●第五話 青髪のお嬢様と猫耳娘
「ダメッ! それはシンちゃんが私に買ってくれたものなの!」
ほぼ同時に、ルルもそのスカートをつかんだ。
空色に染め上げられた布地に、フリルが一段だけ付いているスカート。
「ええ? そうなのですか?」
同じスカートをつかんだ青髪の少女がとまどって聞き返す。優しそうな空色の瞳をしていて、年齢はそう俺達と変わらないようだが、身なりの良いお嬢様だ。
「いいや、まだ金は払ってもらってないし、注文も受けちゃいないよ。だから、それはお嬢様のものだよ」
服屋の商人がニヤリと笑って言うが、そりゃないな。
さっきの俺とルルのやりとりだって聞いてただろうに。
「そんな! 買うってさっき言ったのに、嘘だよ!」
「さぁて、あっしには聞こえなかったねぇ。ここは神様のおわす神殿の前だ。嘘はつけないね」
「ルル、それは譲って、他のにしなさい」
父さんまでそんなことを言い出した。
「嫌! これは、こっちが先で、シンちゃんがくれたんだもの!」
「ふん、ワガママだね。だいたい、その服は町人か貴族が着る服だよ。農民のアンタには似合わないさ。金だって払えないだろう」
目つきの鋭い黒髪の少女が横から言い放った。この子、何か違和感があるけど――何だろう?
「待って、リリス、私は別に――」
わかった!
「猫耳としっぽだ!」
くねくねと動くしっぽと、ピクッと動いた猫耳に、俺は驚愕する。
獣人キター!
「チッ、それがどうしたってのさ。言っておくけど、アタシはブランデン家の娘リリスだ。奴隷なんかじゃないよ」
んん?
なぜ、猫耳としっぽに驚いただけで、奴隷がどうのこうのという話になるのだろうか?
「失礼しました、お嬢様方。ご無礼をお許し下さい」
父さんがそう言って頭を下げると、真剣な眼差しで俺に目配せする。
「ほら、ルル、シンが別の服を選んでくれるから、ここは聞き分けなさい。それはもうお嬢様の服だ」
なるほど、領主ブランデンのご令嬢だから、とにかくこの二人に楯突くとヤバイんだな。
中世で王様や領主がいるんだから、身分制度があって当たり前だった。
「いやぁ! これがいいのぉ!」
やれやれ、いつもは素直なのに、今日のルルはやたら駄々っ子だなぁ。よほどその空色のスカートが気に入ってしまったのだろう。残念ながら同じ色の品は無い。
「ほら、ルル、こっちの黄色いスカートもかわいいぞ」
「待ってください。どうもその子が気に入っているようだから、私は別のでいいわ」
青髪の少女が笑って言う。彼女のほうが物わかりがよくて助かった。
「マリア、貴族のあなたが農民風情に引き下がる必要なんてないよ。ここで変に農民を甘やかせば――」
「もう、リリス、子供相手にそんな小難しい話をしても仕方ないでしょ。別に取られたってわけでもないし、こういう時は貴族の慈悲深さを見せるときだと思うの」
「……わかった。あなたがそう言うのなら」
猫耳リリスも引き下がってくれた。
マリアというお嬢様が譲ってくれたのだ。ここは下手に遠慮せず、ありがたく受け取った方がお互い気分が良さそうだ。
「ありがとうございます、マリア様。じゃ、ルル、君もちゃんとお礼を言って」
「あ、う、うん、え? き、ききききき、貴族様!?」
今頃、気づいたか。
「気にしないで。それはあなたのものよ。じゃ、私はこっちの黄色いスカートにしましょう。うん、これもいい色合いとデザインね。どこの職人なのかしら?」
「へへ、さすがはブランデン様のご令嬢、お目が高い。こいつは、フランク王国の職人から買い付けたものですよ」
「ああ、フランク王国って、装飾にしても服にしても、いい物がいっぱいあるわね!」
「では、値段も高いのではないか?」
猫耳リリスが聞くが。
「はい、まぁ。ですが、ご領主のご令嬢でしたら、お近づきの印に銀貨三枚でよろしいですよ。おい、そっちの青いスカートは銀貨五枚だ」
あからさまに値段に差を付けられてしまったが、貴族割引ってところかな。
「そう、なんだか可哀想だけれど……払える?」
「問題ありません」
マリアに気遣われてしまったが、俺は懐から悠々と金貨を取り出す。
「おおっ? 農民の子供のくせに、金貨を持っているとは……。へへ、どうだい、お嬢ちゃん、こっちの服もきれいだろう」
こっちが金を持っているとわかった途端、ルルに新しい服を勧めるとか、ちゃっかりしてる商人だね。
「い、いえ、一着だけでいいです」
緊張した様子のルルはもう服はいいようだ。ま、身分がどうのこうのと言われちゃうとなぁ。
それでも、村で着る分には問題ないだろう。あそこは同じ身分の村人しかいないのだ。
きちんと支払いを済ませ、俺達は村に帰ることにした。
門に向かう途中、通りの奥から、キン、キン、カン、カンと規則的な金属音が聞こえてくる。
「父さん、あの音は何?」
「あれは鍛冶職人が銅を打っているんだろう」
「ああ、なぁんだ、金物を叩く音か」
銅の剣や鍋でも作っているのだろう。父さんが鉄と言わなかったのは、この地方にあまり鉄がないからだ。
あるいは、製鉄の技術が足りていないのか。鉄の融解温度は銅や金銀よりも高いと聞いたことがある。あのオークの装備は鉄製だったが、やたらと高値で売れたそうだ。
「あっ、そうだ。別に銅でもいいや。父さん、注文したいものがあるんだ」
「なに? あっ、おい、シン!」
俺はいい物を思いつき、音のするほうへと走った。




