魔法使いと僕。
魔法使い。
それはありとあらゆる知識を持ち、いつも冷静沈着、そして勇者を補助する役目。そんな人だと思ってた。
でもこいつは違う。
脳みそに詰まっているのはご飯のことばっかりで、持っている杖で敵をぶん殴り、むしろ魔法なんて使わない。てか魔法使いなのに魔法使えないし、いつも勇者に迷惑をかけている。
しかも僕を非常食と見ている。
こんな奴が魔法使いだなんて、僕は絶対に認めない。
~魔法使いと僕。~
「ゆうちゃ……ゆうちゃ……」
穴の中から見える空はとても狭くて、そしてとても暗い。なんで僕がこんな穴に落ちたのかって?
それもこれも、あの馬鹿魔法使いのせいだ。
いつも通り、お腹を空かせた魔法使いは、あろうことか僕を追いかけ回し、撒くことは出来たんだけど、気づけば僕はこうして穴の中。勇者はご飯を買いに行ったまま帰ってきてなかったし、ついていった武闘家も見てないし。
僧侶に至っては、追いかけられる僕を見てるだけだった。ほんとあの僧侶は何考えてるんだろう。
「ゆうちゃー!」
声の限り勇者を呼んでみるけれど、虚しく反響して土に吸い込まれてくだけで、助けが来ることもなさそうだ。別に怖くないし。そうだよ、僕が勇者を倒すんだから、ここから出られないと困るし。
いやむしろ知らない間に、他の誰かに倒されているかもしれない。それは困る、とっても困る。
「ゆうちゃー!」
もう1度呼んでみる。
「おー、いたいた!非常食!」
「まほうちゅかい!やだ、こわい!」
なんと覗き込んできたのは魔法使いのほうだ。
勇者はどうしたの?勇者がいい、食べられる!もしかして勇者倒された?やだやだ、勇者を倒すのは僕なのに!
「うわーん、ゆうちゃー!」
「泣くな泣くな。今行くぞー!」
「いやー!」
降りてきた魔法使いは、僕をひょいとつまみ上げ、そして肩に乗せてくれた。僕は訳がわからず、零れる涙が魔法使いの服を濡らしていく。
「全く。非常食がいねーと、非常食の意味ねーだろ?非常食ってのはな、あるから安心するし、ないと困るもんなんだぜ?」
「まほうちゅかい……」
「さて、出るぞー。よっ、と。脚力魔法だ!」
僕を肩にのせたまま、魔法使いは地面を思いきり蹴って高く跳んだ。魔法使いの体がふわりと浮いて、僕たちは穴から出ることができた。やるじゃん、と魔法使いを見ると、ヘナヘナと倒れていって。
「腹へっ……た……」
と、そのまま寝てしまった。
「まほうちゅかい?まほうちゅかい!」
魔法使いの頭やら身体の上で跳ねてみるけど、全く効果はなくて。そのままイビキをかき出した魔法使いを見て、やっぱりこいつは馬鹿だって改めて思った。
でも今日は助かったから、勇者を呼びに行ってやるよ。
(でも元はこいつのせいなんだけど)