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●第九話 カンダータ

(視点が別人に変わります)


 ブランデンの街の門を通り過ぎた一行が後ろを振り返り、下品な笑みを浮かべた。


「ヒッヒッヒッ、間抜けな兵士どもだぜ。髪の色を染めて変えただけで、指名手配と気づかないなんてな!」


「ああ、お頭のヒゲなんて一発でバレると思ったのにな!」


「ま、入っちまえば、こっちのもんよ。雨が降ってフードを被れたのも、ツイてたぜ」


 油で固めたのか、ドリルのようなあごひげを生やした大男が得意げにニヤリと笑う。


「それで、お頭、この街では何をやりますか? 盗み、追い剥ぎ、放火……もちろん、女も欲しいですけど」


「全部だッ!」


 カッと目を開いたお頭が怒鳴るように答えた。それに合わせたように空で雷が光る。


「カンダータ一家は悪の限りを尽くす。そういう掟だぞ。いいなッ! 野郎ども!」


「「「へ、へいっ!!!」」」


 手下達が恐れたのはお頭のカンダータか、それとも雷か。

 一人が不安そうな顔で聞いた。


「ですが、大丈夫ですかい、お頭」


「何がだ?」


「あんまり悪事ばっかりやっていると、地獄に落ちると新教のお坊さんがこの前言ってましたが」


「はっ、お前、あんな与太話を信じてるのか。地獄なんてねえよ。この世は人間の世界だぞ」


「でも、神様が……」


「神なんてな、たまに『供物の昇天』でまんじゅうやチーズを光らせて消しちまうだけじゃねえか。あんなヤツら、何にもできやしねぇ。なら、その辺にいる邪魔くせえ蜘蛛の巣と一緒だ。大した害はない」


 お頭カンダータがニヤリと笑う。


「ビビるこたぁねえ、こっちはやりたい放題だ。今はオレらの時代なんだ。何だろうと、やったもん勝ちだぞ?」


「「「おお……」」」


 盗賊達が頭のカンダータを憧れと羨望の眼差しで見る。普通の人間には悪党になろうと思っても、なかなかそこまでは踏ん切りがつかないものだ。普通はそんな思いつきには至らない。


「じゃ、じゃぁ、お頭、この間、捕まえたメスガキを好きにしても?」


 小太りの盗賊が鼻息を荒くしながら、馬に引かせた荷車のずだ袋を指さして問いかける。隣国スペリオルの街道で、たまたま襲った奴隷商人のキャラバンの荷物から出てきた、掘り出しものだ。


 だが、カンダータは首を横に振った。


「アレはダメだ。アレは薬の材料になるからな。高く売れる。商品には手を付けるな」


「えぇ……」


「バカだな、おめぇ。女のガキなんてこの街にいくらでもいるだろうが」


「おほっ、そ、そうでした。フヒ、ヒヒヒヒヒッ」


 小太りの手下が、舌なめずりしながら血走った目つきできょろきょろと周りを物色し始める。

 ――いた。


 それもかわいい上玉の女の子だ。それも二人も。


「ねぇ、リリス、あのお団子、食べていかない?」


「いいけど、マリア、あんまり食べ過ぎたら、夕食が食べられなくなるよ? それに雨が降ってきたし、早く帰らないと風邪を引くよ」


「大丈夫、ちょっとだけにするから! ん?」


 おっと、目が合ってしまった。青い長髪の優しそうな目をした少女と。

 好みだ。まだ幼いというのに、彼女はすらりとした体つきで、黄色い染め物にフリルのスカートを穿いている。靴もリボンまで付いて上等な革靴だ。どこかの豪商か貴族の娘のようだが、構いやしない。

 この街の兵士なんて、お頭の手にかかれば、ワンパンのイチコロなのだ。


「あっ、あの変なヒゲは!」


 黒髪の猫耳少女がお頭を指さした。


「チッ、門番をやり過ごしたってのに、ガキに気づかれちまうとはな。捕まえろ」


「「「へい!」」」


 手下達が一斉に襲いかかる。


「きゃあっ」

「お、お前達、何をする!? わかっているのか、私達はここの領主ブランデン男爵の――あぐっ!」


「へっへっ」

「だからどうしたってんだ。こちとら大盗賊のカンダータ一家だぞ」


「か、カンダータって、街や村をいくつも全滅させて回っているっていう……大悪党の?」


 少女二人が真っ青な顔でお頭を見て、ガタガタと震え出す。


「そうよ。可哀想になぁ。このブランデンの街ももうオレ様が来たからにはおしまいだ。よし、猿ぐつわを噛ませて、裏通りに連れ込め」


「へい」


「は、放せ!」「いやぁ! 誰か、助けて!」


 近くには通行人もいたが、白昼堂々の悪行に恐れをなし、遠巻きに見ているだけだ。


「レッツ、パーリィー!」「「「ヒャッハー!!!」」」



(視点がシンに戻ります)


 父さんと一緒に市場へ向かっていると、近くで少女の悲鳴が聞こえた。


「と、父さん、今のって」


 子供が助けてと叫んでいた。それに、野太い男達の声も。どうも良からぬ雰囲気だ。


「シン、お前はここにいなさい」


「わかった」


 父さんは剣を鞘から抜き、声の聞こえた通りのほうへと走っていく。


 大丈夫だろうか?


 いや、やっぱり父さんが心配だ。

 俺だってオークをやっつけたじゃないか。

 クワさえあれば、戦える。


 そうと決まれば、実行だ。俺は道具屋に駆け込んだ。


「すみません、そこのクワ、貸してもらえませんか」


「おや、君はこの前の。いいけど、何に使うんだ?」


「決まってるじゃないですか。戦うんですよ!」


「なに? あ、おい!」


 俺は父さんのあとを追った。

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