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●第三話 切り札

 タンポポの根から作りあげたゴムの服、これが俺の持つ最大の切り札だ。


「なんだ、こりゃ?」


 行商人リックは片方の眉をつり上げると、いぶかしそうにその服を触って確かめた。


「うぇ、ブヨブヨしてて、肌触りが変だぞ。固めたチーズなのか?」


「いいえ、ゴムと言います。食べても死なないと思いますが、食べ物ではないです」


「ふむ、珍しいモノを見せてもらった。だが、これは売り物にはならないな」


「ええ? 雨を通さないんですよ?」


「それならロウやニスを塗った革のマントと帽子でもいいだろう。とにかく肌触りがダメだ。それに――おっと破れた、すまんな」


「大丈夫です。炎であぶればくっつくので」


 俺は炎の呪文で破れた部分を溶かしてまたくっつけておく。


「そうか。でも、このもろさじゃなぁ」


「なるほど、肌触りと耐久力が問題ですか……また考えてみます」


 ゴムは画期的な素材なので、すぐに売れると思ったのだが、商品にするには課題をいくつかクリアしないとダメなようだ。


「他にはあるかい?」


「いえ、今は、これで全部ですね。リックさん、代わりに仕入れてもらいたいものがあるんですが」


「何が欲しいんだ? 塩と薬なら在庫があるぞ」


「それはあとで父さん達が買うと思いますから。僕のほうは、硫黄と羊皮紙を仕入れて欲しいんです」


「硫黄? あの火山で取れる、黄色くて臭い鉱石のことか」


「はい」


 硫黄は黒色火薬――を作る材料だが、火薬を作るわけではない。農家に銃があっても意味ないし。

 だが、硫黄はゴムを強化する添加剤として使えるはずだ。

 ゴム製品って燃やすと全部臭いからな。あれはたぶん硫黄が入ってる。試してみなきゃ。


「どれくらい欲しい?」


「ひとまずひとかたまり、三キロくらいでいいですよ。お値段はどれくらいになりますかね?」


「そうだなぁ。おいらも硫黄は取り扱ったことがないんだ。ま、銀貨一枚もあれば買えるはずだ」


「そうですか。じゃ、次に来てもらったときにでも」


「わかった」


 お米がないかリックに聞いてみたが、彼もそんな穀物は聞いたことが無いというので、望み薄だ。

 雨期のある温暖な地域ならありそうなんだけど、この辺は乾燥してるからなぁ。


「ま、探しておいてやるさ」


「お願いします」


 ついでにトマトとジャガイモも探してもらうことにした。トマトとモッツァレラチーズとオリーブでカプレーゼが食いたい。あとトマトを煮詰めたソースでナポリタン! ジャガイモのポテチとカレー!


「わかった、わかった、知らない野菜だが、全部、種やら苗も探しておいてやるよ。種なら運びやすいし」


「どうも。ああそれと、リックさん、次に来る時には荷車か馬車を用意しておいてください」


「馬車だって!? おいおい、無茶を言わないでくれ。馬車なんて馬だけでも銀貨十枚はするんだぞ。そんなものを買う余裕はないよ」


 そういえばうちの村には馬がいなかったが、高いのか。牛は二頭いるんだけどな。うちは羊を六頭飼っている。人に懐いているのでカワイイペットみたいなものだ。ちと臭いけど。


「そうですか。じゃ、荷車なら?」


「そうだな、安いのなら銀貨五枚くらいか。それならなんとか」


「できれば車輪の取り外しが可能で、車輪の予備、スペアも欲しいです」


「かまわないが、いったい全体、何をやろうっていうんだ? 馬車を買うってわけじゃないんだな?」


「ええ、タイヤを付けてみようかなと」


「タイヤ?」


 リックが首をひねったが、やはり聞いたことは無いようだ。行商人なら新製品の名前くらいは知っているだろうから、この世界にはまだゴムタイヤが発明されていないはずだ。


 ついでに油圧サスペンションも開発して乗り心地の良い馬車であっちこっちに行ってみたいな!


「金属の丈夫な筒、こういう形のも用意して欲しいんですが」


「あー、待て待て、そんな設計図が要りそうなのはダメだ。直接、鍛冶職人と話してくれ。そんなのはトラブルの元だからな。仲介はしないぞ」


「残念。じゃあ、鉄クシのでっかいヤツがあれば、買ってきてください」


「クシならあるが、これじゃダメなのか?」


「脱穀に使うんですよ。だから穂をとかして実を取るのに、最低でも二十センチか三十センチくらいの大きさがないと」


「ああ、なるほどな。へぇ、面白いことを考えるな。おいらと同じでナマケモノだ」


「ええ、そうですね」


 俺とリックはニヤニヤと笑い合う。世の中はナマケモノが楽をしようとして、新しく便利な方法を思いつくのだ。

 働きたくないでござる!




「シン、商人が来たそうだが、おかしなモノを買ってないだろうな?」


 父さん達がやってきた。


「大丈夫ですよ、父さん。ほら、石けんが売れて、銀貨一枚と大銅貨八枚、それに小銅貨二枚ももらえました!」


「ううむ、まあ、それはお前が作ったものだから、好きにして良いが……子供が銀貨か……」


「へへ、シンくんのお父様でいらっしゃる。こいつぁ、どうも。行商人のリックと申します。以後、お見知りおきを」


 リックがサッと立ち上がると、手をすり合わせてペコペコと挨拶した。


「私は貴族ではないぞ」


「では、騎士様で?」


「……いいや、格好を見ればわかるだろう。見ての通り農民だ」


「そうですか、それにしては……いや、失礼。それでお父様のほうは何をお売りになってくれますかね?」


「こっちは買うだけだ。塩はあるか?」


「もちろん!」


「父さん、塩のスープが飲みたいから、多めに買ってくださいね」

「オレもオレも! 親父、どーんと買い込んでくれよ」


 俺が父さんにねだり、オルガもおじさんにねだった。


「そんな金、あるわけないだろう」

「そうだ。無駄遣いはできないぞ。お前達はあっちにいってなさい」

「「は~い……」」


 もっとたくさん稼いで、好きに買いなさい、と言われたいよね。

 中世で高く売れそうなモノって何があるかな?

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