだろうけど……技はやっかいだな。それほど大した剣術には見えないが、避けようがないのはまずい。地味にダメージが効いてくる。


 ドガン! とまた家の壁を破壊してきたが、んもう、ここの兵士達は何やってんの。

 電話も防犯カメラもないから、犯罪やりたい放題なのか?


 仕方ない――。父さんもどこにいるかわからないし、自力でコイツを倒すしかないようだ。

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