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●幕間 闇のローブに身を包む男

(視点が別人に変わります)


 森の中を、四台の幌馬車が移動していた。

 四台とも大型の四輪馬車で、馬は二頭引きである。駆け出し行商人のリックがそれを見たならば、「おいらもあんな立派なキャラバンを組める大商人になりてえなぁ」と羨ましがったことだろう。これだけのものとなれば馬車一台だけで金貨二十枚もするのだ。

 その立派な幌馬車の御者台には、馬を操る御者とは別に、武装した冒険者も乗り込んでいた。

 こうした目立つキャラバンだと、当然、盗賊への備えとして護衛が必要になる。


「気に入らねえ」


 御者台で護衛を務める冒険者の一人が面白くなさそうにつぶやく。


「リーダー、何が気に入らないんだい? この辺の護衛で銀貨五枚もくれるんだ。いい仕事じゃねえか」


 馬車の奥から仲間の冒険者が顔を出して聞く。


「確かに、金にはなる。仕事も楽だ。だがな……耳を貸せ」


 隣の御者には聞かれたくない。リーダーと呼ばれた男は小声で仲間に話す。


「いいか、これだけの数の鉄鎧だ。十や二十ならどこかの大店おおだなの武器屋に卸すなんてこともあるだろう。貴族様が相手なら、お抱え兵士を増やしたのか、部隊の装備を一括で新調しようかなんてこともあるかもな」


「ああ、そりゃあるだろうな」


「だが、今回の売る相手は誰だ?」


「リーダー、そんなの誰だっていいだろ。オレらのお仕事は護衛だ。誰にこの鎧が渡ったっていいじゃねえか」


「ふん、甘いヤツめ。この取引は森の中・・・だぞ? 最初はオレ達冒険者に行き先を知られたくないだけかと思ったが、この近くの街と言えばブランデンだけだ。他に行こうとすれば食料が足りない」


「まぁ、そいつはオレも、ちょいと引っかかったけどな」


 普通、商人は街で商売をする。街なら兵士も巡回しているし、詰め所だってあるから他より治安が良いからだ。

 それに、何より、相手と落ち合う時間・・が問題だ。

 世の中には【時計】という日の出の時刻までピタリと言い当てられる才能を持つ者もいるが、それほど多くはいない。だから、取引ではたいてい、双方が同時に到着するのではなく、相手と落ち合うのためにどちらかが待たねばならない。

 森と言えばモンスターが徘徊している場所だ。わざわざこのんで森で待とうなんて商人がいるはずもない。


 つまり、この商売は……街の兵士に見つかってはまずいのだ。おおっぴらにはできない商売で、ろくでもない企みに違いない。


「おい! そろそろ地図に記された場所だ。相手がいないか、よく探してくれ」


 大商人が後ろの馬車から声をかけてきた。こっちは金をもらって護衛の仕事をしているだけであり、丁稚みたいな下っ端とは違うのだが、横柄な商人だ。


「相手の服装は?」


「わからん! だが、森にいるんだ。そいつだけだろうよ」


 それは確かにそうだ。見つけた相手に問い質せばわかることだった。これだけの数の鉄鎧と武器を買い付けるというのだ。それだけの大金を持っている人間は限られる。情報漏れでもない限り、取引相手しかやってこないだろう。


 だが、少し開けたこの場所には誰もいない。


「本当にここなのか? ちょっと地図を見せてみろ」


「おっ、リーダー、あそこ。空を見ろよ!」


 仲間が指さしたのでそちらを見ると、空に昇っていく一筋の光がここからでも見えた。


「ほう、『供物の昇天』か」

「運がいいな!」「これはありがたい」「どうか、商売が繁盛しますように――」


 皆が笑みを浮かべたり、真剣な表情で目を閉じて神に祈りを捧げたが。


「おやおや、これは運が悪いですねぇ」


 黒いローブに身を包んだ見知らぬ男が、かぶりを振りながら木の背後から出て来た。


「なに? 神へのお供え物が天に召されたんだ。たとえ遠くだろうと、なにがしか良いことがあるだろうよ。縁起物だ」


 冒険者はローブの男の機嫌が悪いのかと思い、なだめるつもりで言ってやった。


「だから嫌なんですがね。まぁいいでしょう。遠くですしね」


 随分とひねくれ者らしい。きっと昔に、この男の神頼みが通じず、酷い目にあったのだろう。


「おお、あなたが鎧を買い付けるとご注文いただいた方ですな?」


 大商人がローブの男に確認する。


「そうです」


 間違いないようだ。

 フードで顔があまり見えない薄気味悪い男だが、取引相手を待たなくていいのは結構なことだ。


「それで、あんたの馬車はどこだい?」

 冒険者のリーダーが周りを見回すが、不思議なことに男は馬すらも持っていない様子だ。

 運ぶのを手伝え、と言われたらごめん被りたいが、いったい、こんな場所で鎧を手に入れてどうするというのか。


「ご心配には及びませんよ。荷物を確認させてもらえますか」


「どうぞどうぞ。どれも一流の職人の手による一品です。サイズは特大でよろしかったのですかな? あとからサイズを合わせろと仰せなら、それなりの料金を頂かねばなりませんが……」


「いえいえ、この大きさならちょうどいいですよ。……さて、数もそろっているようです。となれば、もうあなた方には用はありませんね。フフ」


「は? いや、残りの代金を……」


「【デス・クラウド】」

「うわっ?!」


 ローブの男が口から黒い煙を吐き、それに包まれた大商人がどさり、とその場に倒れ込んだ。


「大旦那様!」

「野郎!」「てめえ、いったい何を!」


 仰天した大商人の使用人たちは慌てふためくばかりだったが、その場にいた冒険者達は行動が早かった。

 すぐに相手を敵と判断し、ローブの男に斬りかかる。


 魔法かスキルか魔道具か、何をしたのかは判然としないが、相手は素手だ。

 こちらは多数、先手さえ取れれば。


 冒険者達はそう思った。


 ――だが。


 首を捉えたはずの剣が、ギィン!と金属音を立てて弾かれた。


「な、なんだと?」


「フフフ、そんななまくらの鉄など、この私には効きませんよ」


 不気味なローブの男は空中に漂ったままの黒い煙を、ふぅ、と吹く。

 すると煙がさぁっと広がった。


「その黒い煙を吸うな! 毒だ!」


 冒険者のリーダーは的確にそれを見抜いていた。

 だが、彼はまだ経験が足りなかった。もし、もう少し実力が上の冒険者ならば、すぐにこう指示しただろう。「逃げろ!」と。


 結果、彼らは数分と持たなかった。

 倒れた男達を見て、ローブの男がパンパンと手のホコリを払う。


「さて、全員、殺せましたかね。それにしても……頭の悪い人間ですよねぇ。何をするって、死人に口なし、証拠隠滅ですよ。当然じゃあないですか。フフ」


 ニヤニヤとローブの男は笑って冒険者の死体の頭を蹴る。生死を確認しているわけではない。先ほど使った魔術により、この場の人間がすべて死んでいるのは確実だからだ。


「弱いくせして、この私に刃向かうのですから、愚かですよねぇ、フフフ」


 しばらく無意味に冒険者の頭を蹴って遊んでいたローブの男だが、森の奥からドスドスと複数の足音が聞こえると我に返ったようにローブの乱れを整えた。


「おお、来たようですね。さて、これで私の仕事は完了です。あとは頼みましたよ、お前達・・・


「フゴ」


 それはただの鼻息であったが、ローブの男は満足したようで、その場を早足で離れていった。

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