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第八十九話 明くる朝-前編-

 


 いつも通りの朝はいつもと違う様子で始まった。朝の定期配信には如月イズミの姿は無く、そこにはどこか気怠そうで朝一番だというのに疲労困憊と言った様子の如月大我だけが、画面の向こうにいる無数の視聴者との対話を試みている。普段通りの配信に見えて、やはりどこか拭いきれない不自然さを感じたが、視聴者達もその違和感の正体に気付けないまま三十分ばかりの朝配信は滞りなく進行しあっという間に終わりを迎えた



 その後の大我と言えば「ふぅ…」と一息つくと何十年も連れ添った馴染みある自分の身体を随分と重たそうに動かし、再び自分の寝室へと帰って行った。そこで大我よりも辛そうにし、満足に体を動かす事も出来ない様子の妹・如月イズミはその開くか開かないかの目だけを動かし大我の姿を捉えた



「…すまん」


「本当にね」



 ここに至るまでに一体何が起こったかは察するに余りあるというか…若さというのは恐ろしいもので一度タガが外れてしまえば止まる道理などある訳も無く、二人は昨晩から今に至るまで一睡もする事無く男女としての仲を深めあっていたのだ。もしも定期配信の朝枠が無ければ恐らく今も…二人揃って不調の原因は若さゆえにはしゃぎすぎた事によるシンプルな疲労、イズミに至っては足腰も立たないので今日は一日ここで生活する事を余儀なくされている。



 申し訳なさそうにイズミの事をいたわっている大我だが、本人も何度かストップするタイミングは有った筈なのに止められなかった理由の一つとして、自分よりもイズミの方がそれはもうハッスルしてしまったというか…抑圧されていた感情が一気に発散された反動だろうか?何か喋り出そうとすれば有無も言わせず唇で塞がれるという乙女ゲーも真っ青な強引さで、大我もその熱に当てられご覧の有様という訳だ



「それにしても…その…///」


「何照れてんのよ。初めての相手にあれだけ激しく求めておいて」


「言うなって!!///」



 当初は慎重に慎重を重ねて、まるで医療の現場かと思うほど丁寧な対応を見せていた大我が攻勢に移った原因はイズミの「痛くない…」という予想外の反応だった。「それは脳内麻薬の分泌による一時的な麻酔効果の可能性が有るから」と言ってしばらくはうんともすんとも言わせずに抱き合うだけの時間を過ごしていた二人だが、イズミの様子を心配し本当に大丈夫かと尋ねながら大我の体が少し動いた時に、イズミから漏れ出た嬌声が命取りとなった。



 もしもボロアパートであれば床が抜けるか、建物自体が倒壊してもおかしくない程にイズミの身体を求め、イズミもまたそれに応えた。どちらかの体力が限界を迎えようとすればもう一方が求め、疲れ果て体を横たえていても互いに休む暇なんて与えずに、飽きる事無く一対のオスとメスは欲望が尽きるまで愛を喰らい深めあっていたのだ



「…なぁイズミぃ」


「無理よ!!」


「そっかぁ…」


「すっかり猿じゃないの」



 なんとかワンチャン今からでも…なんて考えていた性欲猿こと大我は気力だけで起きているイズミから一喝されてしまい、しょんぼりしんなりとしてしまった。ともあれイズミの胃は朝から元気なままらしく、寝ながらにしてもぐぅぐぅと音をたてて朝ご飯を催促している



 やはりあれだけの運動をすれば相応にカロリーも消費するらしく、二次創作などで見る機会の多かった"エッチなトレーニング"とは本当に効果が有る物なのかもしれない。まだ完全に信じ切れていない部分もあるが、この乳酸が溜まった感覚はレッグカールをした後の様でもあり筋肉の躍動を感じる。実はあの怪しいインストラクターたちも本当に痩せるためにやっていた可能性がここに来て浮上している…まぁどちらにしてもわいせつ物陳列罪なんだけども



 * * *



 朝からがっつりとした物が食べたいのは結局昨日から寝ていない為、身体としてはまだ深夜32時だからだろう。アドレナリンが出てしまいまだ眠たくない俺も、普段は滅多に食べない肉料理を朝から嗜む事に。これで再び精がついてしまったらどうしようか?なんてムラムラを抑えながら出来上がった生姜焼きを持ってイズミの所へと戻ると、目からは光が失せ死人の様にして寝転がっている。この絵面だけ見るとまるで俺がレイプしたみたいになっているが完璧に和姦だった事を改めて訴えたい



「食べられない、起こして」


「…服着てないけど」


「…まさかまだするつもりじゃないわよね?」


「・・・」


「服持ってきて」



 伝記などで語られる戦人いくさびと達が色を好んだという話を聞く度に「そんな暇あるなら鍛錬しろよ」なんて思った事は一度や二度ではないが、今なら分かる。英雄色を好むとはよく言った物で、優秀な雄とはどこまでも果てぬ欲を持ち、だからこそ強い。俺も今まさに果てぬ欲望を胸に抱いたまま前屈みになりつつイズミの着替えを取りに向かっている。



 たった一日で自分の中の価値観がこれだけ変わるとは正直思ってもみなかった。今ではなんとなく手にしているこのTシャツすらも何かとてつもなくエロい衣服の様に見えてくるし、毎日洗濯していたイズミの下着なんか今すぐ使って下さいと言わんばかりに俺の事を挑発している気さえしてくる。「そんなエロい格好してるお前が悪いだろ!」なんて暴論を吐く痴漢の気持ちとはこういう物か…と危険思想に片足を突っ込んでいる事に気付いて我に返る。昨日までの自分とはあまりに違って見える世界の変化に心がついて来ないまま、イズミの着替えを部屋の外で待つ



「もういいわよ」


「いや、さっきはすまない…流石に裸のままだと…」



 イズミの胸元はパンパンに膨らみ、下着の色やラインまでも浮き出ている。下半身はもう下着と変わらない丈の短さを見せるショートパンツ、露わになっている煽情的な太ももの肉感は俺の視線を釘付けにして決して離してはくれなかった。ふんふん!と鼻息を荒くしながらイズミの胸元に埋まる俺の首を絞め、このまま落としに掛かろうとしているイズミに気付き俺は何とか我に返る事が出来た。我ながらなんて性欲だ



「あれだけしたのにまだし足りないなんてどうするのよ」


「分かった、自分でするから見ててくれ」


「初夜の翌日にするプレイでは無いわね」



 今ではただ咀嚼している口元の動きや器用に箸を扱う右手、そっと添える左手の所作を見てもどこか官能的で淫靡な雰囲気を感じる。その手や、口を自分の物と主張する為にも俺は再びイズミの体目掛けて飛び込んだ。箸で的確に目を狙ってくるあたり本当に拒まれているんだろう、間一髪残っていた理性で躱す事は出来たが危うく失明するところだったぞイズミ



 しかし普段の俺ならもっと難なく躱す事だってできただろうに…これでは日常生活にも影響が出てきそうだと思い、本当に恥ずかしい事なんだがいつも通り経験豊富なババア軍団にコンタクトを取った。面倒だから大田さんには教えないで欲しいとお願いしたので今日は加齢臭たっぷりでお伝え出来るだろう



 つづく



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