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●第二話 神

 ハッと気が付くと、俺は白い霧の中にいた。


「どこだ? ここは」


 右を見ても、左を見ても、薄い霧があるだけ。他には何も無い。遠くを見ようとすると白く霞んでしまい、ずいぶんと広い場所のようだが……。


「ここは天と地の狭間じゃ。昔も今も変わらず、常世とこよと呼ばれることもあったな」


 しわがれた声が聞こえ、振り向くとそこに一人のおじいさんがいた。古代ギリシャのキトンだったか、ヒラヒラの布を体に巻いて紐で縛っただけのような白い服を着て、古めかしい木の杖を持っている。

 だが、その老人の肌は内側からほのかに輝いており、見るからに普通ではない。あぐらのままで宙に浮いているし……。


「……うーん、また変な夢を見てるな。どうせなら裸の幼女にしておけばいいのに」


「ほっほっ、夢じゃと思うたか。ま、無理もなかろう。だが、内瀬ないせしんよ、これを見るがいい」


 老人が大きな木の杖を振るうと、霧の中から小さな泉が現れた。泉の表面にはテレビのように俺が・・映っている。

 その俺は手術台に横たわり、青色の手術服を着込んだ医師が囲んで電気ショックを施しているところだった。

 これって――


「ああ!」


 思い出した。俺はさっきコンビニでストーカー男に刺されたんだった。


「見ず知らずの女性を助けたのは誠に見事。だが、そのあとがよろしくない。残念ながらおぬしは、こうして死んだのだからな」


「ええ? そうか、助からなかったか……」


 まあ、それほど意外でもないか。なんかビックリするほど血がドバドバ出ていたし。

 やはりサバイバルナイフの波刃、軍用モデルは侮れん。あそこはローキックから入るべきだった。


「じゃが、落ち込むことはないぞ。おぬしの善行を認め、もう一度チャンスをやろう」


「おお、人生のやり直しコンティニューですか!」


 ゲーマーとしての生き方には悔いがないが、早死にはしたくなかった。

 やり残したゲームは山ほどある。

 捨てる神あれば拾う神あり、だな。


「そうじゃが、このままゲームのある場所とはいかんのう」


「ええ? そんな!」


「案ずるな。人のいるところに遊戯あり。たとえ世界や時代が変わろうとも、遊びそのものはなくならん」


「というと、VRMMOとか、オーダーメイドの自律型セクサロイド(貧乳ロリ)がある時代に……?」


 ゴクリ、と思わず唾を飲み込む。目の前の神様は微笑んで首を横に振った。


「おぬしは過去に飛んでみると良かろう。時代はおぬしの言うところの中世じゃ。どうじゃ、戦好きには堪らんじゃろう。本物・・が楽しめるぞ?」


「え? いや、ゲームのやり直しじゃなくて、人生のやり直しなんですよね? それで中世はちょっと……すぐ死にそうだし」


「まあ、普通はそうじゃな。その時代の平均寿命も五十に満たぬ。だが、そこはワシが手助けして加護を与えてやろうぞ」


「おお、ひょっとして不老不死の加護ですか」


「そこまでは与えられんのう。それを受け取った人間はおごり高ぶってろくなことをせん。さらに数百年で泣いてもう寿命はいらない、飽きたと言い出す」


「俺はそんなことは言わないと思いますよ?」


「皆、最初は口をそろえてそう言うのじゃ」


「はぁ、そうですか」


「そうじゃ。では、まず【無病息災】の加護を与えよう。これでまず普通の病気にはかからん。長生きもできようぞ」


「おお」


「それから、【四大精霊の加護】じゃ。魔法が使えるようになるから、一番人気の加護じゃぞ」


「おお! ま、魔法が使えるのですか! やった!」


 どうやらこれから送り込まれる世界は魔法が使えるらしい。

 やはり、人生で一度は使ってみたいよね、魔法。


「あとは……そうじゃのう……」


「神様、その、スキルリストみたいなもの、見せてもらえますかね」


「んん? それはできぬ相談じゃな。世界には無数の才能がある。たとえ見せたとしてもおぬしの知能ではすべてを理解することは到底不可能じゃ」


「はあ、じゃ、ちらっとだけ」


「よかろう。じゃ、ちょっとだけじゃぞ。いちいち説明するのも面倒じゃから、【解説】もオマケしてやるぞい」


 そう言って老人が杖を振るうと、今度は霧の中に六角形のパネルがいくつもずらり並んで現れた。


「あ、これ、ゲームのスキルツリーだ」


 見覚えがある。

 規則正しく並ぶ六角形のパネル――隣り合うパネルの間には線が引かれ、それぞれつながっている。


「ほう、おぬしにはそう見えたか。ま、理解としては間違っておらぬし、それで良かろう。ここに表されているのはおぬしの才能の可能性、その一端じゃ。獲得できる能力とも言える」


「おお、なるほど」


【鍵開け】【スラッシュ】【ファイアボール】【二連撃】【パリィ】【鑑定】【邪眼】【物理攻撃上昇】【暗算】【燕頷えんがん虎頸こけい】【ディメンション・ストライク】【ユニット召喚】【太公望】【赤備え】【バリツ】


 戦闘から生活まで様々な分野のスキルが数百、いや数千は並んでいるだろう。あまりにも多すぎてすべては見えない。しかもほぼ全部にロックがかかっており、うっすらとスキル名が見えるものもあるが、大半は灰色で塗りつぶされた何も見えないパネルだった。


 だが、それでも、【二連撃】の次に【三連撃】とツリーがつながっていれば、その先が【四連撃】であろうことはすぐに予測がつく。


 ピロリン♪


『【コトワリの予測】【一を聞いて十を知る】をそれぞれ手に入れました』


「何か今、システムメッセージが脳内に聞こえたんですが」


「うむ、それが【解説】じゃ」


 まんまゲームだな。


「勘違いするでないぞ。これからおぬしが向かう世界は現実そのものじゃ。ゲームと違い、死ねば生き返らぬし、NPCはおらず、すべてが意思をもつ人間じゃ」


 神が言う。


「はあ、まあ、リアル世界も知っているつもりですので」


 いくら俺でもコンビニでビタミンドリンクを飲んで「ポーションうめえ!」などとは言わない。あくまでそれは脳内だけだ。現実はわきまえている。


「ほほ、それもそうじゃったな。では、いくつか好きな『スキル』を選ばせてやるから、好きに選ぶといい」


「おお!」


 最初から才能スキルが選べるとは。


 ちょっとワクワクしてきた。

 さあ、どれを選ぶべきか?

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