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第七十六話 北海道旅行・海鮮満喫編

 


 こんなにも目覚めが待ち遠しかった日はいつぶりだろうか?



 先日食べられなかった海鮮を食すというだけなのに胸が高鳴っている…"東京に居ても食べられる"と言われればその通りだが、北海道でしか食べられない物だってあるんだ。それがこれ




「北海道に来てまで回転寿司ね…」



「違うんだよ! 皆があまりにも『北海道は回転寿司で十分!』とか言うから気になっちゃって!」



 もしも安くて美味しいなら北海道には回らない寿司なんて存在しないだろう、そんなの眉唾だよなんて心の中ではバカにしている。北海道という土地がなんか回転寿司でも美味しくない?と思わせてるだけだんだ。目を覚ましなさい君達は




「お~いしい~!」



「そう…」



 めちゃくちゃ美味しいよこの寿司!イカに味があるってのは本当に嬉しい!なにより貝類がとにかく美味しい印象だ。これも昨日海産物を我慢していた反動だと言われるかもしれないが、明らかに生臭さを感じない



 そして安い



 平日昼間にこれだけのお客さんが居るのも頷ける、まぁ家族連れは冬休みかもしれないが、休みだとしても毎日外食させる裕福な家庭がこれだけ多くあるとも思えない。 パッと見ただけでスーツ姿の会社員も多い事から北海道の寿司屋とは日常における"プチ贅沢"の定番になっているんだろう




「イズミは何食べてるのそれ」


「ザンギ」


「から揚げ?」


「鶏ザンギ」




 ザンギってなんだ?鶏肉のから揚げにしか見えないけど…色が少し濃く見えるのは焦げでは無く漬け込みダレの色だろうか?気になったので普段回転寿司では海鮮しか食べないという変なプライドを持った俺が、珍しくサイドメニューなんかを頼んでしまった



 あぁ~…確かに普段食べてるから揚げとは"違うと言われれば違う"…でも「当店こだわりのから揚げです」と提供されたら違いは分からないかもしれない。そんなレベルだ




「イズミはなんか違いが分かる…?」



「肉食えればどうでもいい」



「まぁ…聞いた俺が悪かったわ」



 気になりすぎて調べてみると、本当に揚げる前に漬け込みダレに漬けているだけだった。これがなぜ北海道での名産品として伝わっているのかは定かじゃないが、一説によると北海道の東部にザンギ発祥の店が存在するかららしい





 美味しいとは罪だ。美味しいからたくさん食べてしまいたい、自然と満腹になるまでの時間が早まってしまう…俺もイズミの様に無限の胃袋が欲しいと思ってしまった。まだ食ってるよなんだこの子



 俺達はせっかくの観光だし、食後の運動として少しそこら辺をブラブラする事にした。食って飲んでをする為に来てしまったからノープランだったけど"北海道に来たならここに寄らねば話にならない"と言われるほどの観光名所があるらしく、是非とも行ってみようと二人で話していると案外すぐに着いてしまった




 札幌時計台に




 うん…そう。そうですか…なるほどね。なんか時計父さんっていう時計塔と父さんを組み合わせたキャラクターだけが記憶に残った。それだけだった



 どうやら札幌に来たならばここに寄ってガッカリして帰って欲しいとの事だったらしい。北海道は地域を上げて新たな観光名所を札幌に作り上げるべきだと切実に思った。



 どこが悪いとかでは無く、何もないんだ。悪い所もいい所も何もなくて、そこには札幌時計台だけがある。だから俺とイズミもリアクションの取りようがなく無言のまま踵を返してしまった



 そこまで苦労して来た訳でも無いからトラウマにもならないし夢にも出ないだろう。虚空を見つめてプラスチックを舐めてるみたいな感覚だった、恐らくこれからの人生でも数度しか味わう事のない不思議な体験が出来た事だけは感謝しよう



 気を取り直して札幌近郊で何か楽しめる場所は無いかと調べてみても、どこも東京にある店ばかりで旅行に来たというのに小さな東京に居るみたいな感覚に陥る。目の前に広がる雪景色だけが自分達の立っている場所は北海道なのだと教えてくれる



 やっぱりある程度文明が発展してしまうとどこも似たか寄ったかになってしまうんだろうと悲しく思っていると"例の店"をまた見つけてしまった



「セイコーマート…か…」



 昨日からコイツの事ばかりが気になって仕方がない。なんなんだその鶴みたいなロゴマークと目に痛いオレンジの装飾は、気になって無言のまま入店するとこの店オリジナルのラジオ番組みたい物が店内に掛かっている。有線で邦楽を流すとかじゃないのか?斬新すぎるだろ



