●第九話 策士
残るオークは二頭だけ。
だが、落とし穴はオーク達の死体で埋まってしまい、もう使えない。
……クワの刃先を使って倒すか?
当てるのは難しくない。だが、一撃で仕留められるだろうか?
相手を上手く一撃で倒さないと、クワが刺さったまま抜けないかもしれない。その場合、武器を使えないまま、もう一頭に襲われてしまいピンチになるだろう。
この世界のモンスターはゲームと違い、倒したからといって煙のように消えたりしない。死体が残る。
これが残り一頭だけなら、迷わず攻撃できたんだが。
なら、軽く攻撃して、刺さり具合を確かめながら倒すか?
……いや、ダメだ。一度でも抜けなくなれば危険すぎる。
俺のスピードならオークから逃げ回ることは難しくないが、櫓にはオルガがいる。
オークが櫓を先に体当たりで襲い始めたらオルガが危ない。彼は今、矢を切らしており、使える武器がないのだ。オルガを置きざりにして逃げるわけにはいかないな。
「プギー!」
俺はオークの喉や鼻をしつこく柄で突きながら、間合いを取り続ける。
木の柄だけで倒せればいいのだが。
だが、何度打ち付けても、オーク二頭はちっとも弱ったそぶりを見せない。
俺の力では相手の防御力を上回る決定的なダメージを与えられない、ということか。
【怪力】も五歳児ではさすがに難しいようだ。
金太郎は熊でも投げ飛ばしたんだけどなぁ。
まぁそれでも、熊のように大きなオークを突いて下がらせたりできるのだ。普通の五歳児よりはよっぽど力持ちと言えるだろう。
「シン! 何してる、クワの刃を使えよ!」
オルガがじれったそうに言うが、それは危険だからな。
ここはじっくり時間をかけて良い場面だ。
俺は使える落とし穴がないか、もう一度、確認する。穴はオークの死体がいくつも横たわり、二十センチくらいしか深さがなかった。最初は二メートル近く掘ったので、中に二頭か三頭は重なっているのだろう。
「試してみるか。それっ!」
オーク達は全員、鉄の鎧を付けている。落とし穴に深さがなくとも――そこの鉄の硬い部分に勢いよく、後頭部を打ち付けてやれば……ダメージを与えられるはずだ。
「プギー!」
まず一頭を落とし穴へ、仰向けに転ばしてやった。
ガチャンと音がして、しかし、むっくりと起き上がってくる。失敗か。
「もう一度!」
別の一頭を突いて転ばせる。
転ぶ瞬間にさらに追い打ちをかけ、上から突いて加速させてやった。
だが、ミシッと嫌な音がして、木の柄がそろそろ限界のようだ。
まずい。
代わりの武器はない。
家にはクワがまだ一本あるが、オルガをここにそのまま置いて行くわけにもいかないのだ。
仕方ない……か。
俺は攻撃をいったん止め、刃での一撃を当てる隙を狙う。
方法は二つ。
一撃で二頭を同時に仕留めるか、
それともこのまま落とし穴に連続でオークを落とし続けて、ヤツの後頭部が運良く別の鎧に当たって砕けるのを狙うか。
どちらもかなりハードだ。
だが、やるしかない。俺は決めた。
「危ない、シン! 後ろ!」
ブンッと後ろからオークが手斧を振り回してきたが、問題ない。
耳を澄ませば、草を踏む音とオークの鼻息まで聞こえる。それで位置を探れる。
相手の位置は完全に把握しているのだ。だから、一歩前に出るだけでかわせる。
「プギィイイー!」
手斧をかわされて腹を立てたか、前にいるもう一頭のオークがのっしのっしと距離を詰めてやってきた。
さあ、もう一歩、踏み込んでこい。
そうしたら――
手斧が振り上げられた。
「ダメだ、シン、早く逃げろ! そのままじゃ挟み撃ちにされるぞッ!」
オルガが叫ぶが、まだだ。
まだ俺は動かない。この状況が良いからだ。
クワの柄を握りしめ、全神経を敵に集中する。
目の前のオークが手斧を振り下ろし――
見える。
スローモーションになった動きが。
止まって見える集中力に入ったのだ。
【一心不乱】と【無我の境地】
俺が持つ【集中力】の二段上の才能。
だが、俺はそれをもう過信しない。
クワで打ち込んだとして、一撃で仕留められるなんてのは可能性にすぎないのだ。
しかもまだもう一頭いる。
――それがこの上なく僥倖。
この状況、この条件なら、廃ゲーマーなら間違いなくこうするよな?
後ろのオークも手斧を振り下ろしてくる音が聞こえてきた。
ここ!
このままだと一秒後に手斧が俺の体に食い込むであろう位置。
それが何よりも重要だった。
俺はクワをその場に捨てた。
そこで一気に地面を横に転がる。
ぎりぎりで前後のオークの一撃を避けた。
すると、二頭のオークは勢いが付いたまま、手斧を止められず、それぞれが互いに目の前の相手へと手斧を振り下ろした。
――目の前の仲間に対して。
ザシュ! ザシュ!
一秒後……ドサリと二頭が同時に倒れた。相打ちだ。
計画通り!
ピロリン♪
『不確定名<オークの戦士の群れ>を倒した!』
『<属性> 修羅+1』
『【同士撃ちの計】【策士】をそれぞれ手に入れました』
『称号<オーク戦士キラー> <村の若き英雄>を入手』
『称号の付与効果により、以下の能力が永続的に上がります』
『<対オーク 戦闘能力補正値>+50%』
『<カリスマ>+20』
『<名声>+500』
ピロリン♪
『【平凡】が発動! <名声>+50に修正されました』
『経験値42000を入手』
『レベル1 → レベル23にUP!』
ピロリン♪
『【廃ゲーマー☆】が発動! レベルが3に修正され、20レベル分はステータスポイントに変換されました』
「よ、よし、やっつけた……」
張り詰めていた緊張の糸が切れ、俺はその場にへたり込んだ。
「やったぁ! いいぞ! シン!」
オルガが櫓から飛び降りると、両肩を叩いて喜んでくれる。
「まだだ、オルガ、生き残りがいないか、確認してくれ」
「心配ねえよ。どいつもピクリとも動いてねえし、息もしてねえ。全滅だ」
「そうか」
「おーい、お前ら! 大丈夫か!」
森から、父さん達が出て来た。
良かった……。無事だったようだ。
「お、おいおい、なんだこのオークの数は!」
「十、二十、三十、四十……全部で五十くらいいるか?」
「そんなにか」
「へへ、ぜーんぶ、オレとシンでやっつけたんだぜ!」
オルガが鼻をこすって胸を張る。
「あれだけしぶとくて力のあるヤツを、たいしたもんだ」
「落とし穴を使ったのか……、いったい、いつの間に掘ったんだ、シン」
「ついさっきだよ。スキルで」
「「「……」」」
あれ? なんでそこで黙るの、みんな。
「はは、やっぱりジークのせがれだけあるぜ! これだけの穴をさっき掘っただとよ!」
「ぶったまげただ!」
父さんが俺の肩に優しく手を置き、笑ってうなずいた。
「よくやった、シン」
「よし、オークどもの死体を解体するぞ!」
「「「おう!」」」
「うぇ。と、父さん、僕は母さん達に報せてくるよ」
「ああ、そうしてくれ」
家に向かって走ると、後ろで、ザシュ、ザシュとスプラッター大会が始まるのが聞こえた。
考えるな、アレが今夜のステーキになるとか、考えちゃダメだ!考えちゃダメだ!考えちゃダメだ! うぇっぷ。




