四天王と僕。
魔王には強い、それはそれは強い家臣がついている。それを世では、四天王というらしい。
彼らは南北東西それぞれの領地を仕切っていて、この世界、ヴァイスハイムの人間なら誰もが知っている存在だ。
そう、誰もが知っている。
~四天王と僕。~
魔王城が見えることで有名な都、つまりは観光名所に僕らは立ち寄っていた。魔王Tシャツや魔王パン、はてには魔王饅頭も売っていて、魔王っていうのはとにかく有名人らしい。
それにしても賑やかだ。観光名所っていうのは、大体こんなもんなのかな。どこを見ても人がいっぱいだ。僕ははぐれないようにと、とにかく勇者の懐からそれを眺めていた。
「さぁさぁ、皆さんお立ち寄り!今日はなんと!かの世界的アイドル、詞☆天王のコンサートだ!限定ステッカー、限定ストラップ、限定クッキー。なんでもござれだよ!」
「そこの人、どうだい?今ならS席5万G!これ以上安いとこはないよ!」
魔王だけじゃなく、四天王も有名人みたい。呼子の言っていることをまとめると、
今日は四天王が来る。
四天王は滅多に人前には出ない。
それぞれに固定のファンがついている。
グッズもいっぱいある。
魔王よりも人気があるっぽい。
一体どんな四天王なんだろう……。
「四天王クッキーか、うまそうだな」
「魔法使いはいつも食べることで頭ん中いっぱいだなぁ。でも……それも今日はいいかもね」
今日は、というか、この脳筋はいつもじゃないかな。前も僕を見て涎垂らしてたの、知ってるんだからな!僕は食べ物じゃないって、何回言えばいいんだ全く。
賑やかな通りを抜ける途中で、ふと武闘家が出店の前で立ち止まった。武闘家がこういう寄り道をするのは珍しいから、勇者だけでなく、無口な僧侶も不思議に思ったのか、同じようにして出店に立ち寄った。
「こ、これは……!」
「武闘家?どうしたんだい?」
「これは幻の推し軽量筆ではなかろうか!?」
……何?
「拙者はかを長らく探しておったのだ!」
「えーと、武闘家?」
「ぶとうか?」
若干引き気味に魔法使いが肩を叩く。あぁ、この脳筋でも引くことあるんだな。僕も見習って呼んでみるが、全く反応が返ってこない。
武闘家は、手にしたペンライトとかいう光る棒を上下に振って、しばらく感触を確かめたかと思うと、いきなりその棒を鮮やかに上下左右に振り始めた。合間合間に「ハイ、ハイ!ハイハイハイ!」と変な掛け声を入れながら。
ちなみに武闘家の持っているペンライトの色は緑だ。
「ちょっとおじょーちゃん、振るのは買ってからにしてちょーだい」
「かたじけない。代金でござる」
変な口調のまま、武闘家は皆の共用財布から鮮やかに代金を払って、満足そうにまた棒を振り出した。
え。待って……今日の宿代、は……?
変わりように押され気味の僕たちと違って、僧侶が武闘家の手をがしりと掴む。興奮気味の武闘家に、僧侶が静かに首を振って、そして僕らの背後を指差した。
僕たちも見習って後ろを見る。
たくさんの野次馬が、僕たちを。
いや、武闘家を凝視していた。
「ぁ、ぁぁ……」
武闘家はやっと気づいたみたいで、途端に真っ赤になっていく。僧侶が手を離してやると、いつもの3倍の早さでどこかに走っていった。それを追いかけていく僧侶を見送って、僕らも野次馬の視線から逃げるようにして、慌てて2人を追いかけた。
町外れにある公園で、武闘家は木の下に体育座りをしてうつむいていた。近くには僧侶が立っていて、なぜか薬草を持っている。いや、流石にそれでは治らないと思う。
「ぶとうか……?」
僕はぴょんと懐から飛び出して、武闘家の頭に乗っかった。このまま攻撃すれば簡単に倒せそうだ。このまま戦力を削ぐのもいいと思って、僕はボディプレスよろしく何度も飛び跳ねた。
「フロイさん……、慰めてくれるんですね。ありがとうございます」
違うけど。
断じて違うけど。
「こら、フロイ」
「いやー」
勇者に掴まれてしまって、そのまま勇者の肩に乗せられた。仲間を守るとは……流石勇者。
「ねぇ、武闘家。一体どうしたんだい?」
膝をついて目線を合わせた勇者に、武闘家はおずおずながらも、ゆっくりと話し始めた。
「ファン、なんです……」
「は?」
「詞☆天王の……、緑は推しの色でして……」
納得したとばかりに、魔法使いがぽんと手を叩いた。
「あぁ、つまりオタクか!」
「うるさいです!す、好きなものを好きと言って、何がいけないんですか!勇者さんについてきたのも、もしかしたら詞☆天王に会えるかもって。下心で……」
あぁ、そうなんだ。
僕も下心はあるし、武闘家を責められたものでもないし。
「ぶとうか、いっちょ。ぼくも、いっちょ!」
せめて慰めてやろうと、僕も下心アッピルだ。けれども武闘家は何を勘違いしたのか、急に明るくなったかと思うと、
「フロイさんもファンなんですね!今日は語り合いましょう!」
「ち、ちが」
「同じ人いなかったから嬉しいです!さ、今日も元気に野宿ですね!」
そうやってトントン拍子に進んで、僕は夜通し武闘家のほぼ一方的な話に付き合った。目の下にできたクマを見て、魔法使いが心配そうに見てきたのも、特に印象的だった。