 店内に並んでいるどの商品を見ても"北海道"という枕詞が付いている事から道内の流通に重きを置いているからここまで安価で様々な商品を供給できるのだろう。にしても札幌だけでかなりの店舗数見たので作りすぎな気もするが…さっきなんかファミマの隣にあったぞ、戦争だろうがそんなもん



「兄さん、ジンギスカン置いてるじゃない」



「あ、ホントだ…冷凍とかじゃなくてパックに詰めてるとか大丈夫なのかこの肉…?」



 ジンギスカンがまさかコンビニでも売られるほど生活に根付いてる物だとは思わなかった。よく見るとすぐ近くにはもやしも売っているのでコンビニだけでジンギスカンパーティーが出来てしまうじゃないか、もうここは北海道では無くジンギスカン国と呼んでも過言ではないんじゃないか?



 なんて楽しいんだこの店は、目新しい物ばかりで小さなアトラクションに来たみたいで目を皿にしてそこら中にある物を観察してしまう。するとまた面白そうな物が…



「クロワッサンだ…」


「クロワッサンね…」



 店の中で焼いたとか書いてるクロワッサンがレジの付近で展開されていた。セイコーマート…そこまでの設備があるのか…?しかもチョコでコーティングされたいかにも美味しそうなタイプまで隣に陳列されている



「出来たてですよいかがですか~?」



 話しかけてきやがった…店員め…東京から来た人間だと思って威嚇してるんだろうか?田舎に住んでいる人間はどうも東京に対して敵対意識があると聞く。ここで負ける訳にはいかないだろう。俺は数個カゴの中に入れ、店員に一瞥くれると会釈を返してきやがった。なんだこの野郎



 そして昨日はイズミも満足そうにしていたホットスナックのコーナーを見ると仰天のあまり腰から砕け落ちそうになった。昨日の倍以上のラインナップが売っとる、昨日は確かに深い時間だったのであんな物だろうと思っていたが今日の弁当類は一味違う



 鮭弁当、チキン南蛮弁当、豚丼、かつ丼、親子丼。おにぎりも見た事のない具材が…ベーコンおかかって絶対美味いやつじゃないか…なんで東京に作ってくれないんだよこの店…



「出来たてですよいかがですか~」



 弁当の奥の方から人の声がした。なるほど、この奥に調理スペースが作られているのか。というかよく声かけて来るなこの店は、やっぱり威嚇だろうか?やんのかちくしょう、と思いながらかごの中は弁当で埋め尽くされてしまった



 会計を終えて店を出ると弁当が冷める事を嫌いすぐさまホテルへと急ぐ。もう昼食を済ませた後だというのに、新しい物への興味からかすでに小腹が空いている。全部を食べる事は流石に出来ないだろうからイズミと分け合い食べるとしよう



 いやどれも美味すぎるだろなんだよこのクオリティ



 とにかく米が美味い、やっぱり店で炊いてるんだろうか?レンジで温めた通常の弁当なんかとは一線を画している。これは北海道しか知らずに上京して来た人達は困るんじゃないのか?東京ではこの値段で満足出来る店を探すのは骨が折れそうだと可哀想に思ってしまう



「これ…美味いよな?」



「そうね、正直カツがこれだけ分厚い事に驚いてるわ」



 そう、とにかくカツ丼のカツがめちゃくちゃ分厚いんだ、これでワンコインとか採算取れてるんだろうか?心配になってしまうよ俺は…ビバ北海道、これだけで今回の旅行には意味が有ったとさえ感じる。株に手を出すならセイコーマートを真っ先に調べようとさえ思える満足度だった



 時刻は午後二時を少し過ぎたくらいだろうか…ここから少しずつ夜に備えなくては。今日こそはどれだけ歩き回ろうとも北海道ならではの晩酌をするのだ、缶ビールで肝臓を少し慣らしながら近辺の店をイズミと二人で調べていると、またしてもジンギスカンが食べたいなんて言い出す始末



 昨日もそれで他の店には入れなかったのだから同じ過ちを犯す事なかれ、イズミを諫めると良さそうな店を見つける。北海道の海鮮を市場からのお取り寄せで楽しめるだとぉ…?ここしかない!と狙いを定めてイズミからの了解も得る事が出来た。夜が楽しみだ…




 お父さんお母さん、僕は今ジンギスカン屋の中に居ます…



 昨日通った道を歩いてしまった俺も悪い訳で…この店の前を通るや否やイズミに強行策を取られてしまったわけで…俺が店内にイズミ一人を残して別の店に行く事なんか出来るはずが無い訳で…そんな訳で…



 ジンギスカンにはビールも良いけど結局ハイボールも有りなんだなと知りました



 明日にはもう東京かと思うと寂しくなってしまうが物産展では海鮮を買って帰るんだ、と鉄の意思を胸に秘めながらこの日は眠った。フラグではない



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