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第九十一話 如月イズミ争奪ボーリング大会

 

 来年頭には辞書の"身の程知らず"という単語の欄に例題として記載される事間違いない女、こと大田まさみから連絡を受けた我々如月兄妹と愉快なババア達が集まったのは都内某所に存在するアミューズメント施設。彼女はここでイズミとの関係性を回復させるつもりらしい、未だに抱いた抱かないに拘っている時点で君の負けだと何度も言っているのに無様に足搔いて認めようともしないため、俺が直々に手を下してやるしかないんだろう。



 この施設内で完結する競技は全てにおいて俺の方が有利、それを悟ったのだろう大田さんも男性女性の性差が影響しづらいボーリングでの決着を考えたのらしい。なかなかいい案だがどうしてボーリングだけは例外だと思ってしまったのだろう?これでもストライクを逃した事は一度しかないのに…おかしな女だ



「ボーリングで勝負だなんて、大田さんも相当自信があるみたいだね?」


「もちろんですよ、小さい頃から大人にも負けなかったんですから!」



 マイシューズやボールも持っているのはそういう事か、俺は借り物だとしてもさほどスコアに影響は無いだろうとレンタル料金を払いシューズを借りると、同様にイズミの分も用意する。しかしその後ろではまるで物乞いの様に俺の事をジッと見つめる三人衆が居た、晴香なんかも金を持っている筈なのに頑なに財布を出そうともしないので置き去りにして俺はレーンへと向かう事に…



 すると不満を述べても俺に相手にされ無いと気付いた厳島カガリとかいうイカレポンチサイエンティストがいつも通りの異常行動に打って出るのだが、今回ばかりは一般客の目すらも釘付けにするほどの強攻策を見せつけた。



 レンタルカウンターの前でまさかの大の字、大の大人が駄々を捏ねるでもなくただただ大の字で仰向けになっているのだ。これには俺も大声で叱責する訳にもいかずただただその屍とも見紛う老体を抱え上げ、三人分のシューズを借りる運びとなった。何を訴える訳でも無くその表情は真顔、真一文字に結ばれた口元は「絶対に動かんという」意志を俺に見せたのだ。



 あまりの恥ずかしさに手を出してしまったが、あのまま放置すればそのまま寝転び続けただろう事は想像に難くない。なぜなら後ろに控えた朝陽さんと晴香ですらも目の前で寝転ぶ四十の女に手出ししようとしなかったのだから



「さぁ大我さん! ここで長きにわたる因縁にも決着です!」


「さぁじゃねえよ、よく今までの流れ見て仕切り直せたな」



 もう今となっては俺よりも長い間この女たちと時間を共にしているのだから、こんな突飛な行動すらも許容出来てしまうんだろう。変な方向で順応するのは俺達と出会った頃からなので驚きはしないが同情は禁じ得ない。自分達も含め変な人間に好かれる才能でもあるのだろうか?



 まぁ本人も多分に変な人間だからこそ波長が合うのだろう。その証拠にボーリング用の服までも特注で仕立てて今回の勝負に臨んでいるのだから…それも俺以外の人数分しっかりと用意し、見たくも無いおばさんのミニスカート姿なんかを拝む羽目になっているんだからこういう所の行動力の高さは始末に負えない



「それじゃあ一ゲーム勝負で、全員同じレーンですけど気にせず楽しんでください」


「ボーリングなんて何十年ぶりだ? 今の若い奴等も案外やるもんなんだな」


「私は初めてに等しいな…運動なんて力学の証明に使う例題でしかないと考えられる訳で…」


「私も慶二さんと一度だけ来た事があるんだけど…こんな格好は初めてで…///」



 なるほど、俺と大田さんの勝負の最中にも他のおばはん連中に投げさせ、この短すぎるスカートを俺への攻撃として使おうという魂胆か。なかなかに考えたな大田さん…しかし今回の勝負はあくまでタイマン、他の人間の結果など興味の対象にはなり得ないのだから目を逸らしておけば問題はない。なによりあんな精神的ブラクラを見せつけられた後のパンチラなんぞ俺の精神を揺さぶる事は出来ないだろうしな



「それでは第一投、大田まさみ参ります!」



 その姿は確かに経験者ならではの堂に入った構えだったが、投げた球の軌道はいかにも初心者といった様子で真っ直ぐ先頭の第一ピンを狙って放たれている。これではスプリットの形に割れてしまう可能性だってあるのだ、今回は運よくストライクを取る事が出来た様だが正直負ける要素なんか皆無だとこの時の俺は確信していた。



