●第十話 クワ騎士、参上
声が聞こえた方向へ走るが、ここは建物が並んでいて、真っ直ぐには走れない。仕方なく道なりに進んでいくが、悲鳴を上げたはずの女の子は見当たらなかった。
「どこだ?」
路地を探す。
道具屋にクワを借りに行っている間に、遠くまで連れ去られてしまったのだろうか?
だとすると、もう街を出てしまっているかも?
――いや、よく考えろ。
子供が助けを求めているのに、連中が門を通って街の外に出るのは不可能だ。
この街の門では兵士が常駐し、関銭を取っていた。
街の周りには巨大な塀が城壁のように張り巡らされており、他の場所から簡単に抜け出せるとは思えない。
なら、まだ街の中にいるな。
それで路地に見当たらないのなら――
「あれだ!」
俺は路地に放置されている怪しい荷車を見つけた。
馬が一頭、つながれて荷主の帰りを待っている様子だが、ここは裏通りで、店があるような場所でもない。
それをあの大荷物――商人でもなければおかしいだろう。
そして、商人がこんな裏通りに荷車を放置するとは思えない。泥棒に荷物を取られたら困るからな。
「んん?」
今、荷車の荷物が動いたような……、いや、動いてるな。
「鶏でも入れてるのか?」
そう思って、俺はずだ袋の口を縛っている紐を解いて中を見てみたが。
「あぅ」
「うわ!」
人間だった。
ライトグリーンの髪の色をした幼い子。耳がやたらと尖ってるけど……いやそれより、なんでこんなところに。
ああ、やっぱり、あいつら、人さらいで間違いなさそうだ。
人さらいなんて生まれて初めて目撃したわ。
「と、とにかく、早く逃げて。静かにね」
「うう」
俺はその子を袋から出してやり、手首に結んであった縄を解いてやった。
そうして荷馬車の近くのドアを開け、中を覗き込む。
中は暗く、誰もいない。
つんとトイレの臭いが鼻を突くが、廊下の手前右のドアがトイレなのだろう。
この世界には水洗トイレなどという上等なものは存在しない。
そのまま下にポットンと落とすだけなので、跳ね返りの水滴を避けるテクニックも必要になる。
ああ、嫌だ嫌だ、早く上下水道と水洗をこの世界に広めてやりたい。
「あう」
「あっ、付いてきちゃダメ。そこで、待ってて」
後ろにくっついてこようとした幼女に合図して言い聞かせ、家の中に足を踏み込む。
ギィ、と板の床が鳴るので、緊張する。
迷わず、【忍び足】のスキルを取っておく。
【忍び足】New!
俺の推測が正しければ――この奥に人さらいかそれに類する悪党がいるに違いない。
敵だ。
たとえそれがモンスターではなく人間だろうと、敵である。
この世界の村や街の人は決して豊かではない。
村の子供達はいつだって腹を空かせているほどだ。
だから、みんなで助け合って、少しでも楽に生きられるようにすべきとこじゃないか。
ズルをしたり他人に危害を加えるなど言語道断。
そんな害悪は、オークみたいにサクッと悪即斬でいい。
これも生き残るためだ。
手に持ったクワの柄を力強く握りしめ、一歩一歩、廊下の奥へ進む。
しかし、暗いな。この世界ではロウソクくらいしか照明がないからなぁ。電灯もいつか作りたいが、まず電気からだな。
今はそれどころじゃないけど。
「放せ! マリアは解放してくれ! 人質ならこのアタシだけで充分だろう!」
奥のドアから、少女が叫ぶ声が聞こえた。
このちょっとハスキーな声、聞き覚えがあるな。確か、リリスという猫耳の少女の声だ。
マリアという名は、あの青髪の優しいお嬢様――って、ブランデン男爵のご令嬢を捕らえているというのか!
なんて怖いモノ知らずの連中なんだ。
いや、領主から身代金をたんまりぶん取ろうと企む誘拐犯かな?
「へへ、どっちもかわいいメスガキだぁ。たまんないでちゅねぇ~、イヒヒ」
あー、そっちの人か。
じゃあ、のんきに様子を見てる場合じゃないな。
俺は勢いよくドアを蹴った。
バンッ! とドアが勢いよく開く。
「ああん?」「な、何だ!」
中にいる男は四人か。二人の少女は縄でぐるぐる巻きで床に転がされていた。
問答無用――
まず、手前にいる男にクワを振るう。
【神操鍬戦闘術】
「ぐほぁっ!?」
柄で突かれた男は体をくの字にしたまま家の壁に突っ込んだ。
やっべ、家を壊しちゃった。あとで弁償しなきゃ。金貨五枚で足りるといいなぁ。足りなきゃ、俺のDIY工事で勘弁してもらおう。
とにかく、まず一人。楽勝だ。
「「な?!」」
続いて唖然としたままの間抜け面を、柄で突く。今度はパワーを抑えてその場に気絶させた。
これで二人!
「このガキ! オレらカンダータ一家に刃向かうとは、いい度胸じゃねえか!」
ようやく反応した男が腰の剣を抜きかけた。
だが、やらせない。
「遅いッ!」
俺はみぞおちのやや左、肝臓の部分をピンポイントで狙う。肝臓の門脈は太い血管が集まっており、人間の急所だ。
「ぐはっ!?」
打撃の瞬間、柄をねじってコークスクリューパンチの要領でダメージを加算!
三人目も沈黙。
「ほぅ? 型はまだまだだが、てめぇ、相当な場数を踏んでやがるな?」
残る最後の一人、でっぷりとした腹の大男が、目をすぼめた。この期に及んでも余裕を見せている。
あごひげが油で固めたのかドリルみたいになっていて、いかにも悪党という顔つきだ。
――こいつは、他の三人とはレベルが違うな。
少しも動かなかったものの、先ほどのこちらの動きをしっかりと目線で追って捉えていた。
呼吸の乱れもまったくない。
ちらりと、視界の端に、ぐるぐるのす巻きにされて転がされている少女二人が目に入った。固唾を呑んでこちらを見ている。今のところ、特に外傷もなく、衣服の乱れもない。
よかった、無事か。
さて、ここからどうするか。
相手の力量がわからない以上、父さんや兵士が来るのを待つべきだ。ここは時間稼ぎが正解だな。
なら、黙ったままではダメだ。会話に持ち込まないと。
「PvPアクションのゲームはたくさんやったからね」
「あん? 何のことだ。まぁいい、この泣く子も黙るカンダータ様が、ガキ相手に躊躇して時間を稼がれるなんて、間抜けにもほどがあるからな。そっちが来ねえなら、先手を取るまでよ!」
「くっ!」
片手斧を持ったカンダータが、床の板を蹴って前に跳んできた。
速い!
しかも、この体格で一気に間合いを詰められるとは、コイツ、前に戦ったオーク達よりもずっと強いな。




