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●第四話 市場でのプロポーズ

 道具屋の店主は、声を上げて驚いた。


「なっ……何と細かい……! まるで、生きているかのようだな。わかった、一体につき銀貨三枚、いや五枚出そう。それを全部譲ってくれ」


「うほっ。決まりですね!」


 十体ほど彫ってきたので、合計で金貨五枚だ。日本円だとだいたい……五百万円!


「木彫り一つに銀貨五枚も出すのか?」


 父さんがいぶかしむが、芸術品ですよ、芸術品。


「もちろん。これなら高く売れる、まぁ、貴族様が相手だけどね」


「だが、ここにはブランデン男爵しか……ああ、他の領地へ持って行くのか」


「行商に卸すことになるがね。フランク王国の貴族様達はこういうのに目が無いから高く買ってくれるだろうよ。ただ、最近はなぜか南のスペリオル王国のほうが値が高く付くんだ。あっちの街道は盗賊もよく出てくるから、命がけになるけどね」


 これは良い情報を聞いた。

 行商人のリックが戻って来たら、フランク王国やスペリオル王国へ彫像フィギュアを売ってもらうとしよう。なあに、冒険者の護衛を雇えば盗賊も怖くない、怖くない。十体で金貨だもの、護衛の費用を出しても利益は出るはずだ。

 父さんは羊の毛ウールも売り、これは二匹分で金貨一枚にもなった。かなりの高値で売れるようだ。

 だから村ではどこの家も羊を飼っているんだな。

 適当にいくつか道具を買い(残念ながら硫黄は無かった)、次に市場に向かう。


「じゃ、神殿は向こうだ」


「え? 市場に行くんじゃないの? 父さん」


「だから、神殿の前にある広場アゴラで定期的に市場が開かれるんだ。ちょうど今日はお祈りの日だから、出店もたくさん出ているぞ」


「なるほど」


 スーパーマーケットのような毎日販売するような店は少ないのだろう。

 でも、それだと食べ物を買うのに困らないのかな?

 うちはほぼ自給自足だから困らないけど、パンはパン専門店で買いたいよなぁ。もうあの岩みたいに硬い黒パンは嫌だ。柔らかくて中がモチモチしているふっくら高級ブレッドが食べたい! どこかにイースト菌は落ちてないかな。


 父さんが向かった先にはパルテノン神殿のような大きな石柱を並べた神殿が建っていた。これ、クレーン車の無い時代に、どうやって建てたんだろう?


「父さん、この重そうな柱、どうやって組み立てたの?」


「ううむ、父さんも知らないな。街の大工に聞かないとわからない」


「そう」


「魔術士がいれば、ゴーレムを使うんだが」


「おお」


 俺もゴーレムを呼び出して、労働を代わりにやってもらいたい。鉄でロボットみたいなゴーレムとか作っても楽しそうだなぁ。


「あっ、シンちゃん、見て、あそこ」


「おお」


 ルルが指さした先に――見覚えのある形の果物があった。

 リンゴだ。

 真っ赤に熟れたリンゴが山積みになっている。

 神殿の前には屋台やバザーのように白いテントがいくつもあり、様々な商品が並んでいる。人も大勢いて、活況の様子。


「と、父さん!」


 俺は父さんの裾をつかみ、重要物資を指さす。


「わかったわかった。リンゴを買ってやろう」


「いいの?」


 うちはそんなにお金はないはずだけど。


「心配するな。この前のオークの装備が高く売れたからな。今日はウールも売れたし、金はあるぞ」


「やった!」


「村へ持って帰るお土産用に、たくさん買って帰るとしよう」


 さっそく父さんが一袋分を買い付けた。もちろん、俺は値段も見逃さない。四十個、8キログラムで20ゴルダ、だいたい日本円で二千円、リンゴ一個につき0.5ゴルダの五十円だから、かなり安いと思う。リンゴ商人(服装が俺達と同じ白い亜麻なのでたぶん農民だと思うが)は分銅と吊り天秤で重さを量っていた。……なぜこの時代にキログラムがあるのかは謎だ。


 さっそく買い付けたリンゴを服の裾でふきふきして、ルルと二人でかじりつく。


「おいしい!」

「うぇ、酸っぱいなぁ」


 甘いデリシャスなおいしさを期待してかじりついたが、酸味がかなり強い。

 色はいいんだけどなぁ。


「シン、お前は何を食っても舌が肥えているな」


 父さんがあきれ顔で言うが、そりゃあ現代日本と比べれば、向こうのチー牛だってこっちじゃ高品質のおいしさだと思うし。……悲しい。

 ああ、うまい日本のチー牛を食いてえ! カップラーメンとポテチ食いてえ!

 あの人類の叡智の結晶、最高級の味を!


 ここにもジャガイモくらい、あるだろう。ジャガイモをスライスして亜麻仁油で揚げれば……!

 ジャガイモ、ジャガイモ、ジャガ…………?


「うーん、ないなぁ。父さん、ジャガイモって売ってないの?」


「なんだそれは。聞いたことがない果物だな」


 オゥ……ダメだこりゃ。

 ええ? 中世ヨーロッパにジャガイモは無かったのか? あれってドイツの主食じゃないの? ジャーマンポテトってあったよな?


 でも無いなら仕方ない。

 リンゴを食べ終わった俺達は、神殿の前の特設市場をのんびりと眺めて回る。


「あ、きれいなスカート!」


 やはり女の子だからか、ルルは服に興味津々だ。村だと白い服ばっかりだものな。村に染め物を着ている人間はいない。村には神殿も無いし、神父みたいな人がいないから、宗教的な理由では無く、色に気を遣う余裕がないのだろう。


「じゃ、ルル、それは俺が買ってやろう」


 フィギュアを売って手に入った金もあるので、俺は言ってやった。


「わ! 本当に?! やったぁ! シンちゃんって優しいから、だ~い好き!」


 ルルは、よほどうれしかったようで跳び上がって喜んだ。

 いいね。それに女の子に大好きなんて言われるとこっちも照れるな。リアルでは二度と聞けないかもしれないので、脳内にしっかり記録しておこう。

 すると、はにかんだルルは後ろ手にモジモジしはじめた。


「どうかした? ひょっとして俺、今、変な顔してた?」


「ううん、そうじゃないの。……あ、あのね、私ね、将来は……シンちゃんのお嫁さんになってあげるね!」




 マ、マジですか。

 ――いや待て、シンよ、騙されてはならぬ。それは孔明の罠だ。

 だいたい、俺とルルはまだ六歳児だからな。

 小学校一年生が結婚の約束をしたところで、成長したら無かったことにされるのがオチだ。小さい女の子がよくパパや友達に向かってアタシがお嫁さんになってあげるーと、無邪気に言うアレなのだ。


 ルルは将来、美人さんになりそうだから……はぁ、ホント、罪作りな女だな。

 これで将来、ケバいギャルとかになったら、軽くトラウマになりそう。


「フッ。よかったな、シン」


 父さんがそれを知ってか知らずか、軽く鼻で笑っている。


「あっ、見て見て、リリス! これ! かわいいスカートがあるわ!」


 はしゃいだ女の子の声とともに、サッと横から手が伸びてきた。たった今、俺がプレゼントしようとしていたスカートに。


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