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●第八話 千歯扱きを作ろう!

 一週間後、俺は父さんと一緒に街へ向かった。

 鍛冶職人に注文した『千歯扱き』を受け取りに行くのだ。それとついでにオルガへのお土産も買う予定。


「空が曇ってきたな。雨が降るかもしれん」


 父さんが空を見上げていうが、雲は浮かんでいるけれど、特に変わった様子はない。俺には天気の予測はさっぱりだ。


「じゃ、早く済ませて帰ろうよ、父さん」


「ああ、そうだな」


「こんにちは!」


「おお、来たか、ボウズ」


 工房に入ると、小柄なドワーフ――鍛冶職人の親方が目をキラキラさせて、剣を打つ作業の手を止めた。


「おい」


 親方が弟子に向かってあごで指示する。弟子は二人ともヒト族の大男だ。


「へい」


 弟子の一人が大きな青銅クシを持ってきた。サイズは五十センチほどで、地面に置いて安定して立てられるよう、木の台座もちゃんと付けてある。


「どうだ、ボウズ、実際にこれで麦穂の実が取れるかどうか、試してみたが、いい感じだぞ。ほれ」


 その場でドワーフの親方が麦穂を千歯扱きに引っかけて引っ張る。その場にぽろぽろと籾が落ちて、うん、完璧だ。


「ありがとうございます。注文通りの『千歯扱き』ですね」


 俺もニッコリと笑う。


「ほう、千の歯か。歯は二十くらいしかねえが、そこはネーミングセンスだな!」


ピロリン♪

『スキル【廃ゲーマー☆】が発動。千歯扱き(発明 日本1688-1704  エジプト 紀元前?)のエクストラ・ルートが解放されました』


『天啓――汝、労力を惜しまんがため、時を盗み、哀れな後家の仕事を奪い倒すものなり。人ならざる力を呼び寄せ、水と稲妻を利用し、魂なき人形を産み出す道を歩まん。いずれ新たなる神の創造を――


 ジジッ! \%qうぇrちゅいあsdfghjふじこ


 警告! 外部からの干渉により、予期しないエラーを検知しました。機械語および真空管の前提技術が足りません。……修正を試みます


 ――増える麦は貨幣を集め、回る木の竜を産み出し、富は盗人を呼び込み、永き貴き者の知己を得るであろう』


「ああっ、しまった、これもオーパーツ扱いか!」


 俺は頭を抱える。エクストラ・ルートは良いモノが追加で手に入ることもあるが、たいてい、難易度がハードだ。


「オーパーツ?」

「何を言っている、シン」


 外では雷が鳴り、雨が降り始めたようだ。


「ええと、父さん、俺のスキルが発動して――この街に何か良くないことが起きるかも」


 途中でエラーが発生し、いつもと違う感じだったのも気になる。


「なに? 予知のスキルか?」

「スゲえな、おい」


「いや、そういう良いモノではなくて……正直いらない感じ」


 いちいち余計なイベントが発生して面倒だからな。


「そうか。具体的に何が起きるのか、わかるか?」


 父さんは真剣な顔で、俺の言うことを真面目に取り合ってくれるようだ。それならノーフォーク農法の提案も聞いて欲しかったけど。


「後家の仕事を奪うのと……ええと、稲妻は電気のことだろうし、ロボットは別にどうでもいいんだけど、あとは盗賊が来るって」


 『回る木の竜』は、心配いらない。

 ドラゴンのことではないからだ。俺にはそのことで一つ思い当たるモノがあった。


「そうか。確かに、この『千歯扱き』があれば、脱穀が楽になるから、夫を亡くした女は仕事が減ってしまうな」


 父さんがうなずいて言うが、なるほど、こういう機械化って良い事ばかりじゃないんだなぁ……。


「だが、それは縫い物など他の仕事をやればいいことだ。心配するな、シン」


 父さんがいつになく優しく笑って頭を撫でてくれた。


「おうよ、仕事が楽になるなら、誰だって大歓迎だ! もっと他にないのか、シン。おめえさんのことだ、もっとビックリするようなアイデアがあるんだろ?」


 ドワーフの親方がニヤニヤして目を爛々とさせているが。やたら食いつきがいいな。


「いえ、ないです」


 下手に変なものを作りたくない。というか、どれがピロリン♪になるか、わからないのが怖いんだよなぁ。


「盗賊のことなら心配するな、シン。ここには兵士だけじゃなく騎士もいる。領主様のお膝元の街だからな。少々の盗賊に遅れを取ることなどあり得ん」


 父さんが言うが……


「少々じゃなくて、大盗賊だったら?」


「ううん……ま、大丈夫だろう。大盗賊であろうと騎士には勝てん。騎士は日々鍛錬を積み、己を厳しく律しているからだ」


 父さんが自信を持って言う。そうだな。治安組織が盗賊に負けるはずもないか。


「あっ、でも、村だと――」


 街は兵士がいたが、村にはいないのだ。


「心配ない。ホイット村には私がいる。それにな、ホイット村には言い伝えがある。竜が――」


「護ってくれる、って言うんでしょ。でも、伝説の白い竜ってさ、オークの時には出てこなかったよね」


「ううむ……」


「ホイット村の竜伝説か。話には聞いたことがあるが、この辺りには竜なんていねえはずだがな。もっと東のゲルマニアには、天を突く山、エバーレスト山の頂上に、氷竜がいるって話だが」


 ドラゴンかぁ。間違いなく強敵だろうから、レベルが上がるまでは近づかないほうがいいな。エバーレスト山、覚えとこう。


「おっと、それより、シン、これだけのモノを思いついたんだ。もっと何か、作ってやるから言ってみろ」


「ええ?」


 少し気がかりが残るのだが、俺はなかなか帰してくれないドワーフの親方に根負けし、新しい注文を出して工房を出た。


「あとはオルガの――そうだ、あいつには羽根つき帽子を買って帰ってやるか。よし!」


 俺は良いアイデアだとばかりに市場に向かってダッシュする。排水がまるで考えられていないこの街は、濁った水溜まりがバシャバシャと散った。

 ま、少々の汚れなんて帰って石けんで洗えばいいや。


「待て! シン。街では私から離れるなという約束だぞ」


 後ろから父さんが鋭い声を上げて制した。


「ああ、うん、ごめんごめん、父さん」


 六歳児ではあるが、中身は大人なので、その辺は大目に見てもらいたいよね。小さい子から目を離してはダメなんだけどさ。

 ああ、早く大人になりたいなぁ。

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