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第八十一話 天ぷらドラフト

 


 第一回選択希望選手『舞茸』



「おぉ~!」



 ここまで全部俺が一人でやってます、如月大我です


 夏は酒の美味い季節で、冬は酒の染みる季節だと思ってるので今日も今日とて酒に合うご飯を作ろうとしてるんですが、イズミは不服そうにしてるみたいで



「楽しくない」


「こんなに楽しい遊び中々ないぞ? イズミもやってみなよ」


「・・・」



 如月イズミ第一回選択希望選手『鶏肉』



「おぉ~!」


「楽しくない」


「嘘ぉー!?」



 この会場が湧きたつ感じの歓声に震えない人とかいるんだな珍しい。誰しもあの抽選箱に腕突っ込みたいもんだと思ったのにな…



「そもそも私と兄さんが取り合っても被る訳無いじゃない」


「あぁ~…」



 言われてみれば俺がキスとか獅子唐をフリーで獲得できるんだから他の食材を逃した所で悔しくとも何ともないわ。ドラフトのシステムが破綻している



「イズミも欲しがってくれよ、どうだ俺のワカサギ羨ましくない?」


「いらない」



 こうなるとイズミから肉を奪って何とか白熱する展開に持ち込みたいけど…ベーコン天とか聞いた事無いぞ。そんなの俺が作れるとでも思ってんのか?まぁやってみるけども…



 それにしても野菜天の美味さを知らないなんてもったいないな、人生の何割かを損していると言っても過言ではないだろ。アスパラの衣だけ取れちゃう現象とか知らないで育ったんだろ?その事実だけで怖いよ



「イズミもたまには野菜も食べてみれば?」


「あ?」


「ううんヒトリゴト」



 こっわ、何だ今の顔…野菜が何したってんだ。こんな嫌われる事が有るかね



 でもニンニクと芋は野菜に含まれない逆アメリカ人みたいなルールだし複雑なんだよイズミの基準が…大根おろしも普通に食べるし、個体かどうかって事が重要なのか?



「ニンニクの天ぷらとか食べてみる?」


「…なにそれ」



 ちょっと食いついたな、やっぱりニンニクは人類皆抗えない魔性を秘めているのか。別にサツマイモの天ぷらもそこまで好きじゃないし今日はイズミのフルコースを作ってやろう



 舞茸

 サツマイモ

 ベーコン

 たまご

 ニンニク

 鶏天

 ウインナー



 些か不安に感じるのはベーコン天だけだが、ウインナー天とかもあるくらいだし変な事にはならないだろう。舞茸はいつもの様に大量に買って来てるので二人で食べようじゃないか




 それに対して俺は



 獅子唐

 ピーマン

 ナス

 キス

 トラフグと白子

 ワカサギ

 ボタン海老



 余す事無く海鮮野菜セットだ



 海老は殻まで揚げて食べられるように良い物を買って来てあるし、トラフグは調理免許を持っているので自宅で捌いてから食べるつもりだ。今日は日本酒だな



 冬に揚げ物をする利点はキッチン周りの寒さが和らぐ事に尽きるだろう、しかしその分空気が乾燥しているので火事になったら一瞬で燃え広がるに違いないのでご注意いただきたい



「イズミ、たまごってどうやって天ぷらにするか知ってる?」


「茹でてから揚げるんじゃないの?」


「それだと中に火が入りすぎて半熟には出来ないな~」



 顎に手をやって考えるイズミを待ちながら丁寧に海老の殻を剥がしていく。高級な料亭なんかでは一番最初に提供される部位なので品質の良さが如実に出る良い食材、それが海老の殻だ



「かき揚げみたいに専用の揚げる機材が有るとか…?」


「ぶー。正解はまだ生卵のこれを…」


「冷凍庫で凍らせるでした」


「そんなので出来るの? 爆発しそうなもんだけど」


「まぁこれはやってみてのお楽しみ」



 自分も幼少期にアイスの天ぷらなる物が存在していると聞いて試してみたくなったが、爆発してしまうという話を聞いて挑戦出来ずにいた事を思い出す。大きくなってから安全に配慮しつつ挑戦してみると確かにそこには衣に包まれたバニラアイスが出来上がったのだ



 小さい頃から噂に聞いてた都市伝説を目の当たりにする事が出来た興奮と共に、味が気になって天つゆも何もつけずに食べてみると「別に揚げなくていい」という感想だった。衣がめちゃくちゃ邪魔をしていてちょっぴり悲しい思い出だ



 それ以来だろうか、こんなベーコンを揚げるとかいう創作料理じみた事をしてみるのは。ベーコン自体がもう調理済みなので火の入り加減とかは気にしなくて良さそうだけど、豚肉特有の油を気にしなくてはならない



 トンカツなんかでも揚げる油の温度を気にして丁寧に作っているつもりが焦げてしまう現象に遭遇した事は無いだろうか?あれは中から出た油が焦げてしまい出来るのだ。カツの場合はパン粉でしっかりコーティングしてやるという方法があるが天ぷらの場合は…



「熱いッ! 熱いよコイツ! あっ!!」


「離れればいいじゃない」


「鍋肌から避けなきゃ焦げちゃう!!」



 ひたすら鍋肌への接触を避けて低温で揚げるしかないだろう。じゅわじゅわと溶け出す油に攻撃されながらもただ耐えるのみ。これもかわいい妹の為だ、男は辛いよではこういう事を伝えたかったのかもしれない。兄貴も辛いよ



 揚げ終えるとすぐさまイズミに提供する、銀座の名店スタイルで今日は食事していこうと思う。ベーコンって何で食べるのが正解なんだろう?すでに中身に味がついているしポン酢とかめんつゆも合わなそうだし…イズミは平気な顔で素のまま食べて鼻で笑った



「別に揚げなくていい」


「そ、そっか…」



 苦い思い出が蘇り、やっぱり変な事しないでセオリー通りに作るのが天ぷらを楽しむコツなんだろう。こればっかりはコツのいらない天ぷら粉でもさじを投げてしまったようだ



 冷凍庫から取り出した卵の殻を剥き油の中に入れると衣を纏ってから一分ほどで引き上げてしまっていい。これでしっかりとコーティングされた半熟卵天の出来上がり、イズミも本当に出来るとは…と驚いていたがこれは自分で調理してみないと意外と知らない物である



 若者からは米と一緒に食べ辛いという理由でフライよりも一ランク下げて語られがちな天ぷらだが、自分で作ってみればイズミの様に意外と米に合う天丼を作る事が出来る。とり天を基調にして舞茸や卵、箸休めにサツマイモなんかも入れて


 ただイズミが言うにはベーコンとニンニクは普通に焼いて食うと良いらしい



 イズミのお腹が落ち着いたらいよいよ放送の時間だ。今日はキッチンで揚げ物をしながらいまいち盛り上がらなかったドラフトを視聴者と楽しむ事に



「第一回選択希望選手…舞茸」


【おぉ~!】【強い】【これは競合だな】



 やっぱりこういう企画は放送でやるに限るなと思った大我であった



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