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●第五話 美食家の供宴『スモーキーチーズ』

 白い豆腐のようなチーズが布の真ん中に濾されて残った。


「じゅるり」

 隣でオルガが口を拭ったが、俺もヨダレが出まくって堪らん。


 今度はその残ったチーズを絞り、板の上に載せて丸く形を整える。

 これを乾かせば、あの見覚えのある、まん丸いホールチーズになるのだろう。

 絞ったあとの水はまた鍋にかけてぐつぐつと煮るようだ。


「母さん、その残り水はどうするの?」


「煮詰めて乳とまた混ぜ合わせて、これもチーズになるのよ」

「あぁ、へぇ」


 再利用か。簡単だとは思っていなかったが、チーズ作りも大変だな。


「シン、オルガ、そっちはもういいだろう。塩漬け肉を作るぞ」


「はーい」「おう!」


 こちらも板の上に置いた羊肉やイノシシ肉を、適当な大きさに解体し、肉に塩をこれでもかとバサバサかけてすり込んでいく。塩漬け肉もスープにしないと塩辛くて普通には食えないレベルだ。

 もっと、こう、味の良いベーコンみたいな肉を食いたいよね。


「あっ、そうか、燻製だ!」


 俺はひらめいた。

 無ければ作ればいいじゃない!


「燻製?」


「そういえば、肉を煙であぶって作る方法があったね。手間がかかるし、おいしくないからうちの村ではやってないが」


 おババ様が言う。


「ええ? 絶対、おいしいですよ! やりましょう!」


 イノシシ一頭分だけ、燻製で作ってもいいというありがたい許可が出たので、木の専門家ヨーサックさんにご協力いただき、ご推薦のクルミの木のチップと、おババ様からはオレガノやタイムのハーブを分けてもらい、葉っぱと枝のうちわで煙を扇ぐ。

 どうせならとついでにオルガに魚も捕ってきてもらい一緒に燻製にすることにした。それと行商人リックから買い上げたチーズひとかけらもついでに燻製にしてみる。


「うおー、シン、いい匂いだな!」


 オルガがヨダレを垂らしながら目をキラキラさせているが、おいしい燻製肉ができるといいんだけど。

 肉を焼かないよう注意しながら一日がかりで燻製を作った。

 塩分を半減させたから、これで腐らず上手くいけば、村も経済的に楽になるはずだ。

 手間はかかるけど、おいしいほうがいいよね!


ピロリン♪

『スキル【廃ゲーマー☆】が発動。スモークチーズ(伝来650)のエクストラ・ルートが解放されました』

『天啓――飢えても飽き足らぬ美食家、神への捧げ物を怠け、貪食の大罪を犯すものなり。天の金を持つ卑しき繁殖の魔物から、血の川と、教会への牙と、燃えさかる酒の供宴を招かん』


「あああああ! 伝来って何? 燻製とチーズは古代文明からあったんじゃないの! オーパーツじゃないから! それくらい見逃して! ちゃんと分けて捧げるから!」


 全部は捧げないけどな!


「ど、どうしたシン、落ち着けよ」


「ああ、悪い、オルガ、なんでもないぞ。ちょっと俺のスキルが発動しただけだ」


「そうか、お前、メッチャたくさんスキルを取ってるからなぁ」


 とにかく、何が起きるか、予測して行動しないと。

 今回の天啓は『魔物』という言葉が出たからな。

 普通に考えればこれはモンスターだろう。

 だが、なんでスモークチーズを作ったくらいで魔物が出てくる……?


「あっ、くそ、匂いか!」


 香ばしく、食欲をそそる匂いが燻製の煙に混ざって辺りに漂っている。


「オルガッ! すぐにここを片付けるぞ!」


「おう!」


 一番ヤバそうなスモークチーズの欠片は四つに割って、二つは俺とオルガで食った。

 さっきまで晴れ渡っていた空が急に曇り始め、雷が遠くで聞こえた。神様が怒ってるのかね。だが、ルルにも食わせてやらないとな。あいつは体が小さくやせているし、栄養が必要だ。

 最後に残る一つをおババ様のところへ持って行く。


「おババ様、あの……」


 言いにくいなぁ。


「何があった?」


「実は、僕のスキルに天啓があって――」


 事情を洗いざらい話す。ただ、転生がどうのこうのという話は伏せておいた。


「ふうむ、このチーズがねぇ。ま、おいしそうな香りがするし、魔物がよってきても不思議はないね」


「すみませんでした」


「何をあやまる。シン、お前さんは何も悪いことはしてないじゃないか。知っていてやったならともかく、作ったときは知らなかったんだろう?」


「ええ、はい」


「なら、気にすることはないさね。さて、豊穣の神へ――いや、ここは狩猟の神、アルテミシュへ捧げたほうが良さそうだね。シン、そこの祭壇の皿の上にチーズを置いとくれ」


「はい」


 おババ様の家の奥、木彫りのトーテムポールのような台座にチーズを置く。


「次に、ラベンダーのお香を焚くよ。火を付けとくれ」


「はい」


 お香に魔法で着火する。ラベンダーを煮詰め、ブナとマツの木くずと樹脂を混ぜて乾燥させたものだ。

 細い煙が上がり、ツンとした芳香が漂う。


「遙かなる天頂、聖ウーリュンポス山の高峰におわす、いにしえの神々よ、かしこまって奉る。ここにささやかなる供物をホイット村のジークの息子シンが御前に捧げん。十二神が一柱、闇夜を照らす月にして狩猟の神、深き森林が養えし、猛き獣を射つ御方にして、美しき純潔の女神アルテミシュの勇気と知恵とご加護を賜らんことを。伏して祈り願い奉るものなり――」


 目を閉じ両手を合わせておババ様の祈りの言葉を聞く。


 すると、祭壇がまばゆく光り、驚いて目を開けると、そこにはチーズの消えた皿だけがあった。

 えぇ? 消えた……マジですか。

 いや、神様や魔法が存在するのはもう知ってたけどさ。

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