●第七話 恐怖、団子攻撃とミツバチの弱点
ハチミツを取りに森に向かう俺達三人。
今回は全員が分厚いゴム製の上下の服、手袋、帽子を装備し、蜂が入り込む隙間は一切無い。
欲を言えば、ブーツもゴムで作りたかったのだが、イマイチ強度が足りず、長距離を歩くのは不安があったので、革のブーツのままだ。
また今度、ゴムの強度を上げる実験でもやるとしよう。
「よし、あったぞ。あそこだ」
オルガが森の中の蜂の巣を指さす。
「デカいな……」
前の蜂の巣の十倍はありそうだ。木の洞にびっしりと巣を作っているようで、ミツバチがしきりにその周りを飛んでいる。
「よし、今度はへっちゃらだぜ、行くぞ」
「お、おう」「う、うん」
オルガは相変わらず思い切りがいい。俺とルルはおっかなびっくり、彼について行く。
ブーン、ブーンと、蜂が近づいてきた俺達を敵と認識し、たかっては尻の針を打ち付けているが、おお……ノーダメージだ。
「スゲえぞ、シン! ちょっとくらい刺されると思っていたけど、痛くもかゆくもねーや。はは!」
「オルガ、あんまり激しく動くな。この服は安定版じゃないから、破れるかもしれない」
「おお、そうか。わかった」
さっそく、俺達は木の洞から蜂の巣を一枚ずつ取り出していく。例の六角形のハニカムがずらりと規則的につながり、板のようになっていた。それが何枚もある。かなり大きな巣だ。ミツバチも気持ち悪いくらいたくさんいる。
「うお、なんか蜂が増えてきたな。急げ」
「ふえぇえええ、シンちゃん、前が、前が見えないよう!」
「落ち着け、ルル。ヤツらは決して中には入ってこられないからな。大丈夫だ」
俺はルルを落ち着かせるが、なんだかこっちも頭に蜂が何百匹と団子状態になっていて、息苦しい。
「はぁ、はぁ、こいつら邪魔だな、くそっ。シン、なんか暑いぞ」
「そりゃあゴムだからね。汗の逃げ場がないんだ。早めに片付けよう。もうこの二枚だけでいいぞ」
「ダメダメ、全部もらっていくぞ」
作業を続けるが、なんだか蒸してくる。というか、頭だけ、異様に暑いな。
「あう」
ドサッという音が聞こえたので振り向くと、ルルがその場に倒れていた。
「ルル!」
「大丈夫か!」
慌てて俺とオルガが駆け寄る。ミツバチはルルの頭の部分にびっしりと団子状態にたかっていて、表情もすぐに確認できない。
二人で蜂をたたき落とし、オルガがルルを担いで、何とか逃げ出した。
「ふう、はあ」
「暑かった!」
「ごめんなさい……」
木の枝で蜂を全部たたき落とすのにやたら苦労したが、三人の無事は確認できた。
帽子を脱いで俺達は這々の体でその場にへたりこんだ。
だが――作戦は失敗だ。
頭の冷却をどうにかしないとな。空気の通風口を作るか?
「そういえば、おっとうが言ってた話を思い出したぜ」
座り込んだままでオルガが言う。
「うん?」
「ミツバチだよ。あいつらは自分より大きな敵が巣にやってきたら、団子になって敵を包み込んで蒸し焼きにするんだと」
「ええ? そんなバカな」
「オレだってそんな話、信じなかったさ。普通の蜂に火の魔法なんて使えないからな。でも、さっきの暑かっただろ?」
「ああ。そうか、密閉されると、羽を動かす筋肉で温度も上がって、しかも汗の逃げ場がないから、温度が上がりまくるのか……」
地球のミツバチもそんなことをするのだとしたら、結構怖いな。
「もぅ、ハチミツはやめようよぅ」
ルルが泣きべそをかいて言う。
「わかった。ルルはもうここで待機しててくれ。オルガ、もう一回だけ、やってみないか? 今度は思い出した方法があるんだ」
「いいぜ、シン。お前にとことん、付き合ってやるよ」
ニカッと笑ってオルガが言う。友達っていいもんだな。
将来はどうなるかわからないけれど、気が合ううちは大事にしたいものだ。
「で、どうするんだ、シン」
「ああ、木の枝を持って行く。煙を使うんだ」
「煙? そんなものより、シン、あいつらをお前の火の魔法でやっつけたらどうだ?」
「いやいや、俺の初級魔法の威力じゃ無理だよ」
マッチやライターと変わらない威力だ。着火には便利だが、炎を遠くまで飛ばせないし、広範囲を攻撃するのにも向いていない。
だから生活魔法とも呼ばれるんだけども。
「それに、森で山火事になったら、それこそうちの父さんに殺されちゃう」
「うぇ、それはまずいな。山火事になったら、うちのおっとうも黙っちゃいねえだろうな。おっかねぇ」
オルガが首をすくめて身震いした。
「だから、火事にならないよう、俺が切り取った枝だけ燃やす。そこからはたいて煙を巣に送り込むんだ。そうすると、ミツバチは息苦しくなるのか、とにかく大人しくなるから」
「へぇ、よく知ってるな」
「まぁね」
枝は樹液がたっぷりと付いた針葉樹のマツの枝を選んだ。
「オルガ、準備はいいか?」
「いつでも! 始めてくれ」
「よし」
俺がマツの枝に魔法で火を付け、それを振って煙を立てる。
それを別の広葉樹の大きな葉っぱで扇いで巣へ煙を送り出す。
何度か繰り返していると、巣が煙に包まれ、蜂の動きが鈍ってきたのがわかった。
「今だ! オルガ」
「よし、任せろ!」
オルガが蜂の巣を抜き、その場を離れる。
別の場所で抜いた巣にたかっている蜂を枝でたたき落とし、すべて追い払った。
「よし、ハチミツを採ったぞぉおおおおおおおお!」
「やった!」
こうして大量に採取できた蜂の巣によって、俺達は大きな壺いっぱいのハチミツと、今まで知らなかった重要な材料を手に入れた。
『蜜蝋』――その名を俺が知るのはもっと後のことだったが、一週間前のシステムメッセージに現れた天啓の意味はなんとなく理解できた。
『天啓――黒き運命の輪が回り出し、闇の雲に包まれし醜き者ども、小さき針を持つ宝の番人から、明かりと聖なる包みと美しさを盗み出すであろう』
『闇の雲』と『小さき針を持つ宝の番人』はミツバチのことだ。間違いない。
そして『黒き運命の輪』は、もしかするとゴムタイヤかもしれない。
ええっと、ゴムを黒く強くするのはどうするんだっけ?
明かりはロウソクだとして、『聖なる包み』と『美しさ』って何だ?
このエクストラ・ルートはまだ未完成で、俺にはまた新たな課題ができたようだ。
「よし、こうなったら技術を全部開発して、コンプリートしてやる!」
俺は常世にいるであろう神と、自分自身に固く誓った。
あとがき
※ミツバチの団子攻撃は、本当に存在し、『蜂球』や『窒息スクラム』というそうです。
46℃まで内部温度が上昇するそうで。
煙の理由にはもっと高度で面白い説があるのですが、本作ではシンくんの知識ということで異説としました。
興味を持たれた方はミツバチのWikiを参照してください。




