武闘家と僕。
武闘家。
それは己の身体を鍛え上げ、襲い来る魔物から仲間を守る存在。拳のみで闘う者や、槍や棍といった武器を使う者もいるけれど、その誰もが仲間の先頭に立って戦う。
でもこの人は違う。
持ててもその辺に落ちてる枯れ木を集める程度で、槍や棍はおろか、女武闘家に人気の扇すら持てやしない。もちろん拳で闘うなんて以ての他だ。
なんでこんな弱い奴が武闘家なのか、僕は未だにわかっていない。
~武闘家と僕。~
旅の途中で立ち寄った村で、なんでも村人が魔物に連れ去られるという痛ましい事件が起きていた。勇者は率先して「人助けだ!」と村人から話を聞き出していて、魔法使いはいそいそと食堂に向かっていく。残されたのは、ごっつい僧侶のおっさんと、箸と枯れ木しか持てない武闘家。
すると、近くを通りかかった村人A(もしかしたらBかもしれない)が、期待の眼差しで僕たちを見てきた。まさか僕が歴戦の魔物って気づいたのかも。
「ま、まさか貴方は……武闘家さんですか!?」
そっち?ま、まぁ僕は見た目可愛いからね、しょうがないね。
でも村人Aは僕でもなく、武闘家でもなく、無言で突っ立ってる僧侶の手を握っていた。うわ、ごっつ……。
「……」
「ああ、この勇ましい手!」
「……」
「この強そうな身体!」
「……」
「そしてパーティをいかにも引っ張っていそうな猛者感!」
「……」
「さすが武闘家さんは違いますね!」
「……」
違うともそうだとも言っていないのに、話はとんとん拍子に進んで、なぜか僧侶を囮役にして、魔物をおびき寄せることになった。普通は武闘家がその役目じゃないの、これ。
戻ってきた勇者も特に疑問に思わず、そして魔法使いは両手に果実を抱えて、本物の武闘家は
「囮さんは何を着れば似合いますかねー?」
なんて僧侶に服を見繕っている。皆待ってよ可笑しいと思わないの?
いや待てよ。囮役に勇者を駆り出させて、1人で待っているところを僕が倒せばいい?僕頭いい!僕は早速とばかりに、勇者の足にぐりぐり体を押し付けて、
「ゆうちゃ。そうりょ、かわいそう」
「フロイ……お前は優しいな。よし、じゃ僕と囮役になろう」
「え?ゆうちゃ、いっちょ……?」
「あぁ、一緒だ!」
え。
違う心細いとかじゃない。いや、逆に2人になれるチャンスか?とかなんとか考えている間に、僕はいつの間にか村人が消えるという場所まで連れてこられた。
嫌だ怖い、勇者を倒すまで僕は死ねないのに。
「ゆうちゃ……」
「大丈夫だよ、フロイ。皆来てくれるさ」
いやいや。
脳筋魔法使いに、非力な武闘家、それから謎僧侶に何が出来るって言うのさ。やっぱりここは僕が!
「……来た、あいつだ!」
勇者が剣を構えて立ち上がる。僕も負けじと跳ねる。
でも僕らの前に来たのは、そこいらにいる冴えないおっさんだった。
「あるぇ?生きてる人ですかぃ?」
ハゲ散らかした頭に、瓶底眼鏡のおっさんは、僕と勇者をまじまじと見て頭を捻る。服装からして、旅の僧侶っぽい。
「あの、貴方は?」
剣を戻しておっさんに聞くと、おっさんは、んん?と唸って、それから僕たちの後ろ。つまりは村のほうを目を細めて見つめた。
習って振り返ると、血相を変えて走ってくる武闘家が見えた。でも慌ててるのは武闘家だけで、少し遅れて魔法使いと僧侶も来るのが見えた。
「あんれま、今日は不思議な日だねぃ。廃村がなかったかぃ?」
「廃村?いや、僕らはそんな場所……」
覚えがないと言いかけた勇者に、武闘家が抱きついてわんわん泣き出した。
「幽霊よ!幽霊がいたの!」
「え、幽霊?」
飲み込めない僕も勇者も、とりあえず武闘家を宥めながら、うんうんと頷いているハゲ僧侶に話を聞いてみることに。
「アタシは旅の僧侶でしてねぃ、この先の村は、昔魔物の軍勢にやられてしまった村なんでさ。今でも浮かばれない魂がいてねぃ、アタシはそれを成仏させに来たんでさ」
そう。
彼らは未だに彷徨っているという。
村を襲われた悪夢の中を、魔物に1人1人やられていく中を。
それを成仏させたくて、ハゲ僧侶は少しずつ祈りで浄化をしてるのだけど、未だに生きていると勘違いしている彼らは、毎日毎日、村人がいなくなっていると思っているんだとか。
僕らは村の跡に戻った。
荒れ果てた村は、人なんか住めるような場所じゃなくて。
「じゃ、アタシは祈りますかねぃ」
「私もいいかな。昔、両親とやっていたの」
ハゲ僧侶と、武闘家が並んで祈りを捧げる。
僕はそれを見て、魔物は、人に癒しだけじゃなく、悲しいことも与えるんだってことを知った。