仲間と僕。
よく考えてみれば、僕は僕だけでは何も出来なかったことを思い出して、この緊迫した状況の中。
あぁ、やっぱり美味しいご飯くらい、食べておけばよかったなと反省していた。
~仲間と僕。~
元王様が高笑いしている。
僕はそれでも諦めきれずに、何度も何度も起き上がっては跳ねて体当たりをする。その度にぼよんと弾き返されて、僕は床に転がっていく。これじゃ、本当にボールじゃないかとツッコミを入れたいけど、それどころじゃないのはわかってる。
「フロイ……」
勇者がふらふらと立ち上がった。なんだ立てるじゃないかと文句を言いたくなったところで、僕は勇者に掴まれて、その懐に入れられてしまった。
真っ暗で何も見えない。わかるのは、伝わってくる勇者の心音がやけに早いってことと、元王様が勇者に何かしら攻撃してて、勇者が痛がってるってこと。
「ゆうちゃ!いや!だめ!」
このままでは勇者が死んでしまうと思って、僕はやめろと必死で抗議するけれど、勇者が離してくれる様子は微塵たりともない。それどころか、優しい声が闇にいる僕へと届いてくる。
「僕は、フロイを、まも……る、よ……」
違うそうじゃない。
僕なんていいんだって。勇者がいなくなるのが嫌なんだって。このわからずや!
「ナカヨク、フタリで、シヌがイイ」
怖いこと言ってる。助けて助けて助けて。誰でもいいよ。お願い、勇者を助けて!
「たちゅけてーーー!!!」
「当たり前だぜ!くらえ、貫通魔法!」
それは魔法使いだった。
服の隙間からやっとのことで顔を覗かせると、魔法使いが、杖を投げ槍みたいに元王様に投げつけていた。それは高い命中精度で額を貫いて、そして貫通して床に刺さった。何あの杖、木で出来てるんじゃなかったの?
開いたままの扉から魔法使いが最初に入ってきて、次に僧侶、そして武闘家が入ってきた。そして部屋には入らずに、あの逃げ男がドヤ顔で親指をグッと立てている。
何その、自分が皆さんを呼んできましたみたいな顔は。
「みんな……」
安心して倒れそうになった勇者を、僧侶がごつい手で支えてくれた。そしてそっと薬草を差し出してきた。いやいや、それで血が止まるなら……。
「ありがとう、僧侶」
がじり、ごくん。
止まった!嘘やろ。傷も治ってくし。あれ薬草どころかヤバい草じゃなかろうか。
懐から顔だけ出した状態のまま、僕はぶるぶると震えた。それを怖いと勘違いしたのか、勇者は僕を手に乗せるとにこりと笑いかけてきた。
「ありがとう、フロイ。もう大丈夫だ」
魔法使いが杖を抜いて、やれやれと言わんばかりに僕らに近寄ってくる。いつもなら脳筋と馬鹿にするとこだけど、今日はこいつのお陰で助かったのだし、今日くらいは脳筋と言わないでおこう。
「2人とも、怪我はねぇな?非常食もちゃんと生きてるな?」
「あぁ、ありがとう、魔法使い」
「いいってことよ。武闘家、聖水かけてやんな。王様戻るだろうから」
言われた通り、武闘家が聖水を勢いよく元王様にかける。あれで額の傷が治るなら苦労はしな……治った。世の中には、僕の知らないことがいっぱいあるもんだ。
ちなみに背中の羽も無くなったし、普通の太ったおっさんになった。戻っても腹の肉は落ちないらしい。
「フロイ、君はとても勇気がある子なんだね。昔じっちゃが言ってたよ。誰かの為に勇気を出せる者は、皆勇者だって。フロイは僕にとっての勇者だ」
柔らかく笑う勇者が、なんだかとても眩しくて。僕は恥ずかしくて、自分から勇者の懐に飛び込んだ。そこはあったかくて、なんだかとても安心出来て寝てしまった。
その後何がどうなったのかわからないけれど、とりあえず起きたら、王様からすごく謝られたのが印象的だった。