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●第六話 ハチミツハンター、レッド、ブルー、ピンク、見参!

「おババ様に教えてもらった薬草だそうよ」


 母さんが説明してくれたので、それに乗っかっておこう。ゴムを作りますと言ったって、わからないだろうし。


「しかし、そんなに量がいるのか?」


「要りますッ!」


 ここで、……いやぁ、いらないかもです……などと言ったら怒られるに決まっている。

 それに、これから試行錯誤でゴムを作るのだ。材料は多ければ多いほど、チャンスは増える。

 必要だということにしておこう。

 父さんが怒ったら、メッチャ怖いし。筋肉ムキムキで、早朝にときどき映画みたいに鉄の剣を振り回しながらグレート・ザ・ジークっぽいこととかやってるし。


「ううむ、そうか……ならいいが、うちにそんなに病気になる人間は――ああそうか、ルルにくれてやるのかな」


「その通りですッ!」


「はわっ!?」


 ルルに俺とオルガが目力を込めて「わかっているよな、ルル。俺達友達だよな?」と圧をかけ口裏を合わせる。ルルは冷や汗を顔に浮かべていたが、嘘ではない。

 これでハチミツが手に入ったら、ルルにたんと食べさせてやるのだ。

 ハチミツはカロリーもビタミンBも多めの健康食品だからな。


 約二時間後――


「くそ、腕が動かなくなってきた……」


「貸せ、シン。オレがやってやるぞ」


「任せた、オルガ」


 根をすりつぶす作業をオルガと交代し、代わりに俺は鍋に火を付けることにする。

 鍋にはタンポポの根のエキスがまるで豆乳のようにたくさん溜まっている。


「――四大精霊サラマンダーよ、我がマナの供物をもって炎の息を吹きかけたまえ。ファイア」


 俺は炎の呪文を唱えて、薪の下に入れた細い枝に火を付ける。着火の呪文だ。

 呪文の言葉は父さんが知っていた。父さん自身は魔力を扱えないので、この呪文は使えないのだけれど、初級の生活魔法程度の知識は村人にもあるようだ。それ以上の魔法については、どこかの魔法使いに教わらないとどうにもならないそうだ。魔術の本どころか、普通の本さえこの村にはない。


 しばらく鍋を煮詰めていると、薄い豆乳くらいだったものがドロドロになり、ぷくぷくと泡立ち始めた。

 ……匂いは青臭いタンポポだな。ゴムの臭いはしない。

 不安だ。


「シン、そろそろ夕ご飯を作りたいんだけど、それ、まだやるの?」


「うーん、じゃあ、今日はここまでで」


 いったんマイ壺に鍋から移し替えてもらい、鍋を洗って返す。


「シン、来たぞー」

「こんにちは」


 翌日、それぞれの家の仕事を終わらせてから、また俺達はゴム作りに取り組む。

 これもハチミツを安全に採るためだ。


「見てくれ、オルガ、ルル。これがゴムだ」


 鍋で煮詰めた後にマイ壺に移し替えていたタンポポの乳白色のエキスだが、あれから一晩寝かせたら、茶色になり、きちんとしたゴムになっていた。


「おお、なんだこれ! 固まってるじゃねえか!」

「わ、この肌触り、面白~い」


 二人とも未知の物質に興味津々だ。

 指でつついたり、パンチしたり、オルガはかじったりしている。


「うえ、苦ぇ」

「オルガ、それは食い物じゃないから、やめとけ」


 材料としては食えなくもないが、食用に作ったものではないしな。

 大食いのオルガに、せっかく苦労して作ったゴムを使う前に全部食い尽くされては困る。


「で、これからどうするんだ?」


「これで服を作るんだ」


「はぁ?」

「なんで? あっ、蜂に刺されないために?」


 ルルは賢いな。


「そうだ。この分厚くて、弾力がある物質なら、亜麻の服とは違って、蜂の針が通らないからな」


「な、なるほど! いったい何に使うのかさっぱりだったが、ようやくシンの考えがわかったぜ!」


 ま、細かいところまで説明してなかったからな。


「じゃ、削り出していくか」


 木のヘラを使ってマイ壺からプルルンっと取り出し、それを裁縫師のルルの母親に切って仕立ててもらった。消防服のような形に。

 壺一個分ではまだ足りないので、俺達は積み上げていたタンポポの根をすりつぶしてはゴムを作りまくった。


「シンちゃん、言われたとおりにしてみたけれど、こんな感じでいいのかしら?」


「はい、おばさん、ありがとうございました。バッチリです」


「でも、その仮縫いだと、隙間から蜂が入り込むかもしれないわよ?」


「大丈夫です。こうして――四大精霊サラマンダーよ、我がマナの供物をもって炎の息を吹きかけたまえ。ファイア」


 ゴムとゴムのつなぎ目を炎であぶって加熱してやると、思った通り、すぐに溶けてくっついた。


「まぁ、面白い布ねぇ。くっつくなんて」


 でも、ちょっと臭いな。やっぱりこの辺はゴムか。液体のままのゴムを塗って接着剤にならないかどうか、二号機の服で試してみるか。


 さすがに顔の部分はゴム製にするわけにはいかない。前が見えないし、窒息してしまうので、そこは亜麻の薄布を上の帽子から前掛けという形にした。胸に当たる裾の部分にゴムエキスを浸けて重みを調整。蜂が通れないほどの小さな穴に紐を軽く縛っておけば、蜂も入り込めないと思う。


 そして一週間後――


 テレテレッテレッテレッ――♪


「ハチミツハンター、レッド! 変身ッ! きゅぴーん♪」

「ハチミツハンター、ブルー! 変身ッ! きゅぴーん♪」

「ハ、ハチミツハンター、ピンク! 変身ッ! きゅ、きゅう、恥ずかしい……」


「おいぃ、ルル! 練習通りに、ちゃんと決めろよな!」


 レッドこと、オルガが残念そうに文句を言う。


「そうだぞ、ルル。そこは恥ずかしがっちゃダメだ。こういうのはその場のノリと雰囲気と勢いだからな。考えるな、感じるんだ!」


 ブルーこと、俺がアドバイスする。


「うん、ごめん」

 ま、無理強いするようなことでもない。できれば色違いにしたかったが、着色までする余裕は無かった。

もともとそんな変身ごっこのための服ではないのだ。


「じゃ、オルガ、ルル、さっそくだが、森に出発しよう。大人達に見つかると面倒だ」


「おう、そうだな」「うん! ホッ……」


 改めてハチミツハンターの三人はあの森に向かう。

 いつぞやのリベンジだ。

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