●第八話 勇者の条件
「フゴッ?!」
オークがもんどり打つと前のめりに倒れる。そこには二メートルほどの縦穴が掘ってあった。
「プギー!? ヴォ!」
草で隠した穴に落ち、潰れた音を出すオーク。
覗き込むと、逆さに倒れたまま動きを止めている。
「よしっ、使えるぞ! この罠」
草を結んだだけの罠だが、足が引っかかれば充分。
「やったな! シン!」
他のオークもその落とし穴がいくつも横に並んでいるとは思わなかったようで、そのままこちらに突っ込んできた。
「プギ!?」
そして、落ちる。
鉄の鎧も重量があるが、それ以前に丸々とした太鼓腹の体重が重すぎるようで、オーク達は一度ひっくり返って落ちると、そのまま絶命し、すぐ動かなくなる。
ようやく十頭くらいの最前列が落ちたところで、次のオーク達が罠の危険を理解して、立ち止まった。
ほんの一瞬の睨み合い――。
「くそっ、やっぱり回り込んで来るか!」
オークはそれだけの知恵はあるようで、今度は仲間が落ちていない場所を選んで回り込もうとする。
「プギー!?」
だが、残念でした。その辺はまだ落とし穴だ。
それでも罠を真横に無限に掘ったわけではないので、いずれ迂回して来るのは時間の問題だった。
頭数もまだ四十くらいはいるから、あと十頭でも仕留められるかどうかだな。
「シン、ここはオレに任せて、先に逃げろ」
オルガはそう声をかけてくるが、彼も矢は十数本しか持ってこなかったはずだ。
すでに矢筒には矢が数本しか残っていない。
「まだだ」
「お、おい、戦うってのか、アレと! やめとけよ、シン! クワじゃ無理だ。相手は鉄の鎧だし、それに体の大きさが違いすぎるって。力負けするぞ!」
そうかもしれない。だけど、通用するのかどうか試してみなきゃ。
俺は左に回り込むと、落とし穴に向かってくるオークをその前に、クワで――突いた。
鉄の刃先の側で、ではない。
これはその逆、柄の尻を使うのが正式なのだ。刃は後ろに持つ構え。
【神操鍬戦闘術】
クワで戦う術。
威力があるのは鉄の刃先の側だが、これを使おうとするとどうしても大振りになって、相手に防御されやすい。
オーク達は手斧を持っていた。円形の盾を持つ者もいる。
だが、クワは逆さにして使うことで、スピードが増し、先端を動かしやすくなる。重心が後ろにあるのだから、安定しやすいのだ。理にもかなっている。
棍棒術に近い、と思う。
「グフッ!」
丸々と出っ張った腹をクワの柄で突かれたオークは、その腹深くまで柄をめり込ませてきた。
木の柄がたわみ、ズササッと、こちらが後ろに押される。
やはり、パワーと体重差は埋めようがないか。
力でぶつかり合えば、必ずこちらがパワー負けする。
「はっ!」
だが、それでも戦える。
なら、迷うことはない。
俺は後ろに下がって距離を取ると、今度は相手の鼻をクワの柄で突いてやった。
「ブゴッ!?」
面食らったオークは、よたよたとバランスを崩した。
「ほら、もう一発だ! 落ちろ!」
さらにもう一撃を追加してやると、堪らずオークは嫌がり、後ろに下がろうとした。
その方向には落とし穴がある。
「プギー!」
上手く草罠にまで引っかかり、オークは仰向けにひっくり返りながら穴に落ちた。
「楽勝ッ!」
相手に柄をつかまれると危ないが、手斧と盾を両方持っているオークはそんな知恵はなさそうだった。
腹を突き、鼻を突いてやると、痛がってどいつもこいつも真後ろに逃げようとする。
そして穴に落ちる。
「よっし! いいぞ、シン! その調子だ!」
矢を使い切ったオルガが、櫓の上で応援に回った。
「オルガ、残りの数をカウントしてくれ!」
「わかった! ええと、残り、19頭だ!」
まだ多いが、半減したな。
盾を持つオークをすべて穴に落としてやったので、ここからは片手だけ武器を持つオークだ。
手斧でクワの柄を弾いたり、逆の素手で握り込んで柄を折ろうとしてくるので、こちらも知恵を使わねばならない。
鼻を突くと見せかけて、腹を突くフェイント。
力を込めずに柄で手斧を受け流し、相手が振り切ったところで、力を込めての突き。
武器の間合いの差を活かし、先手を取ってのカウンター。
同時に二頭を相手にしないよう、常に回り込んでの位置調整。
俺は実戦は初めてだが、このようなアクションはゲームで幾度となくやってきた。
それが、今、すべて活きている!
「ははっ、やれるぞ!」
全身の血が泡立つようなこの興奮と爽快感。
ピロリン♪
『【円熟の手練れ】【PvPの覇者】【霞の位置取り】をそれぞれ手に入れました』
「あっ! シン、穴から出て来たぞ!」
どうやら落とし穴の中がいっぱいになってしまったようだ。
……まずいな。




