●第四話 塩で作る保存食
一晩、考えたが、売り物はリバーシなどは良さそう。
あと、この大陸の人達は信仰心が高いので、豊穣の女神の像を作れば売れるかもしれない。
洗濯板を削ったときに木工職人の熟練度が上がっているので腕前には自信がある。
「よし、バインバインッのエロい女神を彫るぞー!!!」
「オホン、その前に。シン、今日はチーズを作るから手伝いなさい」
父さんが咳払いして言う。
「ええ? はぁい」
お手伝いがあるというのはこういうときはじれったい。とはいえ、ご飯をちゃんと食べさせてもらっているし、農村の生活は貧しいからなぁ。腹一杯食える日は滅多にない。不作の年になると食うにも困る日がずっと続く。
だから、ここでは全員、働かざる者食うべからず、だ。
「おはよう! シン! うちの羊も連れてきたぞ!」
「おはよう、シンちゃん」
「「「メ~」」」
たくさんの羊に交じってオルガとルルもやってきた。
「ああ、おはよう、オルガ、ルル」
チーズ作りは毎年この時期になると村中の羊を一カ所に集め、一度に行う。
……なんでかな?
各家庭で定期的に作っても良さそうなものだけど……わからないことは聞いてみよう。
「父さん、なんでみんなで集まってチーズを作るの?」
「材料がもったいないからだ。チーズを固めるレンネットは、羊を一頭潰して胃から取らなきゃいけないし、塩が高いのはお前も知ってるだろう」
「ああ、なるほど」
一度にまとめて効率よくやろうということか。
「それに、つがいにする羊はしばらく乳を取らずに休ませる。これから冬に入るから、今のチーズ作りが一番いいんだ」
「「「へぇー」」」
子を産む羊が妊娠するのに、栄養を貯めておく必要があるのか。
「なるほど、そうだったのか……」
「なんだよ、おっとうも知らなかったのかよ」
「オルガ、お前だって知らなかっただろう」
「まぁな! へへ」
「じゃ、ボウズ達は乳を入れる桶を洗っておいで。チーズにゴミが入らないよう、桶はしっかり洗うんだよ」
村のおばさんが言う。
「「「はーい」」」
桶を洗いに小川に行くのは村の子供達の役割だ。その間に男衆は羊に鉈を振り下ろし――おうふ、見ない、見ないぞ。あんなスプラッターは無理。
桶を洗浄するなら、石けんも持って行くか。俺はせっけんを入れた壺も持って行くことにした。
「おい、シン、それは匂いがつくから、よくないんじゃないか?」
「しっかり洗えば大丈夫だよ」
「面倒くせえなぁ」
桶をしっかり洗い、しっかり水を切り、ついでに俺の着火魔法であぶって殺菌と乾燥をやっておいた。
「おっとう! 洗ってきたぞ!」
「おう」
羊を逆さ吊りにして屋根の軒先にロープでくくりつけているが……何もうちでやらなくたっていいのに。
「はい、ありがとう。んん? 桶が乾いているけど、ちゃんと洗ったのかい、オルガ」
「ちゃんと洗ったっての。シンが火の魔法であぶったから、乾いてるだけさ!」
「ああ、なるほどね。さすがだねぇ、シンちゃんは」
「はは、いえいえ」
「ジークさん、清めの酒はあるかい?」
「ああ、これだ」
父さんが革と紐で蓋を厳重にしてある壺をおばさんに渡した。
「なぁ、ジーク、その酒、ちょいと飲むわけにはいかねえか?」
村の男衆の一人がニヤケ顔で聞く。
「ダメだ。儀式は儀式だからな」
「その通りだよ。豊穣の神ディメトリア様は血とずぼらな人間をお嫌いになるからね。きちんとおやり」
「おババ様!」
「おババ様! 腰は大丈夫なのかい?」
皆が驚くが、おババ様が家から出てくるのは珍しいな。
「なぁに、今日は天気がいい。それに、ヤナギの木の皮を煎じて飲んでいるから、心配いらないよ」
「でもねぇ……」
「おババ様、あなたは村長なのだから、あまり無理はしてもらっては」
「そうだぜ、おババ様、いざというときに困らぁ」
「フン、いざというときに役立たないようじゃ、村長とは言えないね。この際だ、私に何かあったときの跡継ぎはジークにするよ」
「「「おお」」」
「それは……」
「ジークよ、あんたもこの村に戻ってきて、もう五年だ。気にすることはないさね。誰か反対する者はいるかい?」
「いるわけねぇぜ! なあ、みんな!」
「おう。ジークなら安心だ」「そうだな」「オラは字も書けねえし、ジークは計算もできるだ」「んだんだ」
「おまけに竜殺しだものねえ」「他にいねえよ!」
竜殺し? うーん、あれかな、女殺しみたいな、何かのたとえかな?
「わかった。なら、おババ様にもしものことがあれば私が村長を引き受けよう」
「決まりだ!」
「父さん、竜殺しって何?」
「何でもない。それより、お前達は酒で手を清めて、女衆と一緒に乳搾りを手伝いなさい」
「わかった」
「ほら、ボウズ達、こっちだよ」
壺に手を浸すが、ビールの匂いがする。村人達は儀式だと思っているようだが、これはアルコール殺菌だろうな。殺菌なら度数の高い蒸留酒のほうがいいんだけど……今度、リックに道具があるかどうか聞いてみるか。
おババ様は香草のタイムを竈の下にくべ、良い香りが辺りに漂った。これも儀式だそうだ。
みんなで羊の乳を搾り、それを鍋に入れ、火で温める。
「温めすぎてもダメだよ。沸騰しないよう、気をおつけ」
「わかってますよ、おババ様」
芳醇なミルクの匂い。あー、砂糖をたっぷり入れてホットミルクで飲みたいなぁ。じゅるり。
「いい匂い! 腹減った!」
「飲んじゃダメよ、オルガ」
「わーってるよ!」
「じゃ、塩を入れるよ」
ドサッと、もの凄い量だ。そりゃうちの村のチーズが塩辛いわけだ。
わざわざ小分けに切って、二日くらい水に浸けて塩抜きしないと食えない代物なのだ。
なので、俺は聞いてみる。
「おババ様、もう少し量は少なくならないんですか?」
「ならないね。きちんと入れておかないと、腐っちまう」
「うーん」
現代のチーズって無菌室とかでやってるのかなぁ。
「じゃ、レンネットと酢を入れるよ」
「酢!? うぇ、そうか! うちの村のチーズが酸っぱいのはそのせいか!」
俺は残念な原因を発見し、天を仰ぐ。
「かあちゃん、酢はあんまり入れんなよな。チーズが臭くてマズくなる」
オルガも頼んだが。
「それじゃ固まらないからそうも行かないんだよ。これくらいかね、おババ様」
「うむ、そんなもんじゃろう」
続いて、亜麻の布を張ったタライに鍋のミルクを注ぐ。
すると――




