●第五話 タンポポでラテックスを作ろう!
「じゃ、準備をやるぞ、オルガ、ルル、手伝ってくれ」
「おう!」「ふえぇ」
まず、大量にタンポポを集める。
これは薬師のおババ様に、タンポポの根から出る白い液は、煮た後に放っておくとグニグニと不思議な感じで固まると聞いたことがあったからだ。それはチーズよりも柔らかく、潰そうとしても形が元に戻るのだという。
――つまりは、ゴムである。
そんなバカなと思う人もいるかもしれないが、実際、前世の地球でもタンポポをタイヤの材料にしようという研究が進んでいた。
普通の天然ゴムは『ゴムの木』から作る。だが、あれは東南アジアの気候、つまり熱帯雨林気候に生える木であり、この地方は亜寒帯または西ヨーロッパ風の気候と思われるので、探すだけ無駄だろう。
記事にはゴムの木と成分が似ているということだったので、行けるはず。1ヘクタール(100m×100m)のタンポポ畑でなんと1500キロものゴムが抽出できたという。1.5トン!
そして、ルルがお気に入りの野原に、見渡す限り一面の黄色いタンポポが咲き乱れる場所があった。
「というわけで、ルル、悪いけど、この辺のタンポポはごっそり抜かせてもらうぞ」
「うん、全部じゃなきゃいいよ。私のでもないし」
村はずれのそこに行ってみたが、今は秋なのでタンポポの草の部分があるだけで花は咲いていない。
「よし、じゃ、根を使うから、二人とも土をなるべくきれいに落として集めてくれ。ま、後で川で根を洗うけどさ」
「「わかった!」」
幸い、ここは柔らかい土だったので普通に引っこ抜くだけできれいに根の先まで抜けた。
これがスコップでガツガツと掘り起こさないと行けない場所だったら、あきらめていたかも。
それにしても、タンポポの根って横にいくつも枝分かれして広がってるのかと思ったけど、根は真っ直ぐ下に垂直に伸びてるんだな。しかも軽く40センチはありそう。細いゴボウみたいだ。
「シン! こんな感じでいいか?」
「ああ、それでいいよ。それにしても、オルガ、やけにやる気だな?」
「そりゃ、当たり前だろ! お前のとっておきの魔法で、あの辺にいる蜂を全部やっつけるんだろ! な?」
「ん? ああ、そんなふうには使わないけど、ま、ハチミツは手に入るぞ」
「おしっ、ならどっちだっていいぜ! さすがに巣を取る度に刺されるのは嫌だからな!」
まったくだ。
そうして俺達はひたすらタンポポの草を抜いては集めまくった。
一時間後――
ドン! ドン! ドン! ドーン!
とタンポポの山盛りが四つもできた。
大人の背丈の倍はあるが、どうやって積み上げたんだと。
そういえば後先考えずにポイポイ山の上に放り投げてたな。夢中になってるときの子供パワー、スゲえ。
「じゃ、次はどうするんだ?」
「川で洗うんだよね、シンちゃん」
微笑んで言うルルは物覚えが良い。
「ああ、そうだ。いらない葉っぱも切り取らないと。でもこれ、運ぶの大変だなぁ」
「ハッ、こんな草なんて軽い軽い!」
オルガが両手で抱え上げたが、ボロボロと腕の間からタンポポがこぼれ落ちている。
台車みたいなのが欲しいよね。うちの村にはそんなもの、無いんだけどさ。
いったいここはどれくらいの時代なんだか。あの転生させてくれた神様は確かに中世と言っていたが、紀元前じゃないのか、ここ。まぁいい。
とにかく、不純物はなるべく煮る前に落としておきたかったので、俺とオルガで抱え上げて運び、ルルには道中のこぼれ落ちたタンポポを拾ってもらった。
「……母上殿!」
家にタンポポの根を持って帰り、俺は家で縄を編んでいたマッマの前で両手を突いて頼み込む。
「……なぁに、シン、そんなに改まって」
「竈の使用許可をいただきたく。薪はもちろん、自分達でなんとかします」
「シン、あなたもわかっているからこそ、そうやってかしこまって頼んできてるんでしょうけど、もうじき冬がやってくるわ。それまでに充分な量の薪を溜め込んでおかないと、寒さで私達は凍えてしまうのよ?」
「承知しています。使った分はあとで必ず補充しますので、どうか」
「ふぅ、仕方ないわね。で、今日は何をやるの? 薬草でも煮詰めるの? それとも料理?」
「薬草みたいなもの、ですかね」
「そう。いいわ。おババ様にきちんと教わったことなら、大丈夫でしょう」
母上殿はご存じないが……いや、そういえばこのタンポポの話もおババ様から聞いたんだった。有毒なら子供にあんな話を教えたりはしないだろう。タンポポだし。
きちんと許可はもらえた。オルガとルルにうなずき、次の作業だ。
マイすり鉢でゴリゴリとタンポポの根をすりつぶしてから、その絞り汁を大鍋にぶち込んでいく。
「ちょっ!? あなたたち、どんだけ草を食べるつもりなの!」
家の前に積み上げたタンポポの根を見て母さんが驚く。まぁ無理もない。俺でもこのドン!草の山を見たらビビる。家と同じくらいのサイズのバカでかい山になってるし。ちょっち集めすぎたかも、てへっ。
「大丈夫だよ、母さん、食べないから」
「えぇ……もったいない」
「そうだよな。ちょっとくらい食べても、うぇ、苦ぇ……」
オルガが口に放り込んでムシャムシャと食べかけたが、すぐにペッと吐き出した。
生は苦くてくえないと、メモメモ。
だが、葉っぱは食えるんじゃなかったかな。
タンポポ茶とかあったし。
河原で邪魔な葉を捨ててしまったが、ちょっともったいないことをした。
だがッ! これが完成すれば、あの甘いハチミツが食べ放題だ!
養蜂も可能になるかもしれない。
俺はその可能性に胸を高鳴らせつつ、せっせとゴリゴリ、タンポポの根を潰していく。
「お、お前達……何をやっている……んだ?」
麦穂集めから戻ってきた父さんが、これまたタンポポを見てギョッとする。
さすがに、いきなり量産とか、無謀だったな。試料で試してからが普通のやり方だ。
次から気をつけよう。




