少年と僕。
これは、僕が勇者と会う前の話。
フワリン仲間でたむろっていた僕は、密輸業者によって捕まってしまった。
高く売れる僕たちは、きっとこれから酷い待遇を受けるのかと、狭く暗い箱の中で、ぶるぶる震えていた。
~少年と僕。~
他の仲間たちが売られていく中、僕は色が気に入らないとかで、売れ残ってしまった。緑より、黄色とかピンクとか水色が巷では人気らしい。
緑の何がいけないというのか、小1時間ほど問いただしたい。
残ってしまった僕は、業者と一緒に色んな町や村に行った。
でもどこに行っても、僕は、引き取られることはなかった。
ある日。
賑やかな町で、僕は奴に会った。
奴は、腰から少し豪華な剣をぶら下げてて、いかにもお金持ちの坊っちゃんって感じだ。
「すみませーん」
「おう?なんだ少年。なんか見てくか?」
「そこの、緑の子。なんて言うんですか?」
緑の子、と奴が指差したのはもちろん僕だ。
僕は興味を持ってくれたことが嬉しくて、とにかく目を引いてもらおうと一生懸命に跳ねた。静かにしてろと業者に掴まれた、痛い。
「こいつは売れ残っちまってな。安くしとくぜ」
「売れ残り……。そうか、君はお友達とはぐれちゃったんだね。僕がお友達になるよ!」
「いやこいつは売れ残りで……いや、なんでもいいや。ほら、早く金払いな」
奴は懐からパンパンの袋を出して、業者に突きつけた。それを見た業者の目の色が変わる。
坊っちゃんかとは思ったけど、どうやら本当に坊っちゃんなようだ。
袋を引ったくるようにして受け取った業者は、中身を確認すると、へらへらと胡散臭い笑いを浮かべて、僕を鷲掴みにして奴へ突き出した。
「ほらよ。それにしても少年、立派なもんぶら下げてるじゃねぇか」
奴は僕を大事そうに受け取って、それから嬉しそうに笑って答えた。
「町に来た商人さんが、伝説の剣を抜ける勇者はいないかって言ってたんだ。抜けた僕は勇者だから、明日魔王討伐の旅に出ようかと思ってて」
「あ、あー……うん、そうか。頑張れ少年」
「ありがとう、必ず魔王を倒してみせるよ」
業者はそそくさと後片付けをして、急ぎ足で町を出ていってしまった。
僕は腕の中から奴を見上げてみる。優しそうな目つきと、僕を抱く力強い腕。それから伝説の剣を抜いた才能。
「ゆう、ちゃ……?」
「うん!僕は勇者だ!」
「ゆうちゃ!」
間違いない。
奴は勇者だ。なら勇者を倒せば、もう誰も僕を弱いとは言わなくなるはず。よし。一緒についていって、隙あらば僕が倒してやる。
「ゆうちゃ、いっちょ!」
「そっか、心強い。んー、名前……フロイ、フロイにしよう!よろしくな、フロイ!」
「ゆうちゃ、ゆうちゃ!」
勇者ははしゃいでいるけれど、いつか寝首を掻いてやるんだからな。今の内に人生を謳歌するといいさ。
そうして僕は、勇者の魔王討伐の旅についていくことにしたんだ。