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勇者と僕。

 僕はフワリン。

 この世界、ハイスヴァルムによくいる魔物さ。


 見た目はそうだな、手の平に乗るくらいの球体で、点みたいな目、それから三角の耳、もふもふっとした短めの体毛。毛色は色々あるんだけど、僕は緑色。あ!足とか手はないから、跳ねる感じで移動するよ。

 あと、ちょっと話すのが苦手。


 昔はたくさん仲間がいたんだけど、僕らは弱いし、可愛くてペットに向いてるからって、人間たちに乱獲されてしまった。今では絶滅危惧種さ。


 でも僕は違う。


 可愛いからって理由で、僕を仲間にした勇者に、懐いているフリをして、油断させて、倒してやろうと日々作戦を立てているわけ。勇者を倒したら、僕は弱くないってこと、証明できるしね。


 これはそんな僕が、勇者を倒そうとしている間の、ほんのちょっとのお話だよ。




 ~勇者と僕。~




「次の街まで遠いし、ここいらで野宿しようか」


 勇者の一言で、先頭を歩いていた魔法使いがくるりと振り返った。この魔法使い、脳筋だし、魔法使えないし、脳筋だし(大事なことだし2回言うよ)、僕のほうが強いと思う。


「野宿!野宿ってことは……飯か!?飯なのか!?」


 頭の中は常にご飯のことでいっぱいだ。きっと脳みそはご飯粒の集合体に違いない。


「魔法使いさん。ご飯もいいですが、まずは火を起こさないといけませんよ」


 落ち着いた振る舞いで、いそいそと木を集め始めるのはしっかり者の武闘家。


「……」


 無言でそれを眺めているのは僧侶。いつも無言だから何考えてるかわかんないし、というか無言だから回復魔法を使ってるのを見たことがない。無言で薬草とか、傷薬とか差し出すだけ。僧侶ってそれでいいのかな。しかもガタイのいいおっさんだ。


「あーー、めーしー!」

「今これしかないんだけど、足りるかな?」


 勇者がポケットから出したのは、栄養補助食品。なんでも今、町ではこれが大流行なんだって。調理せずに食べられて、しかも保存も効く。そうお店の人に言われて、勇者が買ってたのを思い出す。武闘家がそれを手に取ってしばらく眺め、ぷんすか怒り出した。


「勇者さん、また騙されましたね!?これ、只のクッキーですよ!」

「え?でもお店の人が……」

「なんでもかんでもそうやって信じて……。これで何百回目ですか」

「飯……」


 魔法使いが僕をギロリと睨んでくる。僕も負けじと睨み返す、食べられてたまるもんか。


「まほうちゅかい、こわいっ」


 魔法使いに対して威嚇をしてやった。どうだ怖いだろう、僕は魔物なんだからな!すると勇者が僕を抱え、そのまま肩に乗せる。これで魔法使いを守ったつもりか、全く甘い、甘いぞ勇者。

 僕は今がチャンスとばかりに息を吸い込み、それを体の中の熱と混ぜ合わせて吐き出す。喰らえ、灼熱ブレスだ!

 ポワッ。


「あ、フロイ。火を付けてくれるのかい?ありがとう。でもフロイの火力じゃちょっと足りないね」


 僕のブレスを物ともせず、むしろ肩に乗せたまま、勇者は鼻歌混じりに、武闘家の集めてくれた木に手をかざす。


「炎!」


 木にあっという間に火がついて、あったかくなっていく。僕はそれが心地よくて、つい、うとうとしてしまう。早寝して、早起きして、早朝になったら寝首をかいてやる。


「ゆうちゃ……、ちゅき……」

「フロイは可愛いなぁ、お休み」


 胡座をかいた上に乗せられて、撫でられて……。


「ゆうちゃ、ゆうちゃ……」


 そのまま寝てしまった。




 次の日。

 空にお日様が登っているのを、勇者に抱っこされた腕の中で僕は見ていた。


 ま、まだまだチャンスはあるはずだ。

 勇者を倒すのは魔王じゃなく、僕なんだからな!




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