 俺の投球順は最後尾に位置どられ、それまでは他の人間が投げ終えるのを待たねばならない。後方で待機していると案の定母親たちのスカートからギリギリ見えそうな角度で視界に捉える事になり、大変集中力が削がれた。危ない所だった、もしも大田さんの思惑に気付かずに一度でも俺の脳裏に焼き付けられてしまったらそれはそれは気が散っていただろう…しかしその凡策は俺に通じずイズミの投球を眺め…ん?待てよ…という事は同じ服を着ているイズミだって投げる際には…



「見えッ…!! ない!!」



 声の聞こえた方向を見ると前のめりで握り拳を作っている大田まさみの姿が有った。なるほど、こいつの目的は別に俺に勝利する事ではなくイズミの見せる痴態だったという訳か…こんなゲス相手にイズミをどうとか考えていた俺がバカだった。とっとと終わらせて帰ろう、こんな場にいたらイズミの体が汚れるばかりだ



 俺は前屈みのままレーンへと向かった



 おかしいなぁ…投げづらいというかポジションが定まらない。こんなにも投げづらい物かと考えたがそれもその筈、投げ終えた後の形が足を交差させるという事は様々な部分が柔軟でなくてはならないのに今の俺は諸事情により動きづらい…という事は圧倒的不利な状況で投げねばならないのか?否。この場で大田まさみは明らかなミスを犯している…そう!俺の親にまで同じコスチュームを着せた事!!あれさえ視界に納めてしまえば…



 如月大我、本日も直立する事に成功



 本来の姿勢を取り戻した俺に、そこそこ出来る程度の大田さんが勝てるわけも無く…結果は惨憺たるものだった。まさに公開処刑とも呼べるほどの圧倒的な勝利に俺はイズミの肩を抱き勝ち誇った様子で大田さんを睨みつけたが、その時の表情に違和感を覚えた…



 確かに悔しそうな表情で凹んでいる様にも見えたが、それが俺に負けたからという風に見えたのだ。いや実際俺に負けたから悔しがっているのだろうが、今回の大田さん側の目的と言えばイズミとの関係回復。しかしここに来てからは目立った形でイズミと会話する様子すら見せていない、これでは彼女に得なんか存在しない様に思えるが…?



 ふと視線を落とした時に目に飛び込んで来たのは大田さんのマイボールや今回のコスチュームを入れて来たカバンだった。まさか、そんなバカな事は有り得ないなんて思いながらも俺の想像している最悪な事態が外れてさえいればいいなと思っていたんだ。中に手を突っ込んでみると堅い機械のような感触が指先に触れ、引き摺り出してみるとそれはデジカメで…



「おい、これ」


「・・・」


「こっち見ろよこら、お前やったな?」



 大田さんは先程のカガリ同様、口を真一文字にして正面だけを見つめる人形と化している。明らかな犯罪を暴かれた事による動揺か?録画を停止し中身を見てみると完全に映っていた。完璧な角度でローアングルから撮影されていたその内容はこの中でもっとも身長の高く足も長いイズミの下着だけが撮影される様に計算された角度としか思えなかった。



 とりあえず警察に…と携帯を取り出すと真顔のまま俺の腕に縋り付いて何とか阻止しようとする。どう考えたってこんな奴が常人面しながら街中を歩いているなんて恐怖でしかないので、どれだけ顔見知りだろうが今回の件を黙認することは出来ない。厳粛に法で裁かれるべきなのだ



「じゃあ弁護士費用とかは留置所の方で詳しく相談して貰って…」


「大我さん…違うんです…これには深い訳が…」



 犯罪者とは追いつめられると皆一様に「違うんだ」と主張するが本当に違った試しは俺の経験上一度も無い。火の無い所に煙は立たず、盗撮の意思も無いのにこんな所で勝手にカメラは起動しないのだから。自分の罪を認めて早急に出所する方向で考えた方が良い



「大我さんにもお分けしますので何卒…」


「・・・」



 俺の名前は如月大我、この日本という国の治安の良さは今まで暮らしてきた国の中でもトップクラスと言えよう。今日も特に事件なども起きずに平和な日常を過ごす事が出来て大満足だ…しかし誰かから送られてきた動画ファイルが怖くて未だ開けていない。もしかしたらウイルスかもしれないので然るべき手順で開封しなくてはならないな…



 なるべくならイズミの居ない所とかで…な




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