家族と僕。
見慣れた野宿の用意中、勇者がペンダントを見ていたことから、その話題は始まった。
~家族と僕。~
「ゆ、う、しゃ!おいおい、なぁに見てんだぁ?あれか、贈り物か?」
魔法使いはそう言いつつ小指を立てる。あれはどういう意味だろう。まぁ、どうせ魔法使いのことだ、ろくな意味じゃないに決まってる。
首 (ないじゃんというツッコミはなしだ) を傾げる僕を置いて、勇者は「いや」と首を横に振った。それから、そのペンダントを暗くなった空にかざして、懐かしそうに目を細める。
「じっちゃと、ばっちゃ、元気かなってね。これはばっちゃがお守りにくれたんだよ。旅に出るって言った時に、お金に困ったら売るといいってさ」
「お、じゃ早速売ろうぜ」
「魔法使いさん!?話聞いてました?これは勇者さんのお婆様がくれた大切なもので」
「金ねーから野宿なんだろ?売ろーぜ」
持ち主である勇者の意見は聞く気がないんだろうな、この脳筋は。武闘家が「もう」だの「これだから」だの言ってるけど、それで反省するなら、この脳筋は脳筋を克服してる。
つまり、無駄の一言。
焚き火をする為に、僧侶が拾ってきてくれた木に勇者が魔法で火をつける。あったかくなっていく空気に安心していると、魔法使いが、懐からお菓子(勇者が騙されて買ったあれだ)を出してかじりつきながら話し始めた。
汚い、めっちゃポロポロ落ちてる。
「で?元気なんだろ?じじいとばはあ」
「魔法使いさん!」
「まあまあ。帰ってないし、わからないかな。多分元気だと思うよ」
魔法使いはお菓子を武闘家にも渡して、それから半分に折ったやつを僕にもくれた。口にくわえてフゴフゴしてたら、さらに細かくしてくれて、それを自分の手に乗せて食べやすくしてくれた。
気が回るんだか回らないんだか、本当によくわからん奴だ。脳筋のくせに。
「武闘家は?淋しくない?」
「……えぇ」
少し悲しそうな目をしたけど、武闘家はすぐに顔を上げて笑った。
「だって、今は皆さんがいますから」
武闘家は、確か故郷を無くしたと言っていた。
行く宛もなく、町で僧侶にスリをしようとしたところを逆に捕まってしまって、まぁ今では旅する仲間なわけなんだけど。あれ?僧侶って、体だけでなく心もでかい?
「皆さん、ねぇ……。なぁ、これ終わったら俺らどうすんの?」
「え?ん?あー、考えてなかったかも……?」
苦笑いをする勇者と、これまた豪快に笑い出す魔法使い。
まぁ、僕が勇者を倒してジ・エンドなんですけどね。平和ボケしてるのも今のうちである。
「皆行くとこないなら、僕の町で一緒に住もうか?」
「いやいや、可愛い子がいないのは勘弁だし」
「わ、私を女性扱いしてないですよね、それ!」
ガヤガヤと煩くなってきた中、相変わらず無言でお湯を沸かしていた僧侶が、コップにあったかいスープを入れて差し出してきた。
それをお礼と共に受け取った勇者が、もぐもぐと口を動かし続ける僕に笑いかける。なんだろう。
「フロイ、もちろん君も一緒だ。一緒にあの町で暮らそう!」
「いっちょ……?ぼく、も?」
「当たり前だよ!」
全く。
来るはずのない未来なのに、勇者はどうしてこうも嬉しそうなんだろう。期待するだけ無駄になる未来もあるって、僕が辛い現実を突きつけてあげないと。
でも僕は。
なぜだか心がとてもポカポカしていた。