●第七話 ブランデン男爵
「いいだろう。ただし、つまらぬ理由だとすぐ叩き出すからな。入れ」
領主ブランデン男爵が部屋に入る許可をくれた。
「失礼いたします」
応接間では、立派な服を着た領主が、弓の弦を引いたり押したりして、弓の調整を行っているようだった。思ったより若く、まだ二十代後半と言ったところだろう。精悍な顔つきで、その茶髪を油か何かで固めているのか、テカテカとしている。
「それで?」
「は。実は新しい農具を私が思いつきまして、鍛冶職人に作らせたく思います。その許可を頂きたく」
父さんが自分の手柄のように話しているが、まあ、子供が発明したというと信じてもらえないだろうからな。そのほうがいい。
「なんだ、そんなことか。そんなもの、いちいち許可なんぞいらんぞ。勝手にしろ」
領主は面倒だと言わんばかりに、シッシッと手を振った。
「は」
「いや、待て」
「何か?」
「お前の名は何と言う?」
「ジークでございます、領主様」
父さんが答える。
「ジーク? そういえばこの国には竜殺しのジークという、めっぽう強い騎士がいたそうだが、よくある名前なのか?」
「さぁ。ですが、そうかもしれませんな」
「そうか。その筋肉、ずいぶんと鍛え上げた体にも見えたが……ま、農民だからかな。行っていいぞ」
「は」
無事、許可が取れた。
「ふぅ、怖かったぁ……」
館の外に出ると、ルルがほっとしたように胸をなで下ろした。
「はは、心配せずとも、ブランデン領主は気前が良く、気さくな御方だと評判だぞ。実際、礼儀をあれこれ言うようなお人ではなかっただろう」
「そうだね」「うん」
「あら? あなたたち」
青髪の少女と猫耳の少女がやってきた。市場で出会ったマリアとリリスだな。
二人は市場でのショッピングを楽しんだのか、両手に抱えるほどの服を持って自宅であるここに戻って来たようだ。
「どうも、お嬢様方」
「なぜここに……ハッ! ま、またお父様が隠し子を!?」
マリアがあせった顔をするが、またって……あの領主、浮気癖のあるプレイボーイなのか?
「い、いえ、そのようなことは」
父さんも思わぬ誤解に少しあせって否定する。
すると、マリアもリリスもふぅ、と息を吐いて一安心したようだ。
「ああ、ごめんなさい。ならいいの。おほほほ」
マリアはいかにも貴族のご令嬢らしく、手を口に当てて笑うが、子供がやるとなんだかコミカルに見えてしまう。
「まったく、あのスケベ親父殿のせいで、いちいちヒヤヒヤさせられる」
黒い髪に黒い猫耳のリリスは苦虫をかみつぶした顔をしたが……ま、自分の父親がそんなのだったら、本当に困るよなぁ。うちは真面目な父さんで良かった。前世の父親も「ゲームばかりするな!」とうるさかったが、浮気しまくるよりはマシだったな。
「あ、あの、マリア様、服をありがとう」
ルルがぺこりとお辞儀して礼を言う。
「ああ、いいのよ。それはあなたが先に見つけたってことで。ね、リリス」
マリアがウインクしてみせた。
「ふぅ、そうですね」
リリスはあまり納得した様子ではなかったが、姉――たぶん姉だと思うが、マリアの言うことなら反対しない様子。
「では、お嬢様方、私達はこれで」
「ええ、ごきげんよう」
「バイバイ」
「ルル、貴族様には失礼しますと言って別れるんだ」
「あっ、ああ、ごめんなさい。失礼します!」
「ええ、ふふ、ごきげんよう」
手を振ってくれるマリア達も嫌みなタイプの貴族ではないようで、よかった。
ドワーフの親方のところに戻り事情を話すと、注文した千歯扱きは一週間もあれば完成するとのことだった。
まずは試作機一号を作ってもらい、それが使えるかどうかを確かめるとしよう。
村に戻った翌日、さっそくルルが空色のスカートを着て俺に披露する。俺がルルに買ってあげたフランク王国製の服だ。
「えへへ、どう? シンちゃん」
「いいね、よく似合うぞ」
お世辞ではなく、俺は本心で言う。
「えへー」
うれしそうだ。
ルルは金髪碧眼で顔立ちもよく、素材はいいので、やはり映える。メッチャかわいい。
これで将来、「え? 私は、信ちゃ――オホン、内瀬くんとはたまたま小学校が一緒だっただけで、別に仲も全然っこれっぽっちも良くなかったから」と目に圧力を込めながら「話かけんな!」という壁を作られる日が来るかと思うと、この思い出をしっかりビデオ録画に残しておきたいくらいだな。
「なんだよ、ルルばっかり、ずるいぞ! シン、オレにもスカートを買ってくれよ」
オルガがそれを見てねだってくるが。
「ええ? 何言ってるんだ、オルガ、お前は男だろ。ハハハ」
「ああ゛?!」
「し、シンちゃん……」
ボカッ!
「いって! いきなり何するんだ、オルガ!」
「ふん、バーカ、バーカ! シンなんて馬に蹴られて死んじまえ!」
オルガがあかんべーをすると走り去ってしまった。
「ちっ、アイツ、土産くらいで怒りやがって。仕方ないなぁ。今度、肉か、いい弓矢でも買って帰ってやるか」
公平が一番だものな。気が利く大人だねぇ、俺って